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正面衝突

 真正面から襲来するのは、巨大な暴の塊――圧倒的な力の前に、並の戦士なら問答無用で敗北していただろう。

 相手は一切の小細工を使わず真正面からの斬撃――刹那、俺は持ち得る魔力を解放し、一撃必殺の技『桜花』を使い、剣を振った。


 根本的な腕力で劣っているため、こちらが強力な技を決めても吹き飛ばされる可能性が高かった。しかし、それでも――

 俺とデュランドの全力が、双方の中間地点で衝突する――瞬間凄まじい轟音と共に衝撃波が拡散し、闘技場内で荒れ狂った。


「ぐ……!」


 その最中、俺は相手の剣によって大きく吹き飛ばれる。やはり純粋な力で勝つことは難しい。けれど、


「がはっ……!」


 相手もまた俺と同様吹き飛び、あまつさえ膝をついていた。こちらはすぐに体勢を立て直し、駆ける。

 できれば怯んでいる隙にデュランドへ一撃決めたい所……考える間に彼は体勢を立て直してしまう。けれどその体には衝撃の余波が確実に見え、鎧が所々破壊されていた。


 その中でもデュランドは俺に好戦的な笑みを浮かべ……二撃目を放つべく剣を振りかぶる。

 追撃は間に合わない――悟った瞬間俺は再度『桜花』を放つべく走った。そして再び剣が激突し、またも吹き飛ぶ。


 大味な展開だなと胸中で思いつつ、俺は吹き飛びながらどうにか体勢を立て直した。反面、デュランドはまたも膝から崩れ、さらに鎧も破壊されている。

 腕力は間違いなく彼の方が上であり、なおかつ吹き飛ぶ距離も俺の方が大きいのだが……ダメージだけは、俺の方が一方的に与えている。原因はデュランドに対する魔力解析――剣を直接当てるのは難しいと判断したため、魔力の余波をぶつけようという作戦だった。


 思いついたのは剣を放つ寸前。カインの時と同様またも行き当たりばったりな戦法だったが功を奏し、相手に通用した。


 デュランドは攻撃をやめず三撃目を放つべく剣を構える。けれど動作が僅かに鈍くなっており、最初の勢いはなくなっている。

 だからこそ俺は、次で決めるべく走った。魔力強化と『桜花』による収束を全力で行い、剣を薙ぐデュランドに対し、放った。


 三度目の激突――刹那、それまでと違い俺は押し切れると思った。痛みによりやはり全力を出すことは難しくなったのか……剣が触れた瞬間、最早必殺の一撃とは程遠いと感じた。


 そして、俺は絶叫と共に振り抜いた。衝撃波が先ほどよりもデュランドへ到達し――鎧がとうとう、完膚なきまでに破壊された。


「ぐ――」


 呻き、鎧の下にある衣服が見える。そしてあちこち出血した状態で倒れ伏し、


「……やはり、勇者レンに勝つのは無理だったか」


 大の字となって空を見上げるデュランド……次の瞬間、


『勝者! 勇者レン!』


 俺を勝利者とする声が耳に入り、歓声が降り注いだ。


「……大丈夫、ですか?」


 声の中呼び掛けると、彼はゆっくりと上体を起こす。起き上がるのもかなりしんどそうだった。


「心配はいらないさ……しかし、直接打ち合ってやられるというのは、思った以上に爽快なものだな」

「爽快……?」

「私自身力には強い自負がある上、騎士となってからこういった激突で負けることはなかった……が、怪我を負ったとはいえ最後には押し負けた……訓練の、やり直しとなりそうだ」


