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竜の一撃と勇者の盾

『続いて登場するのは! あの戦士カインを倒した――勇者レン!』


 声と共に俺はゆっくりとした足取りで闘技場内へと入る。同時に俺の名を呼ぶ声が聞こえ、先の戦いでしっかりと観客を味方につけることができたようだ。

 そして、目の前には体格だけで言えば俺よりも圧倒的に勝るドラゴンの騎士デュランド……彼は俺に鋭い眼差しを向けながら、体に烈気をみなぎらせていた。


 そうして俺達は向かい合う……控室以後アキとあまり会話もせず、流れるような形でここまで来た。緊張はない。そして訓練の成果を発揮するために、意識を集中させる。


「最初から、全開でいかせてもらう」


 彼は告げると、背中から剣――ツヴァイハンダーを引き抜く。俺は彼に応じるように腰の剣を抜き、構える。

 何も情報がなければ、俺が不利に見えるかもしれない……けれど、観客はきっとそうは思っていないだろう。カインを破った俺がどう戦うかを、しかと注視しているはず。


『――二回戦第一試合、始め!!』


 そして声が――同時に、俺とデュランドとの戦いが始まった。






 ――その前日、俺はリュハンから訓練の成果を見せ、お墨付きを得ることができた。


「よし……上々だ。まだ完全というわけではないが、これなら騎士デュランドに対抗することはできる」

「……本当に、これで防げるんですか?」


 俺は左腕に氷の盾を出現させた状態で問い掛ける。


「理屈はわかりましたけど……俺にとっては、その成果がまるで見えないんですが……」

「目に見えてわかるものではないため、仕方がない。しかし微細な魔力を感じ取ることができれば、以前のレンとは違うと断言することができる」


 リュハンの言葉は好意的なもの……俺は彼の言葉に「わかりました」と答え、別の質問を行った。


「他に、注意すべきこととかはあるでしょうか?」

「力勝負に持ち込まれた場合のことだな。今回の訓練によりレンは強化能力が向上したわけだが、それでもドラゴンの騎士と戦うには、まだ心許ない」


 リュハンは腕を組むと、俺が生み出している氷の盾を見ながらコメントした。


「何しろ相手は元々所持している力で、人間を軽く凌駕している……レンも武具だけなら聖剣もあるため強力なのはわかると思うが、デュランドと真正面から打ち合うのは、得策ではない」

「となると、やっぱり速度……? でも――」

「懸念しているのはわかる。そもそもデュランドを始めとしたドラゴンの身体強化は、一点強化などではなく、全身の力を底上げするようなものだ。つまり腕力が増えたからといって、足に強化を施していない……などというわけではない」

「となると、魔力強化で上を行くことは難しい?」

「そういうことになるな……しかし、突破口はある」


 と、リュハンは組んでいた腕を外し、聖剣を指差す。


「今回教えた技法と、その聖剣の力……純粋な攻防では普通なら勝てないが、それを上手く利用すれば十分勝てる」

「けど、身体強化では……」

「魔力は、別に筋力を強化するだけではないだろう?」


 そこでリュハンは意味深な笑みを俺に向けた。


「明日の試合だが……一撃目だ。もし相手の一撃目を完璧に防ぐことができれば、勝機を大きく手繰り寄せることができる――」






 俺はデュランドに対し特攻を行い、戦いの火ぶたは切られた。対するデュランドは大上段の構え……同時に、俺は左腕に魔力を集め、一気に氷の盾を形成する。


「覚悟があるようだな」


 デュランドは剣を掲げた状態で告げると……迫る俺へと振り下ろす!

 純粋に、速い――魔力による強化がなければ、間違いなく避ける暇もなく体が真っ二つになってしまっていただろう。けれど俺は臆せず進み、


 大剣に対し、左腕にある氷の盾をかざした。


「なに――!?」


 デュランドが呻く。けれど攻撃の速度は落ちず、剣と盾が激突する――

 刹那、俺の左腕に衝撃が走った。同時に轟音と押し潰されるような上からの重圧が体全体にのしかかる……しかし、


 俺は持ち得る魔力を全身に加え――その一撃を、防ぎ切った!


