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力と腕輪

「さて、どう接触する?」


 ジオが問う。俺は三人と目を合わせつつ、思案する。

 入り口からそれなりに距離があるため、呼び掛けないとたぶん気付かないような状況……で、観察すると彼は一人。周囲に仲間などはいない。


「……フィクハ、気配は?」

「ない」


 俺の問いに彼女は明瞭に答えたが、視線を窓の外へ向け目を細めている。


「どうした?」

「……気配はないけど、ごめん。一つ問題があった」


 問題……? それを問い質そうとした時、フレッドがこちらへ向かって歩く姿が目に入った。

 しめた……俺は会話を中断し、どう話し掛けようか考える。その間にフレッドは近づき、そして、


 向こうと目が合った。


「あれ? レン?」

「あ、ああ」


 ちょっと声が上ずったが……どうにか平静を保ちつつ返事をする。


「偶然だな。まさかフレッドもこの店に来るとは」

「俺は街を散策して偶然見つけたんだけどな……仲間と食事といったところか?」


 問い掛けられ、小さく頷く……そういえば、ジオとルーティはどう呼ぶかも決めていなかった。さすがに本名で呼んだら気付かれるだろうし――


「――私達は、別の席へ移ることにしよう」


 そこへ、ジオが突如一方的に告げ立ち上がった。ルーティもまたそれに従い、ジオと共にフレッドの横をすり抜ける。


「……えっと、どうぞ」


 ちょっと強引じゃないかと心の中でツッコミを入れつつ……俺は目の前の席をフレッドに対し指し示す。


「実はフレッドのことはあの二人にも伝えていて……たぶん、気を遣ったんじゃないかな」

「そうなのか? まあいいや。食事は複数でした方が良いし、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 フレッドは俺とフィクハと向かい合うようにして着席。そこでなんとなくジオ達の様子を確認すると、入口近くの席まで移動していた。何かあったら対応する気だな。


「で、そっちは?」


 フレッドが俺の横にいるフィクハに視線を向ける。なので、とりあえず紹介。


「仲間の……フィクハだ」

「フィクハ? おお、英雄シュウの弟子って人物か! よく見たら戦っていた人物と格好が同じじゃないか」

「どうも」


 微笑を浮かべながらフィクハは挨拶しつつ、苦笑した。


「けどまあ、その肩書も形無しだけどね」

「相手だってかなり強かったみたいだし、仕方ないんじゃないのか?」


 フィクハの発言に対し、フォローを入れるフレッド――彼の試合は確か、フィクハの一つ前だったはずだが、格好も知っているし二回戦で敗退したことも知っている様子。よって、彼は試合が終わった観戦していたということでよさそうだ。

 しかし、試合後消えたのに観戦するというのは少し疑問が……加えてそのことを言及するのも、会話の流れて上手くやらないと怪しまれるだろう。


「フレッドはずっと観戦していたのか?」


 とりあえず、無難なところから確認しよう……彼は明快に答える。


「ああ。お前さんの戦いもバッチリ見ているぜ」

「……どうも。今後も見る予定?」

「一応な。旅費のこともあるし、最後まで見るかどうかはわからないな」

「お金がないってこと?」

「ああ。計算違いで」


 トホホな表情を見せるフレッド……ふむ、それを利用すれば所定の場所まで誘導できる、か?


「というか、二回戦くらいまではどうにかなるだろうとか思っていたんだよな……ほら、本戦出場者は宿代がタダになるだろ? それを見越して計算していた部分もあったからさ」


