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技法解説

 爆発的な魔力が生じた結果なのか、砕かれた結界のように、視覚化された魔力が二人を中心に散らばる。けれどそれらも一瞬でかき消え、二人だけが残された。


 すれ違い動かない両者は、まるで映画のワンシーンのようであり……固唾を呑む中、先に動いたのはルルーナだった。


「……一瞬だが、私とほぼ同等の魔力収束を体現したか」


 感服、といった様子の彼女……同時に、ガランガランという音を耳にする。

 注視すると――彼女の鎧、左肩の一部分が破壊され、一部が床面に落ちていた。さらに見れば、斬られ衣服の見える部分に、血が――


「その成長能力を携え、勇者レンに挑むのか?」


 彼女が問い掛けたと同時に、セシルは振り向く。


「……そうだな。これこそ僕の、全力というやつかもね」

「そうか……わかった」


 言うと同時に、彼女は握っていた剣を、地面に放った。

 それが何を意味するのか――同時、解説がセシルを勝利者とする宣言を行い、これ以上にないくらいの歓声が闘技場内に生じた。


「勝った……か」


 ロサナが呟く。広間にいる面々は勝利したセシルを見据え、沈黙を守っている。

 俺に続いて、セシルまで――そういう考えに誰もが捕らわれているかもしれない。そして会話を聞いていた俺としては、相当ギリギリの戦いではなかったかと思う。


 セシルとしてはこの結果をどう考えているのか訊きたい所……午前は二試合だけなのでこれで終わり。昼食の時にでもゆっくり訊くとするか。


「そういえばずいぶんと会話が多かったみたいだけど?」


 さらにロサナは問う。それに俺はどう返答するか迷い、


「……セシルが話さないのなら、とりあえず何も言わないことにします」


 そう言うに留めることにした。






 セシルが部屋に戻ってきて、なおかつ昼時であったためルームサービスを待つことにする。


「どの程度まで話した?」


 俺と向かい合うセシルが問う。体に疲労がずいぶんと残っているためなのか、その声はずいぶんと重い。


「……試合開始までのことは」

「で、結局どうやって倒したの?」


 横に立つノディが訊く。他の面々は別席にいたりしているのだが、聞き耳しているのが俺にはありありとわかる。


「ま、僕自身色々とアドバイスを受けたことに従った。それだけだよ」


 セシルの返答はそれだけ。話す気がないというわけだな。なら俺も言及は控えよう。


「とはいえ、レンについては僕のことを理解しただろう」


 そして彼はなおも言う。こちらとしては頷く他ない。


「だからはっきり言っておくけど……次戦う時は、本当の意味で総力戦だ」

「……ああ、わかった」


 俺は頷いて見せる……対するセシルは、眼光鋭くこちらを見返す。

 いつもなら、殺気を含む視線なのだが……今日は違った。その眼差しに殺意はなく、代わりに凄まじい闘志が存在している。


「……一つだけ、訊いていいか?」

「どうぞ」

「セシルの考えは俺も道具を介して聞いたが……解決、したとみていいんだよな?」

「まあね」


 軽い口調でセシルは答える……が、内心はかなりの苦悩があったのだろう。


「ま、認識をしたからこそ、ルルーナに勝てたというのもあるだろうね」


 さらにセシルは言う。つまり自分が弱いことを認めたが故に、成長し勝った……ということだ。


「だからこそ……レン。僕は準々決勝を、挑戦者として戦わせてもらう」

「……へえ?」


 ノディが興味を抱いたかのように呟く。他の席にいる面々もセシルを一瞥したが……俺達が無言だったため、深く追求するようなことはしなかった。


「こちらとしては、それに応じるとしか言いようがないな」


 俺は控えめな言動で応じ、セシルは笑う。これで会話は終了し……後は、準々決勝で剣を合わせるだけとなった。

 相手がセシルであり、なおかつルルーナを倒した以上、何かしら対策を立てた方がよいのだろうか……などと考えている間に、


