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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔の戦士と伝説の戦士編
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一瞬の攻防

「問題は、果たして私に魔法が通用し、なおかつ自分が傷つかないようにする可能性だ」


 ミーシャが述べる……その言葉に、リミナは沈黙。

 けれど、おそらくこう思ったはずだ……策が、完全に看破されている。


「とはいえそうした条件をクリアしたとしても、まだ足りない。そもそも、それは対抗手段というだけであり、私に打ち勝つための切り札とはならない」


 そう言ったミーシャは、両手を左右に広げ、問い掛ける。


「……まさか自爆戦術が、そちらの切り札とは言うまい?」


 これで、双方の手の内は全て明かされた。互いが全てを読み切った状況で、果たしてこれからどうなるのか――


「これは予想外ね……」


 闘技場の会話を伝えると対策を指導したアキも憮然顔。


「まさかそこまで読んでくるとは……」

「誰かスパイでも潜り込んでいたりするのかな?」


 半ば茶化すようにノディが口を開く。それにロサナは歎息した。


「この手段を把握していたのは、試合が始まるまでは私とリミナだけよ」

「じゃあロサナさんが――」

「げんこつ食らう?」

「遠慮します」


 すぐさま引き下がるノディ。そんな様子に苦笑しつつ、俺は再度闘技場へ視線を向ける。


「互いの技は、こうして今全て表に出された。この状況で、戦うというのならば応じて見せよう」


 ミーシャはそこまで語ると両手を下ろした。


「……もう一方の案とは?」


 リミナが問う。この現状では、さすがにミーシャの提案を聞いて、相手の真意を探る他ない。


「そう難しい話ではない。私が未来予知と意識誘導を使わず、そちらが自爆戦術といった無駄なことをしなければいい」

「……それを、本当にやらないという保証はどこにもありませんよね?」

「信用してもらうしかないな……とはいえ、私の中に眠る血に誓い、約束しよう」


 果たしてそれがどの程度の意味なのか……俺は沈黙するリミナに視線を送る。その間に、ミーシャからさらに解説が加えられる。


「私としては破格の内容だと思うが、どうだ? こちらは使用していた技を封印した上で、正々堂々やろうというわけだ。そちらの方が、メリットは大きいと思うが?」

「……何が、目的なのです? そちらにメリットがないような状況で、なぜこのような取引を?」

「そう難しい話ではない」


 と、ミーシャは大袈裟に肩をすくめる。


「情報として知りたいのだよ。お前がシュウ様やラキに対抗する戦力であるかどうかを、ここで見定めたい」

「なるほど……そういうメリットがあるわけですか」


 ……ミーシャが未来予知を使わないとすれば、純粋な力勝負となるだろう。となればリミナも全力でぶつかる必要があり、それに基づいて戦力分析をするというわけだ。

 相手にとっては情報を得られる絶好の機会……けれど、それはこちらも同じだろう。


「ですがそれは、私達も同じですよね?」


 リミナが問う。彼女の言う通り、こちらもミーシャの能力をある程度分析できるはずなのだが、


「――シュウ様は、お前のことを注意すべきだと言っていた。しかし、私はそう思わない」


 自信に満ちた声が、ミーシャから届く。


「戦力分析をするなどというのは、半ば冗談だ……本当は、私にどうあがいても勝てないことを、お前にわからせる」

「力の誇示ですか……確かに、これから戦っていく中で機先を制するというやり方としては、有効だと思います」


 リミナは言うと、腰を落とし槍を構えた。同時に刃の先端が発光し、


「了承したと、受け取っていいな?」


 ミーシャが確認の問い。それにリミナは頷き、


 全く同時に、両者は体を疾駆させた。

 始まる――考えたと同時にまずリミナが刺突を決めた。あの槍は魔王の攻撃すら耐える程の力を秘めた槍。もし直撃すれば、ひとたまりもないはず。


 けれどミーシャは、それを真正面から受けた。しかし、


「その槍は確かに強力だが、剣と同様刃に当たってこそ真価を発揮する」


 彼女はリミナの持つ槍の先端――腹の部分を殴りつけ、弾いた。

 刹那、彼女は一気に懐へと飛び込もうとする。もし接近されればリミナに手立てはない。魔法を反射的に発動するという方法もなくはないが、簡単な無詠唱魔法で怯む相手ではない以上、懐に潜り込まれれば一巻の終わり――


