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圧倒的力と彼女の策

 自分の魔力であるからこそ、使い魔の魔力に合わせ鞭の色を変え、溶け込ませる……そしてエンスが使い魔を倒そうとするところを見計らい、鞭を使い魔から放出し攻撃を、当てた――


「っ……!」


 エンスがほんの少しだけ声を上げるのが右耳のイヤホンから聞こえ――同時、その体が鞭の衝撃によって吹き飛ばされる。

 地面へ滑空するような角度であり、体は勢いよく石床に叩きつけられ、彼は数度バウンドしてようやく止まった。


 直後、咆哮のような観客の声が聞こえる。これで決まったか……と思った直後、ゆっくりとエンスが立ち上がる。


「やれやれ……油断していましたよ」


 彼は左手で服についた埃なんかを払う。


「鞭の先端を忍ばせ、私が斬りかかるタイミングで攻撃ですか……魔力のみのゴーレムだと、そういう使い方もあるのですね。勉強になりました」


 エンスは言うと、軽く肩を回した後戦闘態勢。見た所ダメージは無いが――

 刹那、使い魔がゆっくりとした足取りでエンスへ歩み始める。一方のアキは新たに使い魔を生み出すようなことはなく、再び短剣を両腕に生み出して様子を窺っている。


 ここから彼女はどう動くつもりなのか……じっと注視していると、エンスが先に行動を開始。最後の使い魔へ向け、一気に迫る。

 アキは即座に短剣を放とうと腕を振る――直後、


「まさか二回戦で使うことになるとは思いませんでしたよ」


 エンスが言う……それはどこか、切り札でも使うかのような声音。

 そして彼は走りながら剣を頭上に掲げた。眼前にはアキの使い魔。一体、どうする気なのか――


 アキに彼の呟きが聞こえたのかはわからない。けれど何かを感じ取ったのか投擲を中断し、防御の姿勢を取ろうとして、


「――終わりです」


 エンスの声が、しかと聞こえた。

 使い魔の拳とエンスの剣が激突する。瞬間エンスの剣から青い衝撃波が生じた。


 それは一瞬で使い魔を飲み込む――威力の程はわからないが、少なくとも使い魔は潰されたとみて良いだろう。

 そう考えた直後、衝撃波は留まることを知らず扇状に広がっていく。そして、


 津波のようにアキの立っている周囲全てを包囲し、飲み込もうとする。


「――アキさん!」


 リミナが声を上げ、身を乗り出す。他の面々が険しい顔をする中、アキの体が衝撃波に飲み込まれ、


 直後、爆発が生じた。


 青い波が侵食した範囲が突如火柱のように上空へと昇り、扇状に広がった場所全てを包みこんだ。爆発音により歓声すら耳に入らなくなり、観客の中には耳を塞ぐ者もいた。


「大丈夫なのか……これは……?」


 俺は思わず呟き、エンスへ目を移す。攻撃はきっちりエンスを巻き込まず……いや、攻撃範囲を扇状の範囲に限定し、アキの周辺だけを青い衝撃波が包んでいる。


「攻撃をしっかり制御できているというのは、驚嘆すべきことね」


 次に声を発したのは、ロサナだった。


「あの攻撃範囲から、一切魔力が逸脱していない……相当なレベルで制御できているという証」


 ……確かに俺の場合、攻撃範囲をきっちり設定するというのは難しいし、特に広範囲系の魔法だと細部を調整するなんて不可能だ。それをエンスはいとも容易くやっているとなると――


「これで、終わりですか?」


 エンスが剣を軽く素振りしながらアキのいる方向へ尋ねる。


「今の攻撃は結構気合を入れましたからね……やはり勇者といえど、あれには――」


 告げた直後、衝撃波が糸が切れたかのように収まる。そして青が俺達の視界から一瞬で消え失せ、アキの姿が見えた。

 彼女は片膝立ちとなり、両の短剣を地面に突き刺していた。それにより透過性のある使い魔が出現していたのだが……それが、彼女を結界のように守っていた。


「なるほど、そういう使い方もあるのですか。面白い」


 エンスは興味深そうに呟くと、改めて剣を掲げる。


「……それが、あなたの力というわけ?」


 すると今度はアキから問い掛けが。対するエンスは姿勢を維持したまま返答。


「そう思ってもらってもいいですよ」


 柔らかい口調で答えた直後――エンスは、地面に剣を叩きつけた。直後青い衝撃波がまたも生み出され、

 さらに、エンスは容赦なく二度三度と剣を薙ぐ。それにより、同様の衝撃波がいくつも重なって生じ始める。


「連発……!?」


 あんな攻撃を際限なく撃てるのか……!?


