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礼と対抗手段

 刃がオルバンの体に走った直後、俺は炎をまとい吹き飛ぶ彼の姿を捉えた。ただ通用したのかは別問題。果たして――

 刹那、オルバンは炎が舞う中で体勢を整えた。しかし、


「……結局、こうなってしまったか」


 彼が告げる――同時に、


 リミナの追撃が、オルバンが何かをする暇もなく差し向けられた。

 その一撃を避けることは、できなかったのか――オルバンはまたもその身に受ける。同時に聞こえたのは金属音――間違いなく、鎧を砕く音。


 そしてオルバンがまとっていた炎が消える。その奥に見えたのはボロボロになった鎧と、左腕に傷を負った姿。左腕は、追撃の攻撃を受けたことによるものだろう。


 どうやら、これで――認識すると同時に、オルバンは剣を地面に投げ捨てた。


「降参ですね」


 ひどく明瞭な声音……解説の声が勝利者を宣言し、観客は沸くこととなった。


「終わってみれば、安定した戦いだったね」


 セシルが息をついて椅子背もたれに身を預けた。


「ありがとうございます、リミナさん。あなたのおかげで、私が成すべきことも理解できた……負けはしましたが、悔いはありません」

「あの、その……」


 礼を述べるオルバンに対し、リミナは多少戸惑った様子。


「その、私としては、ドラゴンの力を駆使しただけで――」

「それがあなたにとって、これから戦うか否かを見定めることだったのでしょう? それは紛れもなくあなた自身の力。自信を持ってください」


 決然と告げたオルバンに、リミナは言葉を失くす――


「あなたのような圧倒的な力の前に、私は修行が足りないとわかりました。十分ですよ」

「え、えっと……」


 さらに続けられる彼の言葉に対し、リミナは戸惑うばかり。おそらく胸中を言い当てられたことに驚いているのだろう。


「私は、なんとなく察していましたよ……何せ、あなたの周りにいる方々は、新世代とはいえ名のある存在だったのですから」


 俺達のことを言っているのか……彼の言葉にリミナはオルバンと視線を交わし、動かなくなる。


「あなたもロサナ殿の弟子ということで名を連ねる資格はありだと思っていましたが……それでもなお、負い目を感じていた様子。ですが、私との戦いで理解したはずです。そう感じる必要性は、もうないと」


 言って、オルバンは一足先に歩き出す。リミナはそれを見送り……彼が闘技場から姿を消した時、足を動かした。


「オルバンは、何て言っていた?」


 セシルが訊いてくる。俺はそれを要点だけ噛み砕くべく頭を捻り、


「もう負い目を感じる必要はないって」

「負い目?」

「まあ、色々あるんだよ……ねえ、ロサナさん」

「そうね」


 嬉しそうに返事をするロサナ。弟子の成果にご満悦の様子。


 結局の所俺が励ます必要もなく、俺達は全員リミナのことも認めていたし、相応の力も持っていたということなのだろう。終わってみれば至極当然の結果とも言えるし、彼女自身が頭の中で一人悩んでいた、という形となった。