 リミナは即座に足を後方に移し、跳び退く。けれどミーシャは追いすがる。一瞬距離を開けたが、速度は僅かにミーシャが上。これは追いつかれる――

 その間に、リミナは弾かれた槍を構え直した。同時に魔法により刃が発光し、


 途端、ミーシャが突撃を中止した。


「……ふむ」


 刃先を見てミーシャは小さく呟く。


「一瞬、魔力を感じ取ったが……どうやら、かなりの魔法らしいな」

「どうも」


 リミナは答えると槍を構え直す。その光景をまじまじと見つめていたミーシャは、


「……それには気を付けるべきだな」


 無闇な突撃はしなくなった。彼女が警戒するほどなので、余程その魔力が強力だということなのだろう。


「ねえ」


 そこでロサナの声。振り向くと、彼女と目が合った。


「リミナの魔法を感じて、後退したといったところ?」

「はい」

「そう……なら、あの槍には相当強力な魔法が入り込んでいるというわけね」

「それについて、ロサナさんは把握していますか?」

「いいえ……けどまあ、リミナがミーシャと相対して魔法を収束させたのだから、大丈夫だと思うけど」


 ロサナの言葉に、俺は一度リミナを確認。刃先が発光している槍は、ここから魔力を感じ取ることはできないのだが――


「ここまでにらみ合ったことで時間はたっぷりあったからね。リミナも最大の一撃を放つべく準備をしていたということでしょう」


 そうか……ロサナはリミナが一回戦で戦っていた時、強力な無詠唱魔法には時間が掛かると言っていた。基本直接攻撃がメインのこうした一騎打ちではその真価を発揮しにくいはずなのだが……ミーシャが交渉に舵を切ったため、それを準備する時間があったというわけだ。


 ミーシャとしても、これは予定外かもしれない……思っていると、


「……どうやら、時が経つほど魔法が強化されるようだな」


 彼女の声が、イヤホンから聞こえた。


「こちらに露見しないよう、魔力を静かに槍へと溜めていたわけだ……なるほど、私も気付かなかったよ。これは反省すべき点だ」

「なら、どうしますか?」


 ずい、と一歩前に出ながらリミナは問う。傍から見たらリミナが有利の情勢と映るかもしれないが、


「だが逆を言えば、それを避けきることができたら私の勝ちだ」


 確信を伴った声で、ミーシャは告げ走った。対するリミナは後退する――これは、賢明としか言いようがない。


 リミナの使う無詠唱魔法がどの程度の威力なのかわからないが、少なくとも一度発動したらまた魔力を溜めなければならない。彼女の戦法を理解した以上ミーシャが同じように待ってくれるとは思えないし、再度同じような魔法が使えるとは考えない方がよいだろう。


 となれば、この勝負――リミナの魔法が通用するかにかかっている。直撃しなければおそらくミーシャが畳み掛けて勝つ。なおかつ、攻撃が通用しなければ、やはりミーシャが猛攻を仕掛けるだろう。


 つまりリミナは当てなければならない上、彼女に通用しなければならない……そう考えるとリミナが不利な状況だが、果たして――


「――早いが、決めるとしようか!」


 ミーシャが一気に迫る。打ち合い始めてほんの僅かな時間ではあったが、もう勝負が決まりそうな気配。


 彼女は一本の槍と化して、突き進む。セシルがルルーナの時に見せたような鋭い走りであり、俺は限りない不安を抱く。

 そしてリミナは、覚悟を決めたか待ち構える。これで決まるという予感を抱きながら、俺は二人の攻防をひたすら見続けた。


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