 その顔は先ほど言った通り清々しいものであり、立ち上がると俺に右手を差し出した。


「これから、よろしく頼む」

「……はい」


 俺は頷き、剣をしまい握手を交わす。途端、会場からは俺達を称える拍手が鳴り始めた。






 広間に戻ると、ノディが入れ違いに部屋を出て行こうとする所だった。


「おかえり、最後のはやり過ぎなんじゃないの?」


 ノディが部屋を出て行こうとする寸前、俺に呼び掛ける。


「レンの能力なら全力で回避に転じれば逃げ切れたんじゃないの?」

「いや……迫力あったし、一瞬で間合いを詰められたし」

「まあ勝ったんだから良しとしようよ」


 チーズをかじりながらセシルが言う。


「ひとまずレンは第二の試練を抜けた……で、次はアキかエンスだ」

「そうだね。あ、セシル。私のことを応援しなくていいから」


 と、ノディは言い残して部屋を出て行った。それにセシルは憮然とした顔を示す。


「まったく、あの生意気さは治らないのかな?」

「セシルにだけああした態度だよな」

「立場的なものから肯定するわけにもいかないでしょうに」


 俺の意見に続き言ったのはフィクハ。


「ま、戦う時にゴタゴタしていなければなんでもいいよ……というか、二人は組むと結構連携良いし、喧嘩するほど仲が良かったりも――」


 ゆらりと、セシルが立ち上がる。明らかに殺意を身にまとっていたため、フィクハは首をすくめて口を止めた。

 その間に俺は窓近くの席に移動し、どこに座ろうか見回す。丁度リミナの隣が空いていたので足を向けようとしたら……彼女は俺と目が合い、なぜか視線を逸らす。


 ……態度からあんまり近寄らない方が良いかもしれない。なので俺は手近にあったフィクハの隣に。


「あのエンスの能力を、どう思う?」


 ふいにフィクハが問い掛けた。いの一番に答えたのは、リミナのテーブルにいるグレン。


「正直、一回戦で見た能力だけで判断するのは難しいだろう。何か手の内を隠しているとすれば……」

「けど、アキだって色々隠しているんじゃない?」


 確かに、最初に会った俺やリミナも、彼女の能力を詳しく知らない。鞭だけなのかと思いきや、この大会では短剣を扱かっているし――


「……ん?」


 そこで、部屋の隅にいるロサナが眉をひそめた。それに気付いたのは俺だけだったようで、とりあえず何かわかったことでもあるのかと口を開こうとした。しかし、


「アキについては対策をするのも敵は難しいだろうから……彼女に勝ってもらうのが一番良いんだけどね」


 セシルが頬杖をつきながら言ったため、意識がそちらへと移る。


「武器だけで言えば、鞭を所持するアキは遠距離で戦うことだってできるだろうし、彼女だってそれを望んでいる……と、僕は思う」


 今まで使っていた以上、彼女のメイン武器は鞭だろう……それならアキだって使いたいはずだが……あえて使わず、エンスの裏をかくべく戦うという方法もあるな。


「どちらも手の内は完全に明かしていない……奥の手なんかを隠し持っているというより、アキとエンスはそもそもどういった戦法をとるのかよくわかっていない感じだからね……ここまで予測しにくい戦いも、ないんじゃないかな」


 セシルはどちらが勝つのかまったく予想できない様子……俺もまた同意するように頷き、残りの面々も似たような雰囲気。


「僕らにできることはアキをしっかり応援することかな……レン、どちらかと戦うことになるわけだけど、戦うとしたらどっちがいい?」

「敵の計略を止める意味合いでアキがいいけどな……もし、アキが負けたとしたら」


 俺は全員を見回した後、決然と言った。


(かたき)は、絶対にとるさ」

「そういうことだね……そろそろ始まるよ」


 セシルが言うと同時に闘技場が湧いた。俺はそこで衣服からイヤホンを取り出す。

 それを身に着けたと同時に、闘技場にアキが入ってくる。そしてさらに解説の後エンスが登場し、俺とデュランドが対峙した時と比べ負けず劣らずの歓声が生じた。


「あなたに、勝つわ」


 アキが端的に告げる。エンスの声は聞こえないが、剣を抜くことで彼女に応じて見せた。

 始まる――胸中呟くと同時に俺は拳に力が入り、


 実況の声が聞こえ――試合が始まった。


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