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勇者の使い魔

 アキが試合開始と同時に、すぐさま鞭を生じさせまずは先手。地面を這うようにして襲い掛かるそれは、紛れもなく首に食らいつこうとする蛇そのもの。


 けれどエンスはそれを跳んでかわす。そして空中に超然と立ち、


「様子見というのはやめておいた方がよさそうですね」


 端的に言うと、空中を蹴りアキへと襲い掛かる。

 鞭を引き戻すのには時間が掛かる……どう対応するのか注視していると、アキは鞭を消し両手に短剣を生み出した。


 それで防げるのか――考える間にエンスの剣がアキへ届く。彼女は短剣をクロスさせて防ぎつつ、横へ逃れた。一方のエンスは地面に着地した瞬間、再度突撃を敢行――!


「力押しで勝てると考えているのか……?」


 俺は呟きながらエンスへ注目。こちらはアキに対しひたすら突進を続けている。策も何もあったものではない愚直なまでの攻勢……果たして、これが何を意味するのか。


 アキも負けじとエンスの攻撃を捌き続ける……が、やはり防戦一方であり、最初の激突はエンスの軍配のようだ。

 ここからアキはどう立て直すのか……その時、彼女が動いた。一瞬の隙を突くと、右手に持っていた短剣を、投げる。


 だがエンスは易々と体を傾けかわす。そして短剣は地面に突き刺さり、その役目を終え消え――

 と思った瞬間、突如短剣が発光した。それに背を向けているエンスも察したらしく、剣の動きを止める。


 その間にアキは彼の間合いから脱し――光る短剣に、変化が訪れた。


「単純な打ち合いだったら、私は間違いなく負けるでしょうけど……ま、正攻法で勝とうなんてレンみたいなことは考えていないから」


 告げた直後、短剣が突き刺さった場所から青く濃い光が昇り始める。それによって観客はどよめき、エンスもアキとその光を交互に見始めた。

 光はやがて形を成し……目算三メートルくらいの、人形のような形へと変貌する。


「魔力だけで構成した……ゴーレムといったところですか」


 エンスは極めて冷静に分析する……その間に、俺は他の面々に意見を求めた。


「あれって……」

「物質を伴わない、純粋な魔力だけの使い魔ってところね」


 答えはロサナから……腕を組み、その視線は使い魔へと注がれる。


「例えば魔石なんかを媒介にしてああした物を作るというのは難しくないわ。けどあの場合は、魔力によってのみ創り出した言わば純正……難易度も結構高いのだけれど、簡単に使っているところを見ると相当慣れているわね」


 ロサナの解説を聞く間に、アキが動く。右手に新たな短剣を生み出すと、それをエンスへ向ける。


「さて……始めましょうか」


 告げると共に投擲の体勢に入った。すかさずエンスは飛びこもうとしたが、後方にいる使い魔も動き出す。

 速い――巨体に似合わず俊敏で、歩幅が大きいこともあってあっさりとエンスへ到達。そこでアキが二撃目を放った。


 それをエンスは剣で弾くと同時に一気に接近。しかし使い魔もまた彼の後方から拳を振り上げ、

 二人目掛けて、拳を振り下ろした。


「お、おいおい……!」


 途端にセシルが呻く。俺もまた同じような心境……まさか、自爆覚悟で攻撃するのか!?


 するとエンスは攻撃を中断し、横へ逃れ拳を避けた。けれどアキは動く素振りする見せず、その拳がアキへと入り、

 彼女の体を、すり抜けた。


「え――!?」


 驚く間に拳がピタリと止まる。それはアキの体を貫いているが、透過しているのか効果が無い。


 そこでエンスが使い魔へ向け突撃を開始。地面を駆け、剣を低く構える。おそらく接近と同時に跳躍して、体に剣を入れようという魂胆なのだろう。

 使い魔は対抗――拳で横薙ぎを放つ。エンスをしっかりと捉え、彼は攻撃ではなく防御に方針を切り替える。


 拳が直撃すると――彼は、横に吹き飛んだ。さらに地面に設置した拳の一部分が石床を削り、破片を撒き散らす――!


