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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔法使いの闘技編

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魔法と弓

 フレッドと話をすることができないまま広間へ戻った時、次の試合が間もなく始まるというアナウンスが聞こえてきた。

 俺は訓練を再開し、セシルが代表して皆に報告を行い――最初に懸念を示したのは、リミナだった。


「フレッドさんが……おそらく、あれが何の力なのかもわかっていないでしょうね」

「そうだと思う」


 彼女の言葉にセシルは同意する。


「闘技場内でああした力を使ったことに気付いた人はいただろうけど、試合中で手出しできなかったはずだ……けどまあ、一番最初に訪れた僕達でさえ見つけられなかったんだから、敵は最初からフレッドを逃がす気で準備をしていたんだろうし、どう動こうとも捕まらなかったと思う」

「……もし、再会したらどうしますか?」


 リミナの質問に、一時誰もが沈黙する。


「……ひとまず、出会った状況にもよるんじゃない?」


 そうして次に声を発したのは、頬杖をつきながら俺達に視線を送るアキ。


「街中で偶然再会したとしたら、そのまま連行して事情を訊けばいいわよ。もし英雄シュウなんかの戦いで遭遇したら……まあ……」


 言葉を濁す。そこから先はあまり口にしたくなかったが……覚悟は、しないといけないのかもしれない。


「……フレッドと知り合った面々は、特に心構えをしておこう」


 セシルが結論を出し……フレッドに関する話題は終了。引っ掛かることではあったが、これが尾を引いて後の戦いに支障が出るのもまずいし、大会が終わってから考えることにしよう。

 そうこうする内に、実況の声が聞こえた。


『続いての一戦は、またも女性同士の対決! まず登場するのは、なんと驚くことに英雄シュウの弟子!』


 解説に、観客が驚いたのかどよめく。


『魔女ロサナとの弟子リミナと同様、この大会の優勝候補者になれるのか――ナナジア王国勇者にして魔法使い、フィクハ!』


 声と同時にフィクハが入場する。紋様を施した革鎧姿であり、傍から見ると魔法使いには見えない。

 彼女は装備に関して、多少バリエーションがある。魔法使いのような時もあれば、今回のように戦士っぽい時もある。おそらくこれは剣をメインに戦うかそうでないのか、という違いかもしれない……と適当に思っているのだが、真実の程はわからない。


『続きまして、闘士の中でも知名度の高い人物! 弓で多くの闘士を沈めてきた生粋の弓闘士――リリン!』


 声と共にリリンが闘技場内へ。弓を持ちさらに太陽の光によって、ずいぶんと赤い髪が映えて見えた。

 やがて両者が所定の位置に到達した時、右耳からフィクハの声が聞こえてきた。


「ちょっとばかり因縁のある対決となったわけだけど……勝たせてもらうよ」

「こっちのセリフ」


 短い会話をこなし、双方武器を構える。


「剣と弓……とはいえ、フィクハは魔法使いだから変則的だな」


 セシルは身を乗り出して戦いの行く末を見守る。


「リリンは、あっさり勝てるほど弱くない……フィクハとしても弓メインの戦士と戦うことはほとんどなかっただろう。さて、どう出る?」


 セシルが色々と呟いている中――実況の声が響き、試合が始まった。

 直後、動いたのはフィクハ。けれど前進するのではなく、大きくリリンと距離を置こうと後退する。


 するとリリンは光の矢を一瞬で生み出し、弓へつがえた。その動作は洗練され、隙がほとんどないものだった。

 リリンが矢を放つ。光は一気にフィクハへ吸い込まれるように迫り、


 彼女は、かわしながら持っている剣でそれを弾いた。


 瞬間、耳の奥でズオッ――という、風の音が聞こえた。選抜試験時のように、矢に力を付与しているらしい。

 風によって身動きを取れなくして、その隙に新たな矢を――と、一瞬思ったのだが、


 そんな生易しいものではなかった。


 刹那、風の勢いが強まり、轟音が耳と闘技場から聞こえてきた。

 見ると、フィクハの体がさらに大きく吹き飛ばされていた。さらには彼女の立っていた場所周辺の石床が、砕かれ散乱している。


「風の刃を込めて、矢を放ったわけか」


 グレンが推測した……石床が砕ける以上、そうした強力な魔法を込めたと考えるのが妥当だろう。

 こうなると、迂闊に矢を弾くこともできない……と、フィクハの状況はどうだ?


