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絶対的戦士と魔の騎士

「正直、こういう探り合いは苦手なんだよね」


 軽口――それに合わせるように、向かい合うルルーナは肩をすくめる。


「言っておくが、こうした対峙が長引けばそちらの不利となるぞ?」

「わかってるよ」


 子供っぽい声と共に、ノディは前傾姿勢となった……が、

 すぐに元に戻ってしまう。やはり、攻撃できないか――


「それで、ノディはどちらの方法でいくつもりだ?」


 問い掛けるルルーナ……やはりリュハンが提示したやり方を思いついているらしい。


「どちらもメリットがありデメリットがある……魔族の力だけで戦うなら、力押しのみとなる。だが、果たして私に通用するのか――」

「無理だろうね」


 ノディが、あっさりと言う。それにルルーナは「ほう」と感嘆するような声を上げた。


「自認しているのか……となれば、組み合わせる方か? こちらの方が確かに勝機はあるかもしれんが、短時間しか戦えないだろう?」

「駆け引きするつもりもないよ」


 ルルーナの言葉に、ノディが断じる……会話が止まり、両者の間に沈黙が流れ始める。

 ノディ自身断じているのだから、おそらく組み合わせるという方法を取る可能性が高い。そこで俺は、リュハンに質問する。


「リュハンさん、組み合わせることでどういった効果が?」

「……私が知っているのは全身の強化だ」

「強化……魔族の力によって、人間の魔力を使うよりも大幅な強化が望めると?」

「そういうことだ。しかし魔力を組み合わせるというのはかなり難しいため、それを維持するだけでも大変であり、魔力の消費量も激しい……ノディは常人と比べれば確かに魔力量は多いが……それでもこの手法の経験がないノディでは、維持できる時間はそう多くないだろう」


 解説する間に……また、ノディの声が聞こえた。


「二回戦であなたと戦うと知って、ずっと考えていた……普通なら勝てる相手じゃない。けどまあ、目の前で現世代の戦士がやられたところを観たら、私も奮起しなきゃとは思ったわけ」

「レン殿のことだな……ならば、どうする?」

「――こうするのよ」


 ノディは答えた直後、またも前傾姿勢となって――跳んだ。そしてまっすぐルルーナへ迫り、剣を薙いだ。

 それをルルーナは容易く弾く。けれどルルーナは突進をやめず、彼女目掛け体当たりを決めようとする――


「無駄だよ」


 ルルーナの声。同時に一瞬で見切ったのか彼女はノディの横を易々とすり抜け、かつその腹部に一撃入れた。

 その衝撃によってノディは体勢を崩す――けれど転倒するには至らず体を反転させてルルーナのいる方へと向く。


「身体能力が向上しているのはわかるが、完全に制御できていないようだな。容易に動きを見切ることが――」


 ルルーナが評した次の瞬間、

 ノディは再度接近を試み、ルルーナの眼前へと到達。今度は彼女の正面で停止し、剣を振る。


「通用は――」


 ルルーナが剣で応じ二つの刃が交錯した直後――驚くことに、今度はルルーナの剣が爆ぜた!


