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覇者の登場

 午後からの戦いは、結局の所順当にそれぞれが勝ち上がった。相手もそれなりの実力者だったようだが、高位魔族と戦う訓練を重ねた俺達にとっては、敵じゃないというわけだ。


 午後一戦目はノディ。見た目に合わない大振りの剣を振るい、デュランドのように体格のある相手を力でねじ伏せ、観客を湧かせた。

 次の試合はルルーナ。身長的な意味合いで茶化すような野次なんかも生まれ――ルルーナの怖い視線が観客に向けられつつ戦闘開始。相手はレキイス王国の騎士だったのだが――さすがに相手が悪すぎた。騎士は強力な剣戟を連続して浴び、ダウンした。


「奴はレキイス王国の中でも相当な実力者だったはずだが……やはり、現世代の戦士には届かないか」


 ボヤくようにグレンが言う……圧倒的な力を見せつけたことにより、ルルーナは多大な歓声を受け、闘技場を後にする。

 その次に登場したのがジオ。相手は予選から勝ち上がった闘士のようだったが、相手を防戦一方にして、完封勝ちを収めた。無駄の一切ない攻撃であり、その洗練された動きは見ていて惚れ惚れする程だった。


「どう? 我がルファイズ王国騎士団の中でも最高レベルの騎士は」


 と、まるで自分のことのようにノディが言う。まあ、同じ国の騎士が活躍しているので、そうやって言うのは無理もないけど。


 そして、とうとう本日最後の試合となった。まだ陽は高いが、時間的には後少しで赤みが差してくる頃だろうか……これまで観戦してきた人々も初戦と比べれば落ち着きつつあったのだが――


『本日、最後の試合――皆様、盛大な歓声と共にお出迎えください!』


 実況の人がテンションを振り絞り語る――直後、観客達がどよめき始めた。


「さあて、本日最後の試合にして、会場のボルテージが最高潮に達する時ね」


 傍観者的にノディが言う……なるほど、次はこのベルファトラスの中でも看板を背負っている人物だからな。


『登場して頂きましょう! 一昨年と昨年このベルファトラスで行われた闘技大会で、連覇をした新世代の闘士――セシル――!!』


 声と共にガラス越しにとんでもない音量が聞こえてきた。そうして現れたのは、サーコートを着た正装のセシル。両腰には一振りずつ長剣を下げ、その歩き方はまさに威風堂々。闘技大会覇者としての風格を、確実に備えている。


