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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔の戦士と伝説の戦士編
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教えられた戦法

 そして戦いは午後へと移る……次はいよいよ、リミナとミーシャの試合だ。


「ここを乗り越えれば、後の障害はラキだけね」


 ロサナが言う……ミーシャはアクアと同じブロックに配置され、何かしら対策を施してきた様子。正直アクアが負ける姿は想像できないが、用心することに越したことはない。

 となると、必然的にこの試合で決めなければならない……ルーティやオルバンを破って来た彼女の実力を、信じるしかない。


 実況の言葉により、まずリミナが入場する。既にドラゴンの騎士と『剛壁』の騎士を破った彼女に対し、観客も相当な熱狂に包まれる。戦乙女に準ずるような格好もまた、その声に見合った姿に映る。

 続いてミーシャも登場。こちらはフィクハを倒したとはいえ、やはり騎士相手に戦ったリミナと比べて歓声は少ない。けれど三回戦まで到達したのは事実であり、初期と比べても十分大きなものだ。


 やがて二人は向かい合い、にらみ合いの様相を見せる……イヤホンからは何も聞こえず、ただ両者は対峙するだけ。

 リミナが槍を構えないためか、実況も試合開始とは言わない。その間に観客の声も少しずつ静まり始め、


「……それほど、緊張はしていないようだな」


 ミーシャの声。リミナはそれに応じるべく、槍を構えた。

 張りつめた空気が、俺達の所まで到達する……やがて広間も闘技場に準ずるように次第に緊張した空気に満ち、


『――始め!』


 試合開始の声。同時に、


 ミーシャが一歩、足を前に踏み出した。


 会場がざわつき、リミナは動かず静観の構え――ミーシャは一歩だけリミナに近づいただけであり、双方はまだ、様子見といった感じだ。


「……そちらには、流星の魔女であるロサナがいる。となれば、私に対する策を施したのは百も承知」


 そうしたミーシャの声が聞こえてくる……どうも、真っ向から対決とはいかない様子だ。


「私も、与えられた命令があるからな……対策されているにも関わらず馬鹿正直に戦うのはさすがに気が退けるというわけだよ」


 ……その声音には、少なからずリミナを誘うような響きがあった。これは間違いなく――


「……戦いに対し、条件でも作るつもりですか?」


 リミナは臆せずミーシャに言葉で斬り込む。すると、


「そうだ、わかっているようだな」


 あっさりと認めた……出鼻をくじかれた格好だ。


「何て言っている?」


 ロサナが問う。俺はそこで広間にミーシャとリミナの会話を簡潔に伝えた。


「なるほど、相手もラキを優勝させるために色々と考えているわけだ」


 椅子に座り頬杖を突きながら観戦するセシルが述べる……おそらくこれは、エンスがやられたことも関係しているのだろう。


 ミーシャ自身、自分の能力が看破されているとは思っていないかもしれないが……それでも英雄に比肩する実力者の教えを受けたリミナに対しては少なからず警戒している。ましてや彼女はオルバンなどを破った、壁を超えたドラゴンの血を持つ魔法使い。だからこそ、ただ単純に戦うだけでは負ける要素があると、条件を出してきた。


