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不可解な彼女

 翌日、俺達はBブロックの試合を見るべく昨日と同じ広間に入る。ただし今回はロサナとリュハンはいない。

 で、改めてトーナメント表を確認したのだが……こちらも昨日と負けず劣らず、濃い面子が揃っていた。


「初戦にリミナとルーティ……次にオルバンさん。さらにフィクハ対リリンに、その次はミーシャか……」


 オルバンとミーシャについては順当に勝ち上がるだろう……何より問題は、リミナだろうな。

 で、当の彼女は俺の隣に座り緊張した面持ちとなっている。呼ばれるまで待機しているのだが、見ているこちらがハラハラしてくる態度だった。


「リミナ、リラックスした方がいいよ」

「わ、わかっているのですが……」


 彼女も肩の力を抜こうとするのだが、落ち着かない様子。


「今日の午前も高カード揃いだし、ここで観戦させてもらうよ」


 セシルは別のテーブル席に座り、言う。けれど、


「……で、レン。それは一体何をしているんだ?」


 俺に問うた――原因は、俺の両腕にはめられた腕輪だ。


 色は紫色であり、なおかつ鎖のような物が着けられている。両腕に腕輪をはめることでなんだか手錠をしているように見えなくもないのだが……一応、人目がない所で身に着けろとリュハンに言われているので、怪しまれることはたぶんない。


 加えて、俺の右手は鞘に収められた聖剣が握られている。


「これがデュランド対策らしいよ」

「対策って……何の訓練?」

「手の内を晒す真似はしたくないな……一応闘技場では敵同士なわけだし」


 俺が言うと、セシルは「そう」と短く告げ腕輪に注目。他の面々も視線を送りはしたが、これだけでは皆目見当がつかないのかすぐに目を逸らした。


 ――リュハンから言い渡された訓練は、腕輪をつけた状態で右手を聖剣に触れさせていること。ただこれだけなのだが……デュランドとの試合が始まるまで、他の訓練はできずひたすらこれだけやれとの指示だった。

 間に合うかどうかはギリギリらしい……かといってがむしゃらにやって習得できるものでもないらしいので、焦らず言われた通りやるつもりでいた。


 そんな状況下で俺は再度リミナに視線を移す。相変わらず緊張……俺はそれをほぐそうと、口を開いた。


「リミナ……本来の力が出せれば、ルーティさん相手にも十分勝てると思う」

「それは……自覚しているのですが……」


 言葉を濁し、俺のことをチラチラ見るリミナ……ん、なんだか試合が始まるから緊張している様子ではなさそうだが――


「何かあるのか? もしよければ相談に乗るけど」


 提案してみると、リミナは一度俺に視線を送り……少し考えた後、


「いえ……大丈夫です」


 首を振った。何かありそうな雰囲気なのだが――


 そこで俺は、別のテーブルに席で座っているフィクハが、苦笑するのを見た。たぶんリミナの緊張に関わることを把握してだと思うのだが……やっぱり何か、あるのか?

