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騎士の使命と英雄の分析

 観客が潮が引くように会場を後にする中で、俺達はセシルの屋敷へと戻る。

 そこには、意外な客人がいた。


「おかえり」


 フロディアだった。黒い貴族服姿で、城にでも行っていたのだろうと察することができたのだが……木製の杖だけは相変わらずであったため、違和感がある。


「今日の試合結果を聞いて、様子を見に来たんだ」

「どうも」


 俺が頭を下げると、フロディアは俺に笑い掛ける。


「カインを倒したことは、城側の人間も相当驚いていたよ。このまま君には突っ走って欲しいな」

「……頑張ります」


 それだけ返答すると、フロディアは次にアキへ目を向けた。


「勇者アキ。騎士ルファーツからの伝言だ」

「はい」

「よろしく頼む、だそうだ」


 その言葉に、アキは深く頷いて見せた。


「任せてとお伝えください」

「わかった……あと、彼についてだけど、以後城の警備と、色々仕事を任せることになった」

「警備に……?」

「騎士は、闘技大会に出ていなければ城の警備をしているんだよ」


 答えたのはノディ。俺はそちらへ首を向け、問い掛ける。


「ノディはいいのか?」

「私は出場者だし。それに、私はここの人間だからこっちにいろって指示もある」

「こっちか……それは、ノディについてはシュウさん達との戦いに集中しろってことか?」

「そんなところだと思う」

「――騎士の多くは、この闘技大会で様々な使命がある」


 ふいに、フロディアが話し始めた。


「その全てがシュウや魔王を止めることに直結するわけではない……けれど、彼らの協力が無ければ、私達も使命を全うすることは難しいだろう」


 そう言うと、彼はノディへ視線を送る。


「ノディ君の使命は騎士として、勇者レン達を見守ること……だったかな?」

「見守るじゃなくて、加勢です」


 ノディは反論すると、自身の胸に手を当てた。


「勇者レンの要請に従い、私は騎士としてシュウ達を追うという役目なわけです」

「そうだったね……というわけで、統一闘技大会に参加している騎士達は、レン君達のあずかり知らぬところで使命を受けているわけだ」

「なるほど……ルファーツさんも、警備以外に重要な仕事が?」


 質問してみると、フロディアは肩をすくめた。様子から、話しそうにないな。


「……わかりました。それで、他に何か?」

「そうだね……」


 と、フロディアは突然口元に手を当て俺達を見据えた。


「……ではレン君。少し話しておきたいことがある」

「闘技大会に関することですか?」

「ああ……参加者に深く肩入れするつもりはないのだけれど、私としてはレン君に頑張ってもらいたいしね」

「……僕達は、先に屋敷に入るよ」


 フロディアの言葉を聞いてか、セシルは言うと歩き出した。気を遣ったつもりだろうか。

 他の面々もセシルに従い屋敷へ向かう……その中で俺は、一人フロディアと対峙する。


「それで、話とは?」

「次の相手、騎士デュランドに関してだ。彼の戦法云々については語るつもりもないのだけれど……その戦いをレン君は見ていたはずだ。どう思った?」


 どう思った――俺はしばし考え、フロディアへと伝える。


「率直にかなり手強いと思いました……カインとはまったく異なる戦法をとる以上、対策は必要でしょう」

「そこまでわかっているなら十分かな……ま、リュハンも言うだろうし、私は簡単な言葉に留めておくか」


 口上から、俺とデュランドの対決に関して予想できることがあるのだろう……俺は黙って、彼の言葉を待つ。


「正直な話、レン君がカインに勝てる可能性は三割くらいだと思っていたよ……技量なんかを勘案し、そういう結論に至った」

「三割、ですか……もっと低いような気もしますけど」


 いいとこ一割くらいではなかろうか……ま、この辺りを議論しても始まらないか。話を進めよう。


「あの、それで?」

「結論から言わせてもらうと、レン君がデュランドに勝てる確率は、おそらくカインと同等か、それ以下と考えて良い」


 断定……彼は、俺が圧倒的不利だと言いたいようだった。


「相性の問題もあるけれどね……ドラゴンの騎士である以上、筋力も、魔力も一切敵わない。スペックで上回る相手というわけであり……ある意味、人間とは比較できない力を持つ高位魔族との戦いみたいな感じだね」

「高位魔族……か。確かに、苦しい戦いになりそうですね」


 そういう腹積もりでいた方がよいのだろうと思い、俺は言った。


「そういうこと。対策としては色々とあるのだけれど……一番手近なのは、デュランドに対しては力ではなく速さで対抗するとかかな」

「……力があるからといって、速さで上回れると決めつけるのは良くないと思いますよ?」


 今日見たデュランドの戦闘を勘案するに、一気に間合いをつめるような場面もあった……彼の最高速度がわからないため判断するのは難しいが、ドラゴンの力を持っている以上、速さで優位に立つのも難しいのでは……と、俺は考えた。

 ならば、どう戦うのか……とりあえず、あの強力な一撃は当たれば危険だ。確実に回避する手立てを見つけないといけない。


「一撃が怖いので、対策は必須でしょうね……とはいえ、回避してばかりではこちらが剣を当てるのが難しくなる」

「そこまで考えているなら、リュハンとの話し合いだけで十分かもしれないね」


 フロディアが発言。視線を向けると、どこか苦笑に近い顔を示していた。


「もうちょっと色々言おうと思っていたんだけど……張り合いがないな。まあ君が自分で考え、相談できる師がいるのだから、喜ばしいことか」

「……どうも」


 俺が礼を述べた時、フロディアは表情を戻し、


「さて、それじゃあこの辺りで帰らせてもらうよ……リュハンやロサナによろしく伝えておいてくれ」


 そう言って、彼は足早に去った……残された俺は、彼の姿が見えなくなるまでその場に立ち……やがて、


「……相談するか」


 リュハンに色々言おうと、静かに決意した。






 夕食後、俺はリュハンの部屋を訪れ改めて相談を行う。フロディアに指摘されたことを言うと、彼もしかと頷いた。


「フロディアの分析通りだろうな……今の状態で戦う場合、運が絡んでくるのは間違いない」

「運をできるだけ使わない方法ってありませんか?」

「そうだな……あるにはあるが、これをする場合一つ懸念がある」

「懸念?」


 聞き返すと、彼は頷き傍らに置いてある鞄を引き寄せた。


「フロディアが考えていた対策は、おそらくレンの持つ聖剣を利用したものだ。とはいえそれを施した場合、仮に聖剣を譲渡した時……使用できなくなる」

「付け焼刃になるってことですか?」

「そうだ……聖剣に頼らない方法もあるが、はっきり言って数日後の二回戦には間に合わない。ただ、これに関してはレンが優勝し、聖剣をずっと所持してくれれば問題ないな」


 確かに、俺が一番であることを証明できれば聖剣は手にしたままになるだろう。

 優勝すると決めた以上、覚えておいても良いだろう……と思った時、疑問が一つ。


「えっと……そういえばリュハンさん。そういう技法を教える時間って、これまでなかったんですか?」

「統一闘技大会はどうしたって技量勝負になるからな。力で押すと言っても相手が人間である以上、レンの白銀の魔力に対抗できる人物は少ないと判断し、優先順位を下げていたまでだ……とはいえ、いずれ覚えさせるつもりではあったぞ」

「なら……お願いします」

「聖剣をずっと手にし続けるという表明でいいんだな?」


 確認の問い……答えは、決まっていた。


「はい。優勝する以上、当然ですね」

「わかった……ならば、使えるようにしよう」


 そう言って……リュハンは、鞄からある物を取り出した――


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