「魔法で生み出した盾が、一切砕けない……?」


 そしてデュランドが呟いた――直後、俺は反撃に移った。


 盾でほんの僅か大剣を押し退けると、懐へ飛び込もうと動いた。デュランドはそれをすぐさま察知し後退しようとしたが、

 俺の斬撃が一歩早く、横薙ぎが彼の鎧へと入った。


 観客の声が少しだけ聞こえたと同時に、デュランドは俺の間合いから完全に脱する。斬ったのは胸部。鎧には、真一文字の線がしかと刻み付けられた。


「……この数日間で、私の剛腕すらも防げるように強化したということか」


 デュランドが言う。俺は無言で視線を合わせつつ、剣を構え直した。


 ――これが、俺の訓練の成果だった。使っていた腕輪は、聖剣の力を剣から左腕へと移動させるため、体に魔力の流れを覚えこませる物だった。

 通常、武器というのは自身の魔力と掛け合わせて攻防に用いられる……リミナの槍なんかが顕著な例であり、彼女の場合は槍の刃先から魔法を放つことで、自分の魔力以外にも槍の魔力を重ねて攻撃を行うことができるわけだ。


 けれど、武具の魔力を体の中に入れるという行為は、あまり見られない……ゼロではないのだが、これを行うには相当な修練が必要だ。それを早めるのが、あの腕輪だったというわけだ。


 聖剣の魔力を左手に集めるよう矯正することで、氷の盾に対して自動的に聖剣の魔力が付与される。これにより強度はカインとの戦いの時と比べて段違いに向上し、盾が破壊されるという危険性が、大幅に減った。


 そして、騎士デュランドの一撃を受けても盾はビクともしなかった……これこそ、リュハンが求めていた構図であり、勝機を手繰り寄せることができると断言した状況――!


 俺は攻勢の手を緩めることなく走った。デュランドはすぐさま剣を構え、俺に対抗するべく体に魔力を収束させる。

 盾により斬撃は防げる……が、根本的な身体強化能力は相手の方が上だ。先ほどは大上段かつ全身で受け止めたためどうにか防げたのだが……同じように防御するのは、ここからは至難と言えるだろう。


「ぬんっ!」


 デュランドが声と共に横薙ぎを放つ。こちらが間合いに捉える寸前であり、俺はそれを魔力強化をもって受け流しにかかる。

 右から来たため、聖剣でそれを受けた――が、やはり力で押されてしまう。どうにか剣を弾きかわしたが、やはりカインの時のようなやり方では無理そうだ。


「タネはわからないが……どうやら、力ではまだ私が上のようだな」


 理解したデュランドは、俺を打倒するべく剣戟を見舞う。ならば……こちらは足に魔力強化を施しつつ、それを回避し始めた。

 負けじとデュランドも追いすがる。リュハンの言っていたように力一辺倒ではない。俺に対抗できる速度も、大いに所持している。


「となれば……」


 俺は思考しつつデュランドからの攻撃を避け続ける。一振りするたびに旋風が吹き荒れ、子供なら飛ばされそうな風を全身で浴びつつ、反撃に機会を待つ。


 ――攻撃を防ぐことができたなら、次は相手がドラゴンであることを利用する。

 これも訓練中……そうリュハンが語った。高位魔族に対しても使える技法であり……また、俺がデュランドに勝つことができる、一番の方法であった。


 俺はリュハンに首を傾げつつ訊いた……すると、彼からは予想外の言葉が来た。


「本来魔族との戦いでは基礎能力で勝るドラゴンが主役になってもおかしくない……が、それはできない。この事実を応用すれば、高位魔族との戦いも優位に進めることができるし、デュランドとの戦いはそうした相手に対する訓練にもなるな」


 そう彼は言っていた……刹那、俺の体は、デュランドがどのような魔力を所持しているのかを、感覚的に理解した。


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