 そちらに言葉を向けようとした時、ノックの音。同時にローブ姿の女性が現れ、


「リミナ様、準備をお願いします」

「……はい」


 その時になって、彼女は明瞭な声で立ち上がる。先ほどまでの緊張が抜け、覚悟を決めたような顔つき。


「……リミナ」


 俺はなんとなく声を掛けた。彼女は振り向き、目が合い、


「なん、でしょうか?」


 ……緊張した面持ちの彼女になった。

 そんな表情をされると、言うのに少しばかり戸惑い……とりあえず、


「……頑張れ」

「はい」


 頷いた彼女は、ローブ姿の女性と共に部屋から去る。俺は少し心配になったのだが――


「あーあ、あからさまって感じね」


 フィクハが、傍観者的な目をしながら述べた。


「ま、少ししたら元に戻るよ」

「リミナのことか?」


 質問すると、フィクハは頷く。


「ま、気にしなくてもいいと思うよ……昨日、レンがカインと戦い……それを見て、色々と思う所があっただけだよ」


 思う所……? 俺としてはその部分を詳しく訊きたかったのだが、空気的にそんな感じでもなかったので、とりあえず言及は控えた。

 けれど最後に視線を巡らせると、セシルはなんとなく察した風じ。グレンはあまり気にしていない様子で、さらに傍らに座るアキは――


「……どうした?」


 なぜかニコニコしていた。


「いえ、別に」


 彼女は即座に表情を戻し、闘技場に目を向ける。


 ……気になることばかりなんだけど、質問しても返ってこないだろうな。まあ女性の言葉に対してしっかりした返事だったので、おそらく緊張でどうにかなってしまうという雰囲気ではないだろう。きっと、大丈夫だ。


「で、話を戻すけど……」


 試合が始まるまでの間、セシルが改めて口を開く。


「対策って言っても、やれることはたかが知れているだろ? 残り数日で身になるものなのかい?」

「そういう方法を取得選択した、とだけ言っておくよ。まあ、俺も概要だけ聞いてやっているんだけど半信半疑だ……けどまあ、ただ剣を振るより効果的だと思ってさ」


 セシルは腕輪と剣を一瞥すると、少しだけ思案し、


「ま……あと数日で結果はわかるし」

「そうだな」

「僕と戦う時の参考にさせてもらうよ」

「……その前に、ジオとノディかルルーナを倒さないといけないよな?」

「勝つさ」


 断言。それに反応したのは無論ノディ。


「それは私のセリフだよ」

「ノディはルルーナを倒すことだけに集中した方が良いんじゃない? 言っておくけど、レンのように上手くいかないと思うし」

「わかっていますよーだ」

「……なんか、ムカつく言い方だな」

「相変わらずだな、二人とも」


 どこか呆れた様子でグレンが呟くと、首で闘技場を示した。


「会場も人で満ちたようだ……そろそろ始まるぞ」


 気付けば、確かに観客席が一杯になっている。そろそろだと思った時、実況の開幕宣言が聞こえた。


『二日目……! 昨日の興奮冷めやらぬ中で、新たな戦いが始まろうとしています! 本日の戦いも、昨日と負けず劣らずの戦い……!』


 実況の男性は煽る。俺は彼の言葉を耳にしつつ……ふと、疑問に思った。


「そういえばリミナの紹介はどういう風にするんだ?」

「たぶんロサナさんの弟子とかじゃないかな」


 俺の質問に答えたのはフィクハ。


「城とかには、そういう風に伝えてあるみたいだし」

「俺の従士云々については……」

「従士という立ち位置だと、公に語らない場合が多いかな」


 答えたのは、セシルだった。


「闘技場に立っている時は、彼女が主役というわけ。だから、誰々に付き従っているという感じには語らない」

「……なるほど」

『最初の戦い……今大会初の、女性同士の組み合わせとなります! まずは昨日の騎士デュランドと同様、ドラゴンの国フィベウス王国からの推薦者――ルーティ!』


 声と共にルーティが姿を現す……全身を深い緑で覆われ、確固たる足取り。会場の空気に飲まれている様子は微塵も見受けられない。


『続きましては……なんと、あの稀代の魔法使い、流星の魔女ロサナの弟子……! その力を継ぎ、この闘技大会の覇者となれるのか! 魔法使い、リミナ――!』


 声と共に、リミナが会場へ――銀縁の衣装にスカートというのは、軽装に見えなくもないが……改めて見ると、北欧神話に出てくる戦乙女のような出で立ちだと思った。

 両者はやがて向かい合う。そこで、先んじてルーティが口を開いた。


「私の役目は、ラキ達を倒すことです……リミナさんもまた、それのはず」

「……はい」

「どちらがそれにふさわしいか……今ここで、決着をつけましょう」


 端的な会話。けれど、剣を抜いた彼女は遠目からでも強い気配を放っているのがわかる。対するリミナは気圧されることなく、槍を構えた。そして――


『――始め!!』


 実況の声が響く――同時に、両者の戦闘が始まった。


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