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勇者対勇者

 ――翌日、俺は控室で三回戦の第一試合に出るべく準備を整えていた。予定では今日合計四試合。今まで合計八試合行われていたのだが、今日からは午前と午後で二試合ずつ行われることとなる。


 だから、試合が始まる時間も二回戦までと比べて遅い……その中、俺は装備を確認していた時、


「威風堂々といった感じだな」


 声を掛けたのは、次の試合を待つルルーナ。彼女は鎧姿で壁に背を預けて腕組みしながら立ち、俺に向け笑みを浮かべている。


「カインを倒し、フィベウス王国の騎士を倒し……次は大陸外の勇者か」

「正直、胃に穴が空くかという感じですよ……」

「強敵過ぎてか? まあ、修行の場だと思って割り切るしかないな」


 ちょっとばかり冗談を交えて呟くと、ルルーナは律儀に返答した。俺としては頷く他なく、


「……ちょっと、訊いてもいいですか?」

「どうぞ」

「こういうのを訊くのは野暮かもしれませんけど……セシルについて、どうお考えですか?」

「技量的な意味か? それならかなり保有しているし、貴殿が戦った後剣を交えることになるのだが……負ける可能性も十分あるな」


 ……これは意外だった。ルルーナ自身セシルに対しどう考えているのか始めて耳にしたのだが、てっきり「まだまだ」などと言うと思っていた。


「レン殿のパーティーの中で、貴殿を除けばセシルは抜きんでて力を所持している考えて良いだろう。時点は、おそらくリミナ殿かな」

「……リミナが?」

「なぜ聞き返す? とはいえ、本人が自信を持てないというのは、欠点と言えるかもしれない」


 ここでもリミナは高評価……改めて、彼女は一人で色々と考え過ぎていたのがわかる。


「さて……レン殿が勝てば、私かセシルと当たるわけだが……どちらと戦いたい?」


 難しい質問だ。俺は首を捻りつつしばし考え、


「とりあえず、どちらが来ても全力で戦います、としか」

「そうか。てっきりセシルを指名すると思っていたのだが」

「どうしてですか?」

「因縁が、多少なりともあるような気がしたからな」


 因縁、か。確かに勇者の試練で初めて遭遇してから、色々とあった――が、あんまり良い思い出がないような気がするのは、決して気のせいではないだろう。


「なんというか、彼はいつも闘技大会決勝でと言っていた気が」

「ははは、そうか」


 笑い声をあげるルルーナ。俺の発した光景を想像したのだろう。


「因縁というより、腐れ縁と言った方が良いのかもしれないな」

「腐れ縁、ですか。確かに最初に出会ってから幾度となく出くわしましたし、今は彼の屋敷で厄介になっていますから……あながち、間違ってはいないでしょうね」


 なんとなく、そっちの方が厄介だと思ったりもするのだが……これは言わないことにしよう。


「そして、これからもそれは続くというわけですね――」

「ストップ」


 ふいに、ルルーナは俺の言葉を止めた。


「……どうしました?」

「今更だが、別に敬語でなくてもいいぞ?」


 唐突な言葉。俺は目を(しばたた)かせながら見返すと、


「そもそもカインは敬語でないのに、同列に語られることが多い私が敬語だというのは何とも不思議だと思っていたのだ」

「カインは初めからそうしてくれと言われただけで……というかルルーナさんは、多少ながら俺に剣を教えてくれたので、剣の師匠でもあるわけなんですが」

「いやいや、さすがに違和感があるから直してくれないか? ついでに名前にさん付けの必要もないぞ? その代わり私も呼び捨てで言わせてもらおう」


 なぜ急にそんな主張をするのだろうか……ま、いいか。本人が希望していることだし。


「わかった……ルルーナ」

「うむ」


 何が「うむ」なのだろう。首を傾げようとした時、闘技場へと続く道から歓声が聞こえてきた。


「どうやら始まるようだな」


 ルルーナが語る。そして解説の男性の声が響き始めた時、


「レン、アクアなんかもタメ口でいいぞ。もし試合で戦うことになれば、遠慮なく言ってやれ」

「……なぜルルーナが言うんだ?」

「レンは闘技場内の音を聞こえる魔法の道具を持っているだろう? 実は貴殿に渡した後、別の人物……これはベルファトラス上層部の人間だが、そうした人物にも渡した。だからこそ、きちんと示しておかなければならないわけだ。勇者レンは私達現世代の戦士にも並ぶ新たな人物だと。そして私達も、対等に扱っていると」