「けどまあ、吹っ切る後押しをしたのはレンだからね」


 そこでアキの声……ん? 今の言葉は――


「後押しって何?」

「何を言っているのよ。昼時に二人で部屋出たじゃない」

「……見ていたのか?」

「さあ?」


 肩をすくめるアキ……これ間違いなくカマをかけてるな。何も言わない方が無難だ。

 セシルやグレンもこちらを見たのだが、何も話さないのを見るとすぐに視線を逸らした。


「それじゃあ、気を取り直して……次はフィクハの試合だな」


 俺は椅子に座り直して言う。アキはなんだか不服そうだったが……って、ロサナまで。


「ロサナさん……言っておきますけど、単に相談にのっただけですよ?」

「そうね、相談よね」


 見ていたかのようにロサナは含みを持たせ語る……が、俺は乗らなかった。絶対墓穴を掘ることになるからだ。

 女性二人はそれからしばらく俺のことを眺めていたが――話さないと理解すると表情を収めた。よし、勝った。


「問題は、あの強化魔法をどのタイミングで使用するか、だね」


 次に口を開いたのはセシル……大地の魔力を利用する魔法のことだ。


「試合開始前から魔法を使用することはルール上禁止されているから、もし使うとすれば試合が始まってから……ミーシャが、待ってくれるとも思えない」

「魔法の道具を使って準備とかは?」


 俺の案に、セシルは「それなら」と応じる。


「道具の持ち込みについては禁止されていないし、それならルールの穴を突いたということで――」

「あの魔法は、原理的にそうするのは無理だと思うわよ」


 ロサナの横槍。無理、というのは……?


「あれは使用者の体と大地の魔力を繋げることで発動するものだから……で、当然ながら人間の魔力と同様大地の魔力は常に変化しているし、一定のやり方を道具に封じ込めるというやり方は、失敗に終わる可能性が高い」

「とすると、彼女は闘技場内で魔法を使うしかないわけだ……」


 セシルは呟きながら口元に手を当てる。フィクハがミーシャとどう戦うかを思案しているようだ。


 俺もまた彼に倣い……ひとまず、ミーシャがどういう戦法をとってくるか思考した。彼女だってフィクハの戦いぶりは見ていただろうし、一番効果的なのは……試合開始と同時に体術を駆使して接近戦に持ち込むことか。フィクハの剣技は勇者として活動するのに申し分ないが、俺やセシルなんかと戦うにはやや不足しているのが実情……付け入る隙があるとしたら、間違いなくそこになる。


 結論付けた時、今度はアキが喋った。


「ミーシャが試合開始と同時に様子を見るなんて可能性があれば、まだ魔法を使える公算はあるけど」


 それはもっともなのだが、ミーシャはフィクハの性格や技量の程もある程度把握しているだろうし、そう都合よくいかないだろうな。

 色々と議論を交わしている間に、次の次に戦うグレンが呼ばれた。彼が部屋を後にしてさらに待つことになったのだが……リミナが帰ってこない。まさか迷子というわけでもあるまいし。


「何か、あったのか?」

「だったら異変の報告があってもおかしくないよ」


 セシルが言う……それもそうか。


「ごく自然なのは、フィクハの試合を近くで見ようという魂胆なんじゃないかな」


 ああ、確かにそれだろうな――胸中同意の言葉を呟いた時、いよいよ試合が始まることとなった。

 解説の後最初に現れたのはフィクハ。勇者の格好は、やはりルルーナやジオ、リミナなんかに比べ見劣りするのだが、それでも威風堂々といった雰囲気は感じ取れ、観客も期待を集めるように声を掛ける。


 次いでミーシャが登場。黒いローブ姿の彼女だが、擬態魔法を使用している以上観客からどう見えているのか、俺にはわからない。

 両者が向かい合った直後、フィクハは剣を抜いたがミーシャは自然体のまま。試合が開始すれば体術が牙を剥くのは間違いない。果たしてフィクハに受け切れるのだろうか――


「……何か話すこととかは、あるのか?」


 ふいにミーシャが問い掛ける。けれど当のフィクハは首を振る。


「私を倒して訊く、といった意志か?」

「……そんなものじゃないわよ。ただ単に、ここで話しても私の求める答えは返ってこないだろうと思っただけ」

「そうか……正解だな。面白くない」


 その態度は、なんだかフィクハを小馬鹿にしたような感じだが……当の彼女は怒ることも、臆することもなかった。


「そうね……もしあなたに勝ったら、一つ質問に答えてもらうわよ」

「戦いに関する条件か……わかった。魔族の血に誓い、話すことを約束しよう」


 血に誓う、か……改めてミーシャが魔族なのだと認識した――次の瞬間、

 試合開始の声が、闘技場内に響いた。


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