結界突破戦
オルバンの言葉をリミナがどう受け取ったのかはわからないが……少なくとも彼が全力で応じているのだけは深く認識したか、今度は大きく後方へ跳び、さらに離れようとした。
けれどオルバンは足に魔力強化を施したか、一瞬で間合いを詰める。速度は彼の方が上。あっという間に接近され――
「ふっ!」
リミナは再度槍を薙ぎ払った。それはオルバンがまだ射程外にいる時点での攻撃。一体何を――
刹那、槍の先端から光が生まれた。この状況下で、新たに魔法を――!?
考える間に光の矢が放射される。しかしオルバンは回避する素振りは見せず、左腕をかざし、
声も無く、彼の正面に結界が形成。光の矢を、全て防ぎ切った。
そしてなおも突撃するオルバン――完全にリミナを捉え剣を加えようとしたが、
「――やっ!」
リミナの攻撃が早かった。槍を再度振ると、オルバンは剣でそれを受ける。
両者は一瞬だけせめぎあった――が、リミナが勝ち、またもオルバンは吹き飛び大きく後退。とはいえ転倒するようなことにはならず、攻撃の構えを見せたが……今度はリミナが接近する。なおかつ刃には光が――ゼロ距離で魔法を当てようという魂胆だろうか。
するとオルバンは左腕の魔力を一度解き放った。広間に伝わっていた彼の魔力が一時的に感じられなくなったが――すぐに、今度は全身に帯びるように魔力が生まれる。
「魔法攻撃に対処するため、かな?」
セシルが推測の言葉を告げると同時、リミナの槍と魔法と複合攻撃が決まった。オルバンが槍を防いだと同時に、光の矢が放出され、その全てが彼に直撃する――!
なんて容赦ない攻撃……などと一瞬思ったが、オルバンはあっさりと体勢を立て直し、なおも執拗に追撃するリミナに対し剣をかざした。
魔力を全身に収束させたことにより無傷らしい……そこへリミナの刺突が、入った。オルバンは左腕でそれをガードしたのだが、全身にまんべんなく強化を施したせいなのか、左腕一点集中よりも力が足りず、多少ながら後退した。
「……最初、僕はリミナさんとオルバンは互角に渡り合うんじゃないかと思っていた」
見た目リミナが優勢の状況で、セシルの声が。
「予想が当たった部分としては、互いに決定打がないんじゃないか、ということ。実際リミナさんはオルバンの結界を突破することはできていないし、オルバンは槍によって攻撃を阻まれている……本質的な能力はリミナさんの方が上だと思ったから、しばらく戦って膠着状態になると思っていた」
「しかし、結果は違った」
続いて声を発したのはグレン。それにセシルは頷き、
「そうだね。正直、ここまで一方的な展開になるとは予想できなかった」
「確かに、それは同感だ」
「一方的……なのか?」
俺は闘技場を見ながら二人へ問う。またもリミナの槍がオルバンを大いに後退させ、壁際まで追いやられている所。そこへセシルが解説を続ける。
「オルバンは技量で上回っているから、それでどうにか立ち回ると僕は思っていたんだよ。でも結果は、リミナさんが圧倒的に攻勢をかけている」
語る間にも、リミナの槍がオルバンを弾き飛ばす。彼は横に逃れどうにか虎口を脱し、さらに後方に移動。
「しかも、オルバンはあれだけ魔力を収束させているわけだから……限界も早いだろう。長期戦となれば負けてしまうけど、だからといって魔力を節約するような真似もできない。本来はこの時点である程度リミナさんに傷を負わせていないといけなかったのだけれど、駄目だった」
「一回戦と比べ、ずいぶんと有利な立場にいるみたいね」
アキが口を開く。彼女は頬杖を突きながらリミナ達の攻防を眺めていた。
「技量的に見れば、騎士オルバンの方が上だと思うけど」
「相性の問題、というのもあるかもしれないけどね」
彼女の言葉に、セシルは肩をすくめた。
「ルーティさんにはリミナに対抗できるだけの魔力があった。けれどオルバンにはそれがなく、防戦一方……リミナさんとしては長期戦に持ち込むことでオルバンに完封することは十分可能だ。けど――」
「間違いなく、そういう展開は望んでいないな」
俺が断言。直後、リミナが再度迫る。オルバンは再度魔力を左腕に結集させ、受けた。
両者がせめぎ合い、完全に動きが止まる。とはいえオルバンはここからも感じられる程の魔力を使用している……長時間維持するのは無理だろうし、限界が来るのはそれほど遠くないだろう。
「リミナさんとしては、槍で攻撃を加えて勝ちたいところだろうね……さて、どうするのか」
セシルがなおも呟いた、その時――優勢だったはずのリミナが距離を置いた。それと同時にオルバンは魔力を緩め、
「……不服そうですね」
告げたと同時、リミナは槍先に魔力を集め始める。
「その結界を通さないことには、私も勝てませんから」
「こちらの様子を考えれば、どういう手を打てば勝てるのかわかりそうなものですが……それをしないというのは、私の全力に真っ向勝負して、勝ちたいというわけですね」
「はい」
決然と答えたリミナ……オルバンはそれに対し無言に徹していたが、少しして態度で返事をすることとなった。
槍先に魔力を収束させたリミナに対し、オルバンは呼応するように魔力を集める――通常の戦いであれば双方が隙だらけの展開だが、互いが全力で戦いたいという思惑により、両者が力を結集させる。
「この戦いの大一番だね」
セシルが身を乗り出しながら言う。俺は内心同意しつつ、リミナの槍先に集まる魔力を眺める。
先ほどの光の矢とは、おそらく違うだろう。となれば、一体どんな魔法が――
「ロサナさん、リミナの魔法は――」
「さすがにそこまでは予想できないわ。けど、矢のように魔力を拡散させるようなやり方ではなく、槍先に収束させて攻撃するタイプのものではないかしら」
俺の質問に答えた彼女は、小さな笑みを浮かべた。
「これで通用しなければ、リミナとしてはもう手が無いと言える状況だけど……それほど心配していないのは、なぜでしょうね」
「……親馬鹿ならぬ、師匠バカ――」
「何か言った?」
セシルの声にロサナは反応。それに彼は首をすくめた。
直後――リミナとオルバンが同時に、走った。まるで双方が示し合わせたかのようなタイミングだったが、間違いなく偶然に違いない。
これで決まる――俺が胸中で確信にも似た予感を抱いた直後、槍と剣が衝突した。同時に生じたのは、オルバンは虹色の盾。そしてリミナは、槍を中心として渦を巻く炎を出現させる。
「オルバンは斬撃に結界を乗せ、リミナは炎を乗せたか――!」
ロサナは興味深そうに呟くた時、リミナの槍先から炎が上空へと噴出する。一体どれだけの力を集中させているのかわからないが、巻き上がる炎だけでも相当なレベルだと認識させられる。
しかし、その攻撃も結界を使用したオルバンの前では――いや、よく見るとリミナの槍が、せめぎ合うオルバンを僅かに押し返していた。
「このまま勢いに任せれば……リミナ!」
ロサナは確信を伴った声で叫び、合わせて俺は窓の外を食い入るように見つめる。
右耳からは結界を破壊しようとするリミナの声が聞こえる。そして――
再度、炎が舞った。直後、それが結界を大きく舐め回し、
今度こそ、虹色の結界が――砕けた!
体に力が入った直後、リミナは斬撃をオルバンへ放つ。彼はそれを剣で受けたが――結界が壊された余波か完全に流すことができず、
鎧に、槍の一撃が斜めから加えられた――