「そうか、自分の魔力だけだから、透過できるのか……!」


 理解したセシルが声を上げる。それはまさに、驚嘆の声音。俺はどういうことか訊こうとしたら、ロサナから解説が来た。


「通常なら魔石などを用いるため、使い魔を作った人間でも攻撃は当たる。けどあの使い魔は純粋にアキの魔力だけで動いているわけだから……攻撃が効かないというわけ」


 となると、あの使い魔は一方的にエンスだけを攻撃できるというわけか……これはかなり強力なんじゃないか?


 エンスは吹き飛びながらどうにか体勢を立て直し、剣を構えた。対するアキは使い魔の後方に立つと、新たに短剣を生み出す。

 そして両手の剣を無言で掲げ……地面へと投げた。結果、その短剣もまた発光し――


「……私が弾いた短剣は、発動しませんでしたね」


 エンスの声が聞こえた。


「おそらく魔法が発動する前に魔力に衝突すると魔法の効果を失う、といったところでしょうか……ともあれ、厄介な能力です」


 告げる間に使い魔が新たに二体出現。アキはさらに短剣を生み出し、攻撃態勢を整える。

 そこで俺はなぜ今までこれを使ってこなかったのかを考えて……自分以外に使い魔の攻撃が当たってしまうからだろうと悟る。あれだけの巨体で自分以外の味方を避けて攻撃するのも難しいだろう。となれば、これは一対一でのみ使用できる技法と言えるのか……いや、集団戦でも使えるかもしれない――


 エンスが地を蹴る。そして一気に空中を高く飛び、上から使い魔へ攻撃を仕掛けた。アキの生み出した使い魔は動作も早くエンスに対し拳を振りかざしたが――空中でエンスが大気を蹴り横へ逃れ、さらに間合いを詰め使い魔の胸部へ斬撃を加えた。


 結果、魔力が弾ける……これにより最初に生み出された使い魔は消滅。次いでエンスは空中からアキへと迫る。

 それを阻む二体の使い魔。けれど彼は攻撃を中断しない。一方のアキは新たな短剣を生み出しつつ、様子を窺う。


 数で圧倒する気なのか……? けどそれでエンスに勝てるとは思えない。間違いなく彼は、まだ手の内を隠しているはずであり――

 使い魔達は両の拳をエンスへと放つ。それを彼は空中で受け一旦は突撃が停止したが、大気を蹴り使い魔へと向かう。


 そして空中を自在に、跳ねまわるように動き――使い魔の、背後に回った。

 観客がその光景を見て大きく歓声を上げる。同時、エンスが使い魔の一体の背中に斬撃を加え、消滅させる。


 残るは一体……一方のアキはエンスと距離をとりながら新たな使い魔を生み出すべく短剣を構えた。

 けれど、今回は少し違っていた。左手は短剣だったが、右手には鞭がありそれが上空にいるエンスへと放たれる――!


「使い魔が食い止める間に、というやつですか」


 エンスが呟く間にアキの鞭は地面からエンスがいる場所に到達。使い魔を貫通しながら、猛然とエンスへと走る。


「ですが、それは――」


 使い魔から拳が放たれる――エンスは剣で迫った鞭を弾き、拳を空中を飛んでかわした。

 攻撃は失敗――けれど、さらなる変化を見せる。


 鞭が使い魔の中へと潜り込み、色に溶け込み見えなくなる。さらには、使い魔が体当たりを仕掛けた。

 けれどエンスは即座に空中を跳んで回避。そしてすれ違いざまに反撃するべく剣を放とうと接近。


 刹那、彼の動きが止まる……そして、

 鞭の先端が使い魔から伸び出て、エンスへと襲い掛かる!


「……ちっ!」


 余裕を崩さなかったエンスが、初めて舌打ち――同時に、


 彼の腹部に、アキの鞭が直撃した。


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