 ついでに言うと、今回リデスの剣は装備してはいない……理由は特に語っていないのだが、何かあるのだろうか。


「ああして改めて見ると、迫力あるわね」


 アキがどこか感心した様子で告げる……確かに、闘技場内で佇む姿は威厳と落ち着きに満ちており、この場所が自分の庭だと力強く主張している気がした。


 取り巻く空気も、その全てがセシルに味方をしている……考える間に、対戦相手が現れた。

 闘士風の人物で、武器は槍なのだが……足取りがどこか重い。どのような結果になるのか、俺は明確にわかってしまう。


「この空気を手に入れることができれば、当然強いよね」


 と、ノディが不満げに言う……けど、この歓声は言わばセシルが努力した結果、与えられたものだからな。俺はとやかく言うつもりはないけど。

 やがて双方対峙し、剣を抜く。セシルは声援を受けながらなお相手を見据え、一切油断している様子は見られない。


 そういえば、セシルは言っていた……ジャイアントキリングは、闘技場に入れば星の数ほど見れると……そういう現状を理解し、彼は気を引き締めているに違いない。


『――始め!』


 本日最後の試合が始まる――先手を打ったのは、セシルではなく相手の戦士だった。

 一足跳びで駆けると同時に槍を突き込む。おそらく並の戦士なら反応できず肩でも貫かれていたかもしれない。しかし、


 セシルは剣で(さば)くと同時に懐へ潜り込もうとした。対する戦士はすぐさま槍を引き、セシルを近づかせないようにする。

 このまま戦士の方は防戦に転じるのか、それとも――思考する間にセシルが仕掛ける。薙ぎ払われた槍を剣で弾くと同時、再度懐へ侵入を試みる。


 戦士は即座に槍を振り近づけまいとする……と、ここで俺は察した。


「もしかして、わざとやってないか?」

「パフォーマンスという意味合いも大きそうね」


 頬杖をつきアキが答えた。


「今のセシルの技量なら、一瞬で倒すのはそれほど難しくないと思うわ……けど、それじゃあこの熱狂が納得しないと思っているんでしょうね」

「大変だな、セシルも」


 槍が振るわれ、セシルは後退。戦士は幾度となく攻防を経て、多少なりとも手ごたえを感じ取ったのか、腰を落とし、突き込む構えを見せた。


「仕掛けるわね」


 アキが言う――同時に、戦士が最初と比べても遥かに速い、槍を放った。


「風か――」


 途端、右耳のイヤホンからセシルの声が。おそらく槍に風を加え、速度を強化している――


「基本に忠実だけど、有効な手段に変わりはないか」


 セシルはそんな風に評すと、戦士が放った必殺の一撃を横に跳んで避けた。すると槍は薙ぎ払いに変わり、彼を執拗に追う。

 それを弾くと同時にセシルは再度後退。そこで、


「どうした……覇者。臆したか?」


 戦士が言った……余裕すら覗かせた態度。

 けれどセシルは無言のまま……剣で戦士が持つ槍を示した。相手が一瞥し、確認すると、


「な――」


 呻いた。それと同時に解説の声が響く。


『槍が僅かですが破壊されております……! 資料によるとこの槍は、現世代の戦士達も使用している刀匠ジェンバが作成した武具……! それを、闘士セシルが僅かではありますが、破壊した!』


 歓声が上がる――もしかするとセシルは、あえて武器破壊を試みているのかもしれない。


「パフォーマンス的な意味合いと共に、自分の攻撃力を改めて確認しているというわけですね」


 リミナは俺と同意見なのかそう述べた……そして俺は、セシルを注視。


「……ふん、勝った気になっているのか?」


 戦士が言う……対するセシルは改めて二本の長剣を構え、


「次で、終わらせる」

「ほざけ!」


 戦士が走った。挑発同然の言葉に乗った形。

 さらに速度を増した槍が飛ぶ。風の魔法を最大限に使用した見事な一撃――だが、


 セシルは反応し、槍へ連撃を叩き込んだ。


 それは紛れもなく、戦士が放った槍を平然と上回る速度――イヤホンの奥で戦士の驚愕した声が聞こえ、さらに凄まじい金属音が発生。

 次いで見下ろした闘技場では――槍の先端から半分までを綺麗にバラバラにした、セシルの姿。


「武器の力に頼るだけでは、勝てないさ」


 告げたと同時にセシルは間合いを詰め、一閃。戦士は防御も回避もできず、その一撃――いや、遠目で見る限り二撃決め、戦士は倒れた。

 そして生じる轟音のような声。その全てがセシルを称えるものであり、完全に空気はセシルの味方をしていた。


「……ま、さすがと言っておこうかな」


 アキが言う。続いてセシルの勝利という実況の声が聞こえ――今日の戦いは、終わった。


「さて、私は早速訓練でもするわ」


 先んじてアキが立ち上がる。反応に、俺は声を上げた。


「訓練?」

「対策をしないといけないでしょう?」


 俺の言葉にウインクをする彼女――エンスの対策、か。


「あ、もちろんレンに対しても色々と考えるつもりだから」

「……そうか」


 首をすくめて俺は言う……彼女とは順当にいけば三回戦で戦う。そこで、決着をつけようと言いたいわけだ。


「それじゃあね」


 アキは言い残して部屋を去る……残された面々は続いて立ち上がることはなく、ただ歓声がやまない闘技場へと視線を向けていた。


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