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護衛対象は相当な――

 俺達は雑談をしながら目的地である店に到着する。クラリスを先頭にして中に入ると、そこには昨日と変わらずパイプを持って佇むラウニイの姿があった。


「いらっしゃい……と、あら?」


 彼女は俺達の姿を見て目を見張る。


「なるほど。仕事、引き受けてくれるのね?」

「はい」


 クラリスが応じると、ラウニイはパイプをそっと机の上に置いた。


「そう。こんな唐突な要求を受け入れてくれたあなた達に、感謝しないといけないわね」

「あの、ラウニイさん」


 そこでクラリスは小さく手を挙げた。


「金貨三十枚の道具を対価とする依頼ですから……相当大変なんですよね?」

「ん? まあ護衛だし命の危険もあるからね。その辺の危険手当でと思ってもらっていいわよ」

「危険手当……?」


 クラリスは眉をひそめ、さらに尋ねる。


「何か事情があるから、それだけの依頼料を?」

「まあね。白状すると、とある人から戦力になる者を探せ……それも、私から見て確実に信頼できる人間を、と言われてね。私も協力してあげたかったんだけど、そんな人物は都合よく現れなかった……昨日までは」

「その時、私達が来たと」

「そう。あなたなら私としても信頼できるし、何より魔法教官である以上相手にも説明がしやすい……そして、制御は甘いけれど白銀の魔力を持つ人物……これはなんとしても、ということであの道具を交換条件にしたわけ」

「そう、ですか」


 どこか釈然としない返事をするクラリス。それは俺も同じだが、事情を聞けば理解できるかもしれないので、無言に徹する。


「で、仕事をしてくれるとわかれば、事情を説明するわ。だけど、その前に――」


 ラウニイは突然、口笛を吹いた。直後、店の奥から一羽の鳩が彼女の傍らにやってくる。その鳩の脚には木製の小さな筒が取り付けられている。伝書鳩のようだ。

 ラウニイはポケットからメモらしきものを取り出し、筒の中に入れる。


「ドアを開けて」


 指示すると、一番後方にいたリミナが入口を開けた。すぐさま鳩は飛び立ち、街中へと消えていく。

 リミナが見送りドアを閉めた時、ラウニイが話し始めた。


「これでよし……目的地までは馬車で移動することになっているの。ここで少し待ってもらったら来るから、到着したら出発ね」

「わかりました」


 クラリスは了承し、今度は窺うように声を発する。


「それで、護衛依頼ということですが……詳細は?」

「今から説明するわ」


 言うと、ラウニイは再びパイプを手に持ち、小さく何事か唱えた後、先端に火をつけた。魔法――途端に煙が上がり、彼女はゆっくりと息を吐く。


「といっても、私も詳しくは知らないのよね。把握しているのは護衛対象が誰なのかという点と、命が狙われているかもしれないということだけ」

「現在進行形で?」


 俺が問う。ラウニイは小さく頷いた。


「そう。本来なら正規の兵士や騎士に頼むべき事柄なのだけど、その人達で対応が難しいとあらば、戦える人間を探すのは当然でしょ?」


 ラウニイは語りながら煙を吐く。


「今は精鋭の騎士が一人、対象者の暮らす屋敷にいて守護している。彼が健闘して最悪の事態には至っていないけど……さすがに彼一人で持ちこたえるのには限度がある。だから、人を集めていたわけ」

「なるほど……それで、護衛対象って?」


 俺が尋ねると、ラウニイは口の端を僅かに歪め妖しく笑う。これから告げる言葉に対し、反応を楽しみにしているかのよう――


「このアーガスト王国における王位継承権第三位である、フェディウス王子」


 ――聞こえたのは、とんでもない内容の人物。けどリミナが推測していた範囲ではあったので、それほど驚きは無い。


「あれ、反応薄いわね」


 ラウニイは俺達の顔を見て笑みを消した。どうやらびっくりするのを待っていたようなのだが――


「報酬額を考えれば、そうした人物が引き合いに出されると予測は立てていたので」

「う、そうか……くそ、失敗した」


 俺の返答に、彼女はなんと舌打ちした。


「結構楽しみにしていたのに……」


 口惜しそうに呟いているのを見て、クラリスへ視線を送る。当の彼女は俺の顔を見て苦笑した。


「まあ、こういう所もある人ってことで」

「みたいだな」


 俺は嘆息混じりに答えると、再度話を戻す。


「で、ラウニイさん。俺達が王子の護衛をするというわけですね?」

「そうね。そこから先の話は直接訊いてみないとわからないわね」

「……ちなみに、なぜラウニイさんにそんな話が?」

「フェディウス王子は魔法使いで道具を求めることがあった……その縁で、かなり親交があるのよ。で、今回の事件を公にできないから、つてで私の所に使者を寄越したわけ」

「公にできない、というのは?」

「もし王子が狙われると周知されれば、大騒ぎになるでしょ? そうなるのを防ぎたいんじゃないかしら。だから私のように親交のある人物にしか頼めない」

「そうですか」


 きっと王子なりのしがらみがあるのだろう。そう納得していると、今度はラウニイから口を開いた。


「事の始まりは一ヶ月ほど前かららしいわ。襲撃された時、今も護衛している騎士が居合わせたためどうにか追い払えたみたい。そこから度々使用人や兵士が襲われるようになった」

「被害は、どのくらいなんですか?」


 質問すると、彼女は小首を傾げる。


「話によると、骨を折られた人とかはいるみたいだけど……死者はゼロ」

「ゼロ、ですか」


 なんだか奇妙――思っていると、ラウニイも深く頷いた。


「王子を狙っているのに、使用人達はなぜか殺されない……色々噂が立っているみたいね。これが敵の策略なのかはわからないけど」


 彼女は言うと、手をパンと鳴らした。


「具体的な詳細は、王子から直接聞くことにしましょう……私は準備を済ませるから、ここで待っていて」


 一方的に告げ、ラウニイは店の奥に引っ込んだ。沈黙が訪れ、俺は仲間の顔を確認する。

 リミナは口元に手を当て、神妙な顔つきで何か思案している。クラリスは周囲にある道具に目を向けていた。


「リミナ」


 俺は呼び掛ける。彼女は顔を上げ、目線を合わせて声を出す。


「はい、何でしょうか?」

「フェディウス王子というのは?」

「あ、そこの説明をしなければなりませんでしたね……ラウニイさんが言っていたように、王位継承権第三位の方です。そして屋敷の外から出ずに、過ごしていると聞き及んでいます」

「何か理由が?」

「フェディウス王子は生まれつき足が悪く、車椅子を使って過ごしているとのことで……下手に外に出ると迷惑になるため、内にこもっているらしいです」

「本人の意思で?」

「はい」

「そうか……」


 言いながらふと、今回の事件を考えてみる。


 魔法使い――車椅子の王子――そして襲撃者。今まではモンスターとの戦いばかりだった。しかし今回は人間相手……異なる仕事に、全身が緊張を帯び始めた。

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