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戦士の因縁

 一度アキの容体を確認した後、俺は広間へと戻る。入った瞬間全員の目が一斉に向けられ、


「アキは?」


 ノディが一番早く問い掛けた。


「怪我を負ったけど、治癒魔法を使う人が速やかに処置してくれたから、問題はないって」

「そっか。よかったよかった」

「……ちなみに彼女は、誰も来てくれないのかと不満を言っていたけど」

「さすがに次の試合がこれだと……誰もが席を立たなくなっちゃうよ」


 彼女の言葉に、俺は「そうだな」と同意する……ちなみにアキも次の試合を見逃したくないからだろうという予測は立てていた。そして先ほどの戦法については……怪我が癒え、広間に戻ったら説明するそうだ。まあ、たぶん俺の考えた感じだとは思うけど。


 そこから俺は右耳にイヤホンを身に着け歩み寄る。右から鳴り止まない歓声がダイレクトに聞こえ、鼓膜を震わせる。

 広間から闘技場を見下ろすと、既にセシルとルルーナが向かい合っている姿。セシルは二本の剣を抜き、一方のルルーナは剣を両手に構えている。


「……あんたに勝つつもりでいるから、よろしく」


 セシルは斜に構えつつルルーナに宣言。会場内に聞こえたわけではないだろうが、観客のボルテージがさらに上がる。

 対するルルーナは始め、無言でそれを聞いていた……が、小さく息をつくと、突然話し始めた。


「……こういう因果が巡ってくるというのは、やはりこの大会には何かがあるのかもしれないな」

「……因果?」

「そう難しい話ではない。単に私が支持していた人物と、ナーゲン殿が交流を持っていただけだ」

「初耳だ。ナーゲンさんはそんなこと一切言っていなかったけど」


 セシルは首を傾げ告げると……ルルーナはまたも小さく息をついた。


「当然だ。私がその師匠の弟子であると、ナーゲン殿の直接言ったわけではないからな」

「え?」

「ナーゲン殿ならば、私の剣捌きを見れば一目で察しがついただろう。けれど、ついぞ言及されることはなかった。私がこうして口に出さなければ。闇に葬られていた事実には違いない」


