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勝利者と魔法の道具

 リミナ達がいる広間へと戻って来た時、俺は拍手で迎えられた。


「まさか本当に、勝つとは思わなかったよ」


 最初に口を開いたのは近づいてきたセシル。俺も内心彼に同意し、


「カインとも軽く語ったけど……正直、運が俺に向いただけという感じもするな」

「しかし、それを手繰り寄せたのは他ならぬレンの力だ」


 次に語ったのはリュハン。視線を送ると彼は窓際の一席に陣取り、こちらに視線を送っていた。


「私の言ったことを、戦いの途中で気付いたようだな。そして生み出したのが、カインに傷を負わせた雷撃……ラキ達と戦う場合、ああした技術と他の剣技を組み合わせる必要性も出てくるだろう。今回のことを振り返り、次の試合までに鍛錬しておくといい」

「はい」

「まあ、これで私達も負けられなくなったねぇ」


 と、今度はノディが発言。見ると、彼女と共にリミナがこちらへ近寄っていた。


「現世代の戦士であるカインを倒した……優勝候補と目された人間が早くも脱落し、この大会は相当荒れると誰もが思ったはず……私達も頑張らないと」


 その言葉は、強い自信に満ちていた……リミナも同様の表情を見せており、俺の勝利はこの場にいる面々を鼓舞する結果にも繋がったのだと認識する。


「……さて、勝利の余韻に浸っていたいだろうけど、そろそろ気持ちを切り替えないと」


 そして続いて述べたのはフィクハ。彼女はリュハンの隣に座り、窓の外を見ながら声を発した。

 対する俺は「そうだな」と呟き、そちらへと歩み寄る。


「ここで気持ちを緩めては駄目だろうな……勝てなくなる」

「そういうこと……デュランドってドラゴンの騎士が、出陣ね」


 眼下に見える闘技場にはまだいない。準備中なのだろうと思いつつ、俺は椅子に座り待つことにした。


「そういえばレン、アキには会ったのかい?」


 そこでセシルが近くの椅子に座り問い掛ける。俺は小さく頷き、


「ああ。緊張している様子は無かったよ」

「ま、彼女が一回戦で戦うのは僕も見知った闘士だけど……それほど強くないし、突破できるだろう。問題は二回戦で戦うことになるはずのエンスだ」

「あの……それについてですけど」


 と、今度は俺の隣に来たリミナが小さく手を挙げて言及する。


「勇者様、エンスが初戦に戦う相手って確認されましたか?」

「……自分のことで手一杯だったから、口頭で言われた対戦以外は知らないな」

「エンスの初戦の相手なんですけど……ルファーツさんなんです」

「え!?」


 ルファーツ――アーガスト王国で行った王子護衛で、傍に控えていた騎士だ……ずいぶんと懐かしい名が出た。


「……シュウ達が対戦相手を決めたのだから、エンスが戦いたいと申し出たのかもしれないな」

「かもしれませんね……それで、ルファーツさんは勝てるでしょうか?」

「彼は確か、壁を超える技術に関する指導は受けていたはずよ」


 そう言及したのはロサナ。彼女は窓際に立ったまま、首だけ俺へと向けて語る。


「闘技大会寸前になって壁を超える技術は習得したはず……だからエンスに傷を負わせられるとは思うわ」

「けど、勝てるかどうかは別問題だと」


 屋敷護衛の時、ルファーツはエンスに対し危惧を抱いていた……実力差が埋まったかどうかはわからないが、分の悪い戦いであるのは、間違いないだろう。


「お、そろそろね」


 その時ロサナが口を開く。闘技場を見た瞬間、解説の声が耳に入った。


『興奮冷めやらぬ中、第二試合が間もなく始まります……! 次の戦いも、第一試合と負けず劣らずの高カード! なんと、ドラゴン達が住まう国、フィベウス王国の騎士が、統一闘技大会初参戦となります!』