「その人に伝えるために、タメ口にしろということ?」

「そんなところだ」

「……一応訊くけど、その人は事情を把握しているのか?」

「無論だ。シュウ殿のことも、魔王のことも知った上で観戦している」


 それならまあ、大丈夫か……そして、ベルファトラスの上層部の人間に対し、魔王に対抗できる力を持つ俺が、対等に扱われていることをきちんと示したい、といったところだろうか。

 つまり、色々な意味で期待されているわけだ……なおさら、この試合負けるわけにはいかないな。


「さて、そろそろだが……大丈夫か?」

「ああ」


 確信を伴った声で俺が応じると、ルルーナは納得した顔つきで頷いた。


「では、行ってこい」


 彼女は俺に告げ……それに応えるように、足を動かし始めた。






 闘技場に出ると、多くの声が迎えてくれた。その声は俺に対し期待を寄せるものであり……緊張はなく、ただ自然体で闘技場中央まで歩く。

 そして、反対側の入口からアキが登場した。相変わらず武器は持たず、法衣姿も以前のまま……新たな武器を使うといった策を用いてくる様子は、見た目上はなさそうだ。


 なおかつ彼女にも同様の声が掛かる。しかし彼女も緊張を生じていないようで、こちらに微笑させ浮かべながら歩み寄り、向かい合った。

 そこでこちらは剣を抜く。同時、アキが無言のまま笑みを消した。


「悪いけど、本気で行くわよ」

「……ああ」


 俺が短く応じた直後――試合開始の合図。戦いが、始まる。

 すかさずアキが仕掛ける。手を振り鞭を出現させ、慣れた手つきで俺へと放つ。


 決して規則性のある動きをしない鞭は、俺としても厄介なのだが……昨日、あれをどうやって防ごうか考えていた時、一つ思いついたことがあった。

 俺は瞬時に左手に氷の盾を生み出す。既に聖剣の魔力を流すのも慣れたもので、アキの攻撃ならば、おそらく全て防げるくらいの強度は保持している。


 しかし、軌道が大きく変わる鞭である以上、防御しきれない場合だって考えられる……そこで、一計を案じた。

 アキの鞭が確実に俺を捉え突き進む。相対して見ると、改めてその鋭さに驚かされ、まともに食らえば一発でノックアウトだと思った。


 けれど俺は臆することなく、盾を構える。同時にさらに魔力を流し、

 鞭の先端が盾に触れた瞬間――氷が、噴出した。


「っ!?」


 アキは驚き鞭を放った体勢で一瞬固まる。その間に盾から生じた氷は氷柱と化し、鞭の先端を飲み込むようにして凝固する。


「そういう――ことか!」


 アキは理解した直後、即座に鞭を消した。魔力によって構築されたそれは一瞬で消失し、俺もまた氷を解除し、通常の盾へと戻す。


 ――つまり、鞭の軌道を読むのは難しいため、ならば初めから盾で防いで包みこみ封じてしまえばいいというのが、俺の考えだった。


 これで鞭を真正面から放つような手段は俺にとって無意味とわかったはず。さらに言えば、接近戦に持ち込むと鞭は間合いの都合上使いにくくなるため、これでほぼ完全にアキの攻撃手段を一つ奪ったことになるはずだった。


「となると、私にはこれしか残されていないと」


 アキは告げると、すぐさま短剣を生み出した。あれには間違いなく使い魔を出現させる力が備わっているに違いなく……俺は少なからず警戒する。


 ここからが本番……俺はエンスと戦った時に見せた技法を思い返しつつ、柄を握り締める拳に力を込めた。


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