「なるほど、これは厄介だわ」


 途端に答えたのはロサナだった。


「アキが防いだから威力はわからないけれど、あんな攻撃を溜めも一切なく連発できるというのは、騎士団や戦士団を壊滅させるには十分な力でしょうね」

「確かに、彼一人で相当無茶やれる気がするな」


 グレンが言う。その間も攻撃は続き……衝撃波で、エンスの正面が埋め尽くされる。

 攻撃範囲はまたも扇状……当然アキは回避できず飲み込まれて見えなくなり、延々と攻撃を食らい続けている。この状況下で反撃するのも難しいだろうし……アキ――!


 心の中で叫んだ時、ふいにエンスが動き、


「無駄ですよ……!」


 声と共に後退し――衝撃波を突破し突き進む鞭を、彼は剣で弾いた。見えない隙を突いて攻撃を仕掛けたが、それも徒労に終わる……万事休すか……?

 エンスはそこで攻撃を停止し、すぐさま衝撃波が消える。煙さえ生じないそれは俺の目には奇異に映りつつ……アキの立っていた場所に視線を送る。


「……え?」


 そして、小さく声を上げた。彼女の姿が……ない?

 いなくなったために会場がざわつき始める。当のエンスもこれは予想していなかったのか、周囲を見回しアキの姿を捉えようとする。


「……一体、何が――」

「全員、目を凝らしてエンスを見なさい」


 俺が口を開いた直後、決然と告げたのはロサナだった。


「もしかするとこの攻防で……勝負が決するかもしれない」


 勝負が――アキがいなくなっている状況で、ロサナの目には彼女がどこにいるかわかっているのか?


「透明にでもなっているんですか?」


 セシルが会場に視線を送りながら問うと、ロサナは「そう」と答えた。


「大気の魔力に溶け込んで気配を断つ……魔法の道具を使っているのだと思う。エンスが見回しているということは、彼にも十分通用しているようね」


 そういうからくりなのか……考えつつ俺は闘技場に目を向ける。

 エンスはいまだ周囲を見回し続ける。けれどやがて……自然体となり、さらに俯いて動かなくなった。


「気配を読むべく意識を集中させたというわけか」


 セシルが言う……その時、会場も潮が引き始めたかのように静まり返っていく。

 やがて奇妙な静寂が闘技場を支配し……エンスはそれに呼応するように、完全に体の動きを止めた。


「……まだよ」


 ロサナが呟く。彼女にはアキの動きが見えている……だからこそ、軽々に仕掛けるなと呟きを発している。

 俺はじっとエンスを注視。気配を感じ取ることなんてできないが、それでも変化が起こるのは彼の立っている周辺であるのはわかる。


 俺達のいる広間も、闘技場同様静寂が支配を始め、事の推移を見守るような状況へと変貌する――そして、


 ヒュン――右耳から風切音が俺の耳に入り、

 エンスが、瞬間的に剣を振った。狙った場所は背後で、回転しながら一閃する――!


 そして甲高い音が聞こえ、短剣が吹き飛ぶ……けれどアキの姿は無い。短剣のみ――


「な――」


 エンスが呻いたその時、確実に隙が生じた。それにアキは食らいつき、

 反転した彼の背後に、出現。その手には短剣が握られ、


 エンスが反応した直後、短剣が彼の首筋へと突きつけられた。


「あっ……!」


 刹那リミナが驚嘆の声を上げ、俺達の誰もが固唾をのむ……そして、


「……参りました」


 エンスが言う……同時に、アキを勝利者とする声が、会場に響いた。


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