 へえ、それは知らなかった……まあ出場者が「宿代払えなくなったので棄権します」なんて悲惨極まりないし、当然と言えるか。


「よほど自信があったみたいね」


 ここでフィクハの言葉。それにフレッドは苦笑する。


「まあ……ただ相手があの『剛壁』だったからなぁ……頑張ったつもりなんだが」

「そういえば、変わった魔法を使っていなかったか?」


 ここぞとばかりに俺は言及。怪しまれる部分はないはずだ。


「勇者の試練の時は使っていなかったよな?」

「ん、そうだな……ほら、大会が始まる前に言っていただろ? ヘクトって人に教えてもらったんだよ」

「どういう訓練をやったのかとか興味あるんだけど」

「そう難しいもんじゃないぞ? 魔石の魔力を集めた腕輪を使って、一時的に力を開放しただけだ」


 語るとフレッドは自身の左手首を見せる。そこには黒色の腕輪が一つ。


 魔石の魔力、か……彼の言葉が本当だとすれば、なぜ魔力が魔族に似たものとなるのか疑問に感じるのだが……どうも、彼から聞き出してわかりそうな雰囲気じゃないな。


「そのヘクトって人はここにいるの?」


 今度はフィクハの質問。次いで身を乗り出し、


「その技術について、少しばかり興味があるんだけど」

「お、そうなのか?」

「英雄シュウの弟子ということで、魔法の研究なんかもやっているから」


 これは上手い……するとフレッドは「いいぞ」と何でもないことのように応じた。


「ただ、俺はやり方を教わっただけで大したことは知らないぞ?」

「その腕輪をちょっとばかり調べさせてもらうだけでいいから。あ、それとヘクトっていう人のことだけど、どういう経緯で出会ったの?」

「んー、そうだな……えっと、レンも参加した勇者の試練の後、俺はなんとなく色んな国々を回っていたんだ。で、夏に入ったくらいだったかな。ルファイズ王国のとある街で、傭兵達が集まっているところに遭遇した」

「傭兵?」

「どうも人を集めて自分の技術を教えていたらしい……ま、よくあるパターンだよ。試しに傭兵達に使ってみて、上手くいけば城に持ち込んだりするわけだ」


 肩をすくめてフレッドは言う。言い方からすると、最初はあまり良いものとは考えていなかったらしい。


「で、その中には俺の仲間もいてよ。結果、巻き込まれて使ってみたんだよ。ついでにヘクトさんは剣の腕もそれなりで指導してもらったりもして……結果としては統一闘技大会本戦出場だから、結構な成果なんじゃないか?」

「それじゃあ他に腕輪を使った人達はどうなの?」

「参加していないな。仲間内では大会に興味のある奴もそう多くないからな」


 うーん、色々と推察できるような状況ではあるのだが、話だけ聞くと誰かが実験のためにそういう道具を渡した、というだけみたいだな。魔族の力が表層に出ていなければ、俺達はスルーしていたに違いない。

 とりあえずどういう経緯でフレッドが力を手に入れたのかは理解できた。目の前で笑いながら語るフレッドを見れば嘘ではないというのはなんとなくわかるし、疑う必要性はなさそうだ。


「その人に会うこととかはできるの?」


 フィクハが尋ねると、フレッドは首を左右に振った。


「その街に行けばいるかもしれないが……」

「わかったわ。食事中に訊くとしましょう」


 フィクハは頷くと……おもむろにメニューに目を落とす。


「注文しましょうか」

「お、そうだな」


 フレッドも同意。しかし何を頼むのか決まっているのか、メニューを見るようなことはしない。

 俺もフィクハに合わせて料理の名を目でなぞるが……残る謎である、なぜ闘技場でいなくなってしまったのかについてどう訊くべきか考えていた。


 とはいえ、この状況下で話題に出すと怪しまれるだろう……仕方ない、後回しだな。

 俺は決心し、適当に料理名を見定めた後、口を開く。


「そういえばフレッド、宿は?」

「安い宿だぞ? さすがに二人を招くには狭すぎるな」

「なら色々と関わった縁もあるからさ……実は俺、現在セシルの部屋を間借りしているんだけど」

「……どういう経緯だ?」


 フレッドは眉をひそめ問い掛ける。そこから俺は経緯を話しつつ、所定の場所へ誘い込む算段を立て始めた。


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