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対抗策

 俺は一瞬攻撃を仕掛けようかと思ったのだが……先にアキが行動に移す。握られた短剣が、真っ直ぐ俺へと放たれた。

 それをまずは弾く……しかし、別の短剣が俺と彼女の間の地面に突き刺さると、そこから光が生まれる。


 使い魔――俺はすぐさま後方に退きつつ、こちらに対し倍近くの身長がある人型の使い魔が出現。目を向ける。

 さらにアキは短剣を生み出し後続を生み出そうとする――その間に、最初に生み出した使い魔が一気に踏み込み、俺へと迫った。


 拳が振りかざされ、放たれようとする――のだが、こちらは至極冷静だった。すぐさま剣に魔力を収束させ、


「ふっ!」


 僅かな声と共に、剣を薙ぐ。それにより真正面に雷撃が生じた。

 雷の矢でも、弧を描く一撃でもない。見た目を言えば、それは鷲が翼を広げ飛び立つようなものであり、


 使い魔と衝突――結果、雷撃が使い魔を覆い、程なくしてあっさりと消滅する。


「……やるじゃない」


 アキが言葉を漏らす。既に二体目が生み出され、ついでに三体目も光が収束して現れようとしているところだった。

 俺は再度魔力を収束。それを見たアキは懸念でも抱いたのか少しばかり目を細め――けれど構わず二体の使い魔を突撃させた。


 真っ直ぐ、俺へと仕掛ける使い魔……それに対しこちらは再度鷲の雷撃を放つ。迫りくる一体目にまずは直撃し、見事一撃で消滅。次いで二体目も俺は後方に移動しつつ魔力を剣に加え冷静に対処。雷撃によって死滅する。


 アキを見ると、距離を置いたためかさらに使い魔が出現していた。数で押す気なのは丸わかりなのだが……俺が迎撃するペースと彼女が使い魔を生み出すペースは、現状で俺の方が上だろうか……けれど、彼女だって生み出す速度を上げることは可能なはず。


 このまま持久戦に突入すれば、魔力が尽きるまで戦うことになるかもしれない……そうなった場合、どちらが先に技が使えなくなるのか……俺はたぶんアキの方だろうとなんとなく思ったのだが、彼女は変わらず使い魔を生み出し、攻撃を行う。

 そのやり口はひどく単調だが……考える間にもさらに雷撃を放ち、使い魔を迎撃していく。


 なおもアキは使い魔を生み出し……またも目を細める。俺の攻撃速度を見て、このまま生み出し続ければジリ貧になるとでも思ったのかもしれない――彼女は突如、方針を転換した。

 新たな使い魔を生じさせ……今度は突撃させず、アキの姿を覆うように座り込んだ。俺は攻撃を仕掛ける使い魔を撃破。その間にアキは短剣を地面に突き立て、自身の周囲にまたも使い魔を生み出す。


 防戦の構えか……? 胸中思いつつ、雷撃を収束させアキへと放つ。しかしそれを、彼女は鞭を翻し雷撃へ当てた。

 雷は爆発するように炸裂し鞭が消滅するが……アキにダメージを与えることはできない。


 どうやら、あの場に立ち止まり何か仕掛けるつもりのようだ。俺はすぐさま駆け、接近するべく動いた……が、


 彼女は突如――使い魔に包まれながら、姿を消した。これは、大気と魔力を同調させる魔法――タネがわかっているためか、今度は隠すことなく使って見せた。

 会場は突然の出来事にどよめき、さらに使い魔は立ち上がって突撃を敢行。こちらは目の前の相手に対し迎撃する他なく、雷撃を収束させ――


 いや、そこで俺は使おうと思っていた魔法を中断。代わりに、今まで以上に魔力を込める。


「――おおっ!」

 裂帛(れっぱく)と共に、刀身に注いだのは雷龍――使い魔が到達しようとした瞬間、俺は剣を振りその力を解放する!