「私の提案は二つだ。このまま正面からぶつかり合うか、それとも私の条件に乗るか。こちらが提示する以上、選ぶのはそちらにしよう」

「……それに、こちらが乗るとでも?」


 一歩、リミナがミーシャへ歩み寄る。油断なく槍を突き出したその姿に、ミーシャは自然体のまま続ける。


「まあ聞け。現状そちらは私の能力……もうわかっていると思うが、未来予知に近い能力を封じる策を考えてあるはずだ。そしてその目論見もある程度、こちらは看破している」


 看破――そのことを広間に伝えると、ロサナが少なからず眉をひそめた。


「敵は、私達のやり方を察していると?」

「それはまだ、わからないけど――」


 ロサナの意見に俺は首を捻った。その時、


「この勝負、リミナ……お前の、技術が全てだろう?」


 その問い掛けは……ロサナが、リミナに対し告げた最後の言葉と酷似している。まさか、本当に――


「だから、何ですか?」


 けれどリミナは淡々と受け流す。それに対しミーシャもまた冷淡に反応。


「未来予知の能力の対策はそれほど難しくは無い。一番の対策は何より、広範囲の攻撃を繰り出すことによるものだ。実際、フィクハも私に倒される前にそうした。しかし」


 と、ミーシャは肩をすくめる。


「強力な攻撃だったが、私が防ぎ切ることは容易だった。そして私は一瞬の隙を突いて拳を叩き込んだわけだが――」

「そこで、意識誘導を行ったわけですね」


 リミナの言葉――それに、ミーシャが沈黙する。

 もしや、それは隠しておきたいことだったのか……? 未来予知という部分をひけらかし、あえてその点については何もなかったように振る舞うということは――


「……ふむ、その言葉が出るとなると、やはり勇者アキの使っていた技法は、似たようなものだったか」


 けれど彼女はそれについても言及した。これによりミーシャの能力がアキの魔法に近いこと。そしてフィクハに対する戦法がこちらが把握したことになる。


「あなたの使用した技法は、全て理解しています。よって、私はそれに対抗して戦うまで……」

「しかし、それもまた十二分にリスクがある……先ほど言った通り、お前の技術次第でどうとでも転ぶ」


 語るミーシャは、少なくともハッタリをかましている風には見えない。となると、やはり予測できているということなのか?

 完全に現状は腹の探り合いとなっており……やはり、純粋な力勝負というわけにはいかないようだ。


 そこでリミナ達は双方沈黙……そのタイミングで俺は一連のことをロサナに伝え、


「……本当に、気付いていると思いますか?」


 尋ねる。ロサナは渋い顔をした。


「口上だけでは、可能性があるとしか言いようがないわね」

「……それで、どういう策を指示したんですか?」


 問い掛ける。その間もリミナとミーシャはにらみ合いを続けており、


「――自爆戦法よ」


 驚くような言葉が、ロサナから漏れた。


「鍵はリミナの技術……つまり、ミーシャにその戦法でダメージを与えられるかどうかにかかっている」

「自爆、って何?」


 もっともな質問がノディから送られる。さすがの言葉に彼女も半ば苦笑い。


「ミーシャの戦法は、わかり易く言えば未来予知で攻撃の軌道を避けながら反撃の機会を待つ……未来予知をしながら攻撃優先にしないのは、きっと確実なタイミングを狙っている……おそらく、この戦法を吟味しているのではないかしら」

「吟味というのは何?」

「つまり、この戦法がアクアに通用するかどうかということ」


 確かに、ミーシャはフィクハとの戦いでそうした点について呟いていた気がする。


「フィクハの場合を説明するけど、彼女はミーシャに攻撃が効かないとわかり広範囲攻撃を行った。そしてその結果、広範囲に魔力を拡散させた分、意識がミーシャよりもその攻撃範囲に移ってしまったわけ」

「そこを狙い、意識を逸らして懐に潜り込むのか」


 声はセシルから……戦法を解説されれば何程のことでもないのだが……それによりアクアに対抗する手段を構築しているとしたら、危険かもしれない。


「それに対処する術は、広範囲魔法を使う場合でも気を張っていることだけど、さすがに魔法を制御する以上限度がある。だから――」


 と、ロサナは含みを持たせた笑みを伴い、続けた。


「逆にミーシャへ攻撃される……タイミングを狙って、自分諸共魔法で攻撃する手段が良い、と思ったわけ。無論これは、リミナが自分のことをドラゴンの魔力により防御できるからこその戦法だけど」


 荒唐無稽――とはいえ、おそらく手持ちにある技を考慮すれば、そのような方法しかなかったのかもしれない……そんな風に思った時、闘技場で変化があった。


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