「っ……?」


 ルルーナの、驚愕するような小さな呟き。その間にノディは素早く剣を引くと横薙ぎを決める。けれどルルーナは素早く剣を引き戻し正面からぶつかり、

 今度は、ノディが大きくたじろいだ。


「くっ!」


 ノディが体勢を立て直す間に、ルルーナが前に出る。剣を両手に構え、しっかりと足をつけ勢いを乗せ、

 斬撃が、下から上へ放たれた――流れるような動きであり、武術の型でも見ているかのように格式ばったものだ。


 それをノディはどうにか剣により防御した。俺の耳に金属が軋む嫌な音が聞こえたかと思うと、ノディは体勢を崩しつつも足を後方に移し、大きく跳び退くことに成功する。


「……なるほど、な。確かにそれなら、私に刃が届くかもしれない」


 ルルーナがゆっくりと体勢を戻しながら言う。一体――


「だが、そんなことをすればさらに消耗が激しくなるだけだぞ?」

「……リスクは、承知の上」


 問い掛けに、ノディは決然と応じた。


「レンとの戦いを観て、私も無茶しなきゃ勝てないとわかったし――ね!」


 声と共にノディが疾駆する――そこで、俺は先ほどの光景を思い返し頭で理解した。


 接近する時は魔力を組み合わせ身体強化……そして斬撃を放つ時は魔族の力を武器に乗せ攻撃する――だからルルーナに剣を放ってそれが弾かれた時、彼女は大きく崩れた。それは剣に力を集中させたことにより、身体強化が解けたことを意味しているのだろう。


 それぞれの能力についてオンオフはできるみたいだけど……どうやら併用はできないらしい。訓練が足らないのか、構造的に無理なのか――


「レンが『桜花』を使う時と比べても、強化能力が落ちているようだな」


 そこでリュハンが述べる……俺と同様察し、能力の落差が激しいことにも気付いたようだ。


「この場にいる面々は身体強化を重点において戦っているようだが……ノディについては、まだまだ検討の余地があるようだ」


 告げた時、またも右耳から金属音。見ると、今度はルルーナがノディを弾き飛ばしていた。


「そう易々と魔力の流れを捕捉できては、通用しないぞ!」


 魔力の流れを看破され、吹き飛ばされたらしい……これで、ノディは一層不利になる。

 奇襲同然の攻撃によって一度は形勢を作ったが、やはりルルーナ相手では長くはもたない――そればかりか、


「……あの手法は、シュウ達相手に使い続けるのは難しいかもしれないな」


 リュハンから、手厳しい言葉が漏れた。


「魔族の力を活用するといっても、所詮は人間が考えた小手先……魔族の力は私達人間にとって、解析や理解できない領域というものがあるはずで……本当に力を引き出したければ、それこそ魔族に直接訊くしかないが――」


 その言葉と共に、俺は高位魔族であるジュリウスの言葉を思い出した。

 高位魔族の力――ノディがそうした血を継いでいるのかは不明瞭だが、人間の血が混ざっている以上、現在は下級魔族程度の力しか扱えない……けれどもし高位魔族の力を継いで、それを最大限に使えれば――


 ヒントを聞いた時点で、ジュリウスにその点についても訊いておくべきだったか……後悔したが、今更考えても仕方がなかった。

 ルルーナの剣がノディの突撃を止める。遮二無二攻撃し続けたノディだが、その一撃で完全に動きを止められてしまう。


「最早手はないか……? どうする?」


 ルルーナは言うと同時に押し返した。それにノディは大きく後退し……遠目から見ても、肩で息をしているのがわかった。


「短時間ではあったが、私についてこれたのは認めよう。だが、理解できているはずだ……こんなやり方では、いずれ限界が来る。今後戦うはずの相手に、対抗できないと」


 リュハンの言葉をなぞるようにルルーナは言う。対するノディは無言。


「他に手法が無ければ、私に勝てる要素はないな……終わりにするか?」


 彼女は問いながら剣を構え直す――そこで、俺は眉をひそめた。ルルーナはどこか、ノディを誘っているようにも見えるのだが。


「……そうやってわざと煽りレートを釣り上げるのは、癖なの?」


 ノディが吐き捨てるように質問。それにルルーナは「そうだ」と答え、


「全力で戦ってみたいというのが本音だよ……そちらが仲間に見えない所で何かをしていたという情報は、キャッチしているさ」


 言って見せた……え?


「しかし、他の面々と比べ思い切った手を取ったと見るべきか……これからシュウと戦う上で、当然とみるべきか――」


 言った直後、ノディは突然左腕をかざす。そこには装飾品の類などもなく、俺としては首を傾げる他なかった――が、

 次の瞬間、彼女の左手が――淡く、青色に発光し始めた。


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