 途端、目の前に閃光が広がり使い魔を飲み込んでいく。そればかりではなく、龍は真っ直ぐアキの立っていた場所へ到達し、炸裂した。


 闘技場の中心近くが雷光に包まれ、しばし見えなくなる。観客から声が漏れ、さらに余波が光を中心にして満ちた。

 もしアキがその場に留まっていてくれれば……そんなことを思いつつも内心少しばかり心配したのだが――


 魔法が発動し終えた時、何も残らなかったし、アキの姿が見えることもなかった。

 どうやら魔法によって気配を消し、見事逃げおおせたらしい。こうなってしまえば俺には見つける手立てがない……ロサナのように気配を掴むことは、現在の所できていないからだ。


 けれど、俺は決して焦ってはいなかった。なぜならこの現状を予測し、対策を考えていたから。

 鞭が通用せず、なおかつ手持ちの魔法なら使い魔を倒すことはそれほど難しくないと考えていた。だとすれば、アキの残る手札は気配消しだけ。他の手段を講じてきたのなら都度対処していくつもりだったが、それらを使う様子は見せていない。


 で、その対策についてだが……色々と案は浮かんた。闘技場を万遍なく魔法で攻撃する――というのはアキもさすがに防ぐだろうし、それによって彼女の姿がわかったとしても、魔力消費がかなりのものになるだろう。長期戦のリスクを考えれば、採用するべき手ではないように思えた。

 他には、魔力探知能力を限界まで引き上げるとか……けど、これでアキを捉えられる保証はどこにもなかった。


 そういう思考の果てに……俺は一つの結論を導き出す。至った結果は、ひどくシンプルなものだった。


「ふっ!」


 声と共に、俺はまず地面に剣を突き立てる。アキはなおも攻撃してこない。こちらの動きを警戒しているのか、それとも接近している途中なのか。

 けど、構わず魔法を使用し、突如床面を凍らせた。そして自分を中心として円形に半径五メートルくらいを氷によって満たした後、


 魔力を流し、それを垂直に持ち上げる。無論、半透明にしてあり外の状況を窺うことはできるようにしてある。

 その状況下で、さらに魔力を流し今度は天井を作り出す……これで、俺の周囲は完全に氷によって覆われることとなった。


 この突然の行動に観客はまたもどよめき始める……けど、俺はこれがもっとも効率の良いやり方だと自負していた。なぜなら――


 バン! と、氷を打つ音が聞こえた。見ると俺の左側の壁に鞭が出現し、多少距離を置いてアキの姿があった。

 俺はすかさず魔力を込め、反撃を行う。剣を振ることで閃光が走り、使い魔を生み出していないアキへ真っ直ぐ襲い掛かる。


「っ……!」


 アキは俺に聞こえる程度の呻き声を発した後、回避に移った。しかし途中で雷撃は弾けて――拡散した余波が、アキに直撃する。

 彼女は雷撃を僅かに受けつつも、どうにか体勢を立て直して鞭を構え直した。動きがほんの少しだが鈍っている。使い魔の生成にも多少影響が出るだろうと思いつつ、俺は氷の壁を消した。


「……そういう手で来るとは、予想外だったわ」


 アキが言う――俺のやったことは至極単純で、相手の位置がわからないのなら、自分を全方位守るようにしただけだ。

 確かロサナの言葉によれば、攻撃の気配を見せた時点で魔法は自動的に解除されてしまう。それを逆手にとって、自分が殻に閉じこもることによって相手に攻撃させるよう誘導させたというわけだ。


 結果としてこの策は見事に成功し、アキを出現させただけではなく多少ながら手傷を負わせた。加え見た目に反し氷の魔法はそれほど魔力を必要とすることもなく、全方位魔法を放つよりも、ずっと魔力を節約できた。


 これで状況は俺が大きく有利となったはず……だが、アキの手はまだ残されているだろう。俺は油断なく彼女を見据え、剣に魔力を加える。


「……私は不利みたいね。けど、これじゃあ終われないわよね」


 そう告げたアキ。手はまだ残されていると確信し、俺はじっと彼女を観察し続けた。


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