「さて、次はリミナだよね」


 ノディが話を振り、別席にいるリミナが反応する。


「そうですね」

「勝算は?」


 彼女と向かい合うフィクハが問う。するとリミナはその横に座るロサナへ目を向け、


「……本当に、大丈夫でしょうか?」

「対策については、教えた通りのことをやれば対処はできるんじゃない?」


 楽観的な物言い……言葉からすると、準備万端といったところか。

 その言い方に対し、フィクハは少なからず懸念を抱いたのか、ロサナへ口を開く。


「……予知能力を含め、最後の動きも気になるのですが」

「あれは……そうね。アキが戻って来るのを待って説明しましょうか」


 ってことは、アキの魔法……おそらく最後の魔法のことだと思うが、それと一緒ということなのか?

 疑問に思っていると、ノックの音。料理が来たのかと思っていると扉が開き、


「どうも」


 噂をすれば。アキが戻ってきた。途端、俺が先んじて声を上げる。


「大丈夫なのか?」

「おかげさまで。ご覧の通り服も元通り」


 言いつつ彼女は入口に立ったまま自身の法衣を指差す。発言通り、斬られた跡は残っていない。


「昼食もここで……って、どうしたの?」


 首を傾げるアキ。無理もない。ロサナが言及したため一同注目している。


「丁度あなたの話をしていたのよ」


 ロサナがアキへと話を向ける。


「ミーシャの攻撃に関する魔法のこと……ほら、さっきの試合でレンに使っていた」

「ああ、最後の魔法ですか? でも、あれとミーシャのものが同じだとは……」

「似たような魔法ってだけで完全に一致しているというわけではないけどね。でもまあ、近いから実演してみて」

「……わかりました」


 アキは唐突な要求に承諾し、まず右手を軽く上げた。それに俺が注目すると、


 ――気付けば、入口近くではなく広間の中央付近に立っていた。


「……え?」


 声を上げたのはノディ。アキのことをじっと見て、首を傾げる。


「今のは……」

「彼女はね、わざと右腕を上げてその場所を注目させることにより、意識を作為的に集中させたのよ」


 アキが解説する……俺は意識を乱しているという見解だったので、当たらずしも遠からずか。


「視線誘導という言い方もあるでしょうね。つまりわざと大袈裟に動いてそちらを注目させることにより、本命の動きを悟られないようにする。けどまあこの場にいる全員が相当の使い手だから、単に右手を上げただけでは注目しないでしょうね」

「つまり、それに加え魔法を使うと」

「正解」


 ノディの言葉にロサナは告げる。


「レン、一つ訊きたいけど、あの魔法をアキが使用して以降反応が遅れていたわね? あれはどういう状況だった?」

「……突然観客の声が聞こえなくなって、気付いたらアキが迫っていたんです。よくよく考えると、確かに一点を見据えひたすら集中していたのかもしれません」

「そういうこと……つまりアキは、魔法で相手の集中力を底上げして、その場所をただひらすらに注目させて隙を突くという手段をとったわけ……けど、レンはアキの動きに対し寸前で対処していたから、攻撃に転向すると魔法が途切れるといったところじゃない?」

「正解です」


 アキは答え、こちらに歩み寄り俺の横に着席した。


「で、ロサナさんは私のそれとミーシャのそれが同じだと?」

「やっていることは、同じだと解釈していいわ……もちろんプロセスとかは異なるけどね。フィクハに最後お見舞いした攻撃は、彼女の広範囲攻撃を突破し、そちらに注目していた虚を衝いたというわけ」


 解説したロサナは小さく息をついた後、最後にリミナへと語る。


「これに加え、未来予知に対する対策は、リミナにもきちんと説明してあるわよね? その時に説明したと思うけど、もう一度念を押しておくわ。ミーシャがその二つの魔法を使って来た時、その対抗策は……あなたの魔法を操る技術に、かかっているわよ」


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