「前にもまして、攻撃的になったわね」


 フィクハは平然とリリンへ口を開く――どうやら、外傷はないらしい。


「これが修行の成果というわけ」


 一方のリリンは淡々と返答する……今の一撃でやられてもらってはつまらない、などと思っているのかもしれない。

 彼女は既に次の矢をつがえて構えている。フィクハも剣を構えているが、動き出す様子は見せない……一見するとリリンが優位に見えるが、フィクハには魔法がある。それによっては一気に逆転も――


 考えた時、リリンが二本目の矢を放った。さらに慣れた手つきで三本目を用意し、


「流れろ――精霊の地脈!」


 フィクハの無詠唱魔法。それによって、彼女の立つ正面の石床が、砕け大きなつぶてとなってリリンへ襲い掛かる――!

 そして矢はつぶての一つに当たり、今度は風ではなく炎を噴き出した。けれど石をどうにかすることはできず、矢は効力を失い、


「――っと!」


 次にリリンは声を出しながら後退し、地面に矢を放った。直後彼女の周囲に風が吹き――飛来するつぶてに、風の刃が炸裂した。

 双方がしばしせめぎ合うと、やがて収まった……完全に相殺された形。


「今までと趣の異なる戦いだね」


 セシルが言う……弓闘士対魔法使いということで、遠距離戦がメインとなっている……彼の言う通り、直接攻撃ばかりだったため、新鮮に感じる。

 さらに観客も派手な攻防に沸き立つ。俺はそうした声を耳にしながら、少し考える。


「遠距離戦か……とはいえ、双方決定打はあるのか?」

「難しい、かもしれないね」


 俺の言葉にセシルが律儀に答えた。


「遠距離攻撃というのは、当てること自体結構難しいからね……あの二人なら追尾能力を持つ魔法くらい放つのはわけないと思うけど、両方とも結界を所持している。追尾性能はその特性に魔力を消費するから威力が落ちる……となれば、決定打となるのは難しい」

「となると、勝つ手段としては……」

「このまま矢と魔法の応酬により長期戦に持ち込んだ場合……たぶんフィクハの方が先に魔力が尽きるだろうね。長期戦となれば、リリンはそうしたことを踏まえて戦いを組み立てると思うし……仕掛けるとしたら、フィクハだ」

「魔法を当てるのは難しい……か?」

「ゼロ距離ならともかく、さっきの攻撃みたいなのは発動してからリリンも対応できるだろう。となれば他の魔法だけど……そういえば、フィクハってどんな魔法を使ったっけ?」

「彼女は、地に干渉する魔法とかがメインだな……」


 ドラゴンの聖域では確か、魔力だけを分解する魔法とか、あと光の槍を使っていた……属性に当てはめると、地と光といったところか。


「そのレパートリーで、この状況を崩す手立てがあるのかだね……闘技場を覆うような大規模な魔法を使えば片が付くだろうけど、そんな魔法は詠唱が必要だろうし、リリンが黙って見ているなんてあり得ない」


 セシルはそうコメントした後、沈黙する……となれば、無詠唱魔法の中で強力な魔法を浴びせ続ける……か。それだと間違いなくフィクハの魔力が尽きるだろうし、倒せる保証もない。

 ならば、どうするのか……思案する間に、リリンは弓を構えしっかりとフィクハに狙いをつけた。


 一方のフィクハは動かない。剣を構え、まるで静観するような構えを見せている。

 どういう手で出るのか――俺はフィクハだけに注目していると……彼女が、動いた。


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