 その解説に、観客も反応し声が上がる。


「……見た目はパワーファイターって感じだったよね」


 フィクハが言及。俺はそれに頷きつつ、さらなる解説を耳にする。


『今回推薦された人物は二名……! その内の一人である、騎士デュランドの登場です!』


 声と共に現れたのは深緑の鎧を着た偉丈夫……体格の大きさに観衆はどよめき、デュランドは自信に満ちた足取りで闘技場中央付近へと向かう。

 その間に相手の解説が聞こえた――どうやら闘士の中でも人気があるらしく、


『対するは……闘士アンデル!』


 名が上がった途端、黄色い声援が俺の耳にも聞こえた。


「闘士の中で、女性ファンが多い奴だね」


 セシルが腕を組みつつ解説を行う。

 現れたのは、金髪の男性。白銀の鎧姿は騎士にも見えるのだが……彼は、周囲の観客に手を振り、中央への歩みも随分と遅い。


「ファンサービスのつもりなんだろうね……ま、ああいうのが不評で男性ファンは少なめかな」

「なるほど……実力は?」

「力はあるよ。話によると、壁を超えるための技術は身に着けているらしいし」


 となれば、デュランドにとっても強敵だろう……考えていた時、後方から扉の開く音が。


「レン君」


 ナーゲンの声だった。振り向くと、手を振りながら接近する彼の姿。


「試合見ていたよ……まずはおめでとう」

「ありがとうございます……けど、褒めるのは早いような気がしますよ」

「そうかな……? まあいいか。えっと、試合は……」


 と、アンデルを目に留めた時、ナーゲンは苦笑した。


「まだ始まっていないみたいだね……丁度良かった。レン君」

「はい」

「これを」


 言って、彼は懐から何かを取り出し、俺へと差し出した。


「……えっと?」


 首を傾げ提示された物を見る。それは、元の世界で例えればフックのついた耳かけタイプのイヤホンのような物。それが一個、俺に差し出されている。


「あの、これは……?」

「これからシュウや魔王と戦っていく場合……必然的に君は中心となっていくだろう。そしてこの統一闘技大会本戦に参加した人物達も多く参戦することだろう……そうした彼らのことを戦いを通じて把握しておくのも、悪くないと思ってね」


 ……言わんとしていることはわかるのだが、それとこのイヤホンみたいな物と何か関係があるのだろうか?

 無言でいるとナーゲンは俺にそれを突き出す。仕方なく受け取ると、


「耳にはめてくれ」


 形通り、耳に着けるよう促される。俺はとりあえず右耳にそれをつけると、


「――ずいぶんとまあ、余裕だな」


 淡々とした口調の、デュランドの声が聞こえた。


「え……?」


 まさか闘技場内にいる人物の声が聞こえるとは思わなかったため確認。彼はいまだ歓声に手を振るアンデルを見据えていた。口の動きまではわからなかったのだが……今のは、リアルタイムで発せられた言葉なのか?


 疑問が頭に浮かんでいると、ナーゲンが口を開いた。


「闘技場の周囲には観客を保護するために見えない結界を張っている。その魔力は闘技場を半球体状に覆っているのだけれど……その魔力を捕捉すれば、中の声をしっかり聞くことができる」


 ――つまり、これは闘技場の中にいる人物達の声を聞く魔法の道具というわけか。なるほど、それならさっき言った言葉の意味も理解できる。


「……あ、ナーゲンさん。それなら僕達も――」

「残念ながら開発したばっかりで、一つしかない」


 セシルが要望すると、ナーゲンは首を振った。


「だから、中心になるであろうレン君にだけ渡しておくよ……これからの戦いに役立ててくれ」

「……はい」


 期待、されているということなんだろうな。闘技場の中とはいえカインを倒したわけだし。


「使わせてもらいます」


 俺が答えるとナーゲンは微笑んだ……その顔を見て、俺は期待に応えなければならないと、心の中で改めて思うこととなった。


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