 何を話そうとしているのか……解説の人も会話をしているためか、試合開始の合図を行わない。忌憚なく、思う存分話してくれと言わんばかり。


「言ってみれば……そう。私の師匠は、ナーゲン殿に嫉妬していたのだ」

「……えらく直情的な物言いだな」


 セシルが感想を述べる。それに対し、ルルーナは俺達にもわかるくらい大袈裟に肩をすくめた。


「そうだな……どうする? この場で話してもいいが、少しばかり時間が必要だ」

「別にいいよ。こうして話しあっているとしても、観客の熱は冷めないさ。それにあんたと因縁があって戦えるなら、光栄だしやる気も出る」


 どういう意味で言ったのか……思っていると、突然横から服の袖を引っ張られた。

 見るとノディがこちらを覗き見ており、


「二人は何を喋っているの?」

「……ルルーナの師匠とナーゲンさんとの間に、因縁があるって話」

「さん付けはやめたの?」


 ロサナの本筋から外れた質問……俺は少し面倒そうに「そう言われた」とだけ返すと、


「じゃあ中継」


 ノディが言う。会話を中継しろってことだよな……広間にいる面々もこちらに視線を集めており、


「……わかったよ」


 同意せざるを得なかった。それと同時に、ルルーナの口が開く。


「ナーゲン殿も私の師匠も、ほとんど語ろうとはしなかったのだが……師匠は酒に任せ色々と話していた。両者は同郷だったらしい」

「同郷?」

「ああ。ルファイズの片田舎……両者は小さい頃からそれなりに交流があり、やがて道筋は違えど剣士として人生を歩むこととなった」


 彼女の説明を、俺は広間にいる面々に伝える……思ったんだけど、これは大丈夫なのか? まあでもここで話をやめると文句を言われそうだし、やめるわけにもいかないか。


「やがて二人は、違う形で魔王との戦いに参戦した……結果、ナーゲン殿はそれこそ英雄アレスと並び立つ程の名声を獲得した」

「ルルーナの腕を見れば、そっちの師匠さんだって相当なものだったんじゃないの?」


 セシルが問う。それにルルーナは自信があるのか、大きく頷いたのがわかった。


「確かに、師匠の技量があればナーゲン殿に匹敵するくらいの武功をあげてもおかしくなかった……が、戦った場所が悪すぎた」

「場所?」

「師匠が魔族と戦い始めたのは、大陸でも端の方だったのだよ。その地方に行けば私の師匠は確かに有名で、優れた剣士だという評価がなされているのは事実。しかし、一度その場所から出れば一転、名も知られていない戦士となる」

「時運がなかった、という感じかな」


 評したセシルに対し、ルルーナは「まさしく」と答える。


「師匠は戦いが始まり、その地方の魔族を倒した後、有名になり始めていた英雄アレスやナーゲンの所へ行こうと考え、道中も魔族を倒しつつ進んだ。しかし」

「戦争が、集結したと」


 セシルが理解したように呟くと、ルルーナはまたも頷いた。


「そうだ。一地方ではろくな軍備も持っておらず、私の師匠はそれこそ獅子奮迅の活躍で、魔族達を屠り続けたそうだ。けれど、その戦いの間に英雄アレス達の戦いも集結し……残ったのは、ほとんど名を残せなかった地方限定の称号だった」

「別にそう悲観するものでもないと思うけどさ」


 セシルがフォローするように語るが、ルルーナは首を左右に振る。


「重要だったのだよ、師匠には。実績もあり、多くの人を救い続けた自負のあった師匠は、英雄という称号を手に入れたかった。物言いは非常に悪くなってしまうが……師匠は、有名になりたかったのだよ」

「……ああ、そういうことか」


 セシルはそこで合点がいったように声を上げる。


「つまり、あれだろ? 自分は英雄ナーゲンとも劣らぬ力を有している。しかし世間の評価……自分を知っている者達も、その功績と名声の大きさから、ナーゲンよりも下だと考えている」

「そういうことだ。なおかつ戦いが終わり、ナーゲン殿はほとんど剣を振るうこともなくなった。そうした相手に真正面から勝負を挑んでも意味が無い。だからこそ、もう一つの方法で証明しようとした」

「自分の剣がナーゲンさんよりも上である、ということを示そうとしたわけか」


 イヤホンからセシルの嘆息が聞こえる……なんともまあ、人間臭い話だ。


「ルルーナの師匠がそういう人だったとは……ちなみに、本人はどうしているの?」

「ここ数年、姿は見せていないな。流浪生活を送っている人だから、探そうにも見つからないと思うが」

「……この大会を見ているかもしれないね」

「かも、しれないな」


 言うとルルーナは沈黙……一方のセシルは、軽く素振りをした後に再度質問。


「その師匠に報いるため、という名目で剣を振るうと?」

「私にとって、師匠云々についてはさして興味はない。自分のことでもないからな。とはいえ、師匠自身抱えていた不満を、少しくらいは解消したいと思っている……だからこそ、こうして話した」

「そっか……ま、戦う理由としてはいいんじゃないかな」


 セシルはそんな風に評した後、ルルーナと同じように剣を構えた。臨戦態勢……間違いなく、これから始まる。


「……最後に、一つだけ言っておこう」


 間もなく戦いが始まろうとする中で、ルルーナが一つ発言する。


「因縁は説明した……が、私はそれ以上に明確な目的がある」

「……それは?」


 問うた瞬間、ルルーナの気配が変わった――気がした。


「カインを破ったレン殿……いや、レンと、全力で戦いたい」


 言葉と同時に、セシルが発する気配もまた変わったような気がした。


「それはこちらも同じだ……悪いが、僕が勝つ!」


 声と共に試合開始の言葉が放たれ――両者は同時に駆け出した。


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