雷撃と願い
再び打ち合った瞬間、再度雷光が俺の真正面で炸裂する。けれど相手を押し留めることはできず……カインは、二撃目を放つ。
すかさず俺も氷の盾で防いだ。さらに連続攻撃が来るかと思った時――俺は、盾を前面に構え後退。距離を置く動きを見せると同時に刀身へさらなる雷撃の魔力を注いだ。
カインもそれに気付いたか警戒を示し……先ほどまでの猪突猛進な攻めから転じ、動きを止めた。
けれど――それこそが、俺の狙いだった。
「ふっ!」
刹那、一瞬の隙を突いて俺は剣を地面へ薙ぐ。剣は石床を易々と斬り――同時に、
雷撃が、華を咲かせるように縦横無尽に駆け巡る!
カインはこの攻撃に驚いたか、跳ぶように一気に後退した。さらに全て避けることはできず、地面を伝う二筋の雷撃がカインへと襲い掛かる。
それに対し、彼は剣をかざした。直後破裂音が響くと同時に、雷撃は消滅する。
「……ふむ、そういう戦い方か」
そこでカインは、俺が何をしようとしているのかを理解し、呟いた。
「単純な剣技ではなく、雷の力と組み合わせて戦おうというわけか」
俺は答えなかったが……それは、紛れもなく正解だった。
リュハンは俺に新たな手法と言った……つまりリュハンは、俺の手持ちで直情的な戦法以外を考えろと言いたかったわけだ。
氷の盾を生み出し戦い方を変えたように、持ち得る魔法を使って戦法を変える……考えてみればなんのことはないのだが、確かに俺は強力な剣の威力に任せ戦ってきた。
けれどそれだけでは目の前の相手には勝てないし、何より勇者レンが所持していた氷と雷の魔法が無為になる……これを放置しておくことは、俺にとっても不利益だろう。
だからこそ、俺は戦法のバリエーションを増やすため雷撃を使った……が、あくまでその場の勢いで使用しただけ。先ほどまではカインを上手く騙せたが、ここからはそうもいかないだろう。
「とはいえ、まだまだ手としては未熟だな……どうするつもりだ?」
「……さあ、ね」
不敵な笑みを浮かべ、俺は応じる。実際は考えが浮かんでいないわけだが。
リュハンに色々と相談すればよかったのだが……いや、彼だって俺に『暁』と『時雨』という技を習得させた。その二つが短い時間の中で限界だったのだろう。
それに、こうした戦法は俺自身開発していかなければならない……リュハンはそうした手段を見つけカインを打ち破ることを期待している――というより、それができなければ俺は負ける。
「つくづくスパルタな訓練法だな……!」
呟いた時、カインが動いた。かなり距離を空けていたのだが、恐ろしい速度で俺へと迫る――!
対する俺は反射的に剣を地面へ振った。先ほどと同じような雷撃……ではない。今度は、もっと別の――
次の瞬間真正面から迫るカインへ大量の氷柱が発生した。それもまた雷撃同様華のように生み出され……しかしカインは、一振りで多くの氷柱を吹き飛ばし、俺へと接近する。
「そんな単調な手では通用しない――!」
彼は断じ、さらに剣戟を加えて氷柱を全て破壊する。当然俺もわかっていた。こんなやり方では駄目だ。もっと、カインに対抗できるようなやり方を――!
そうした感情が頭の中を支配した時、まるで呼応するように内なる魔力が胎動した。とはいえそれは具体的な形を成さぬまま、カインが剣を差し向ける。
それを盾で弾いた直後、今度は氷の盾が僅かだが壊れ、破片が舞った……その一事で俺は、このまま手が無ければ間違いなく押し負けると悟る。地力は当然ながらカインが上。ならば、このまま単純な攻防に持ち込んでも勝てはしないし、盾も限界――
カインは盾が少し破壊されたことで勝機と見たか、さらに俺へ迫った。その猛攻を俺は『時雨』によって弾くが、盾の破壊が無意識の内に負担となったか、先ほどよりも危なっかしい防御であり……一撃肩を掠めた。
それを見たカインは、さらに攻勢をかける。その眼は俺を射抜き、なおかつこれで終わらせるという気配を見せる――
直感的に、俺は心の中で断定する。今が、分岐点だ。
カインの剣が襲来する。正念場だと判断した直後からさらに集中力が増し、剣の軌跡がはっきりと見えた。
おそらくそれは俺が盾で攻撃を防ぐのを前提とした一撃――盾を破壊し、勝負をつける気なのだと断じることができた。
そして盾を構成する左腕は、その剣に向かおうと動く――彼はこの迎撃能力を逆利用し、俺に盾で防御するように仕向けていると解釈した方が良いだろう。つまり、カインはこの技の特性を把握し、自分に有利な状況に持ち込もうとしている――
刹那、俺は『時雨』を自らの意思で解除した。同時に半ば無理矢理剣を、カインの剣へ叩きつけるように動かし、
俺の体に剣が入り込む寸前、それを押し留めた。
「……耐えたか」
カインが短く言った……同時に俺は、刀身に雷撃の力を加える。
その時、決して策があったわけではなかった……けれど、この場を打開する策が、この魔法の力にあると根拠なき確信が胸の中にあった。
それが果たして正しいのか――考える間にカインが剣を押し返す。一度仕切り直しと言わんばかりに双方が僅かながら距離を置き――俺とカインは、同時に剣を繰り出した。
その剣の流れを、遠目から見る観客に視認できたかどうかわからない……けれど、もし判断できたならこう思ったかもしれない――相打ちだと。
刹那、俺の刀身から雷撃が迸り、カインの鋭い剣戟が襲い掛かる。俺は遅れて盾でカインの剣を防ぎにかかる。彼にとっては防がれてしまう一撃……だが、盾を破壊できればそれで良いと判断していることだろう。
そして俺は……もしこのまま攻撃が成功せず盾が破壊されれば、敗北確定だろう。カインは盾を生み出す隙を与えることなく、俺に攻撃を浴びせ倒すのは必定……だから、俺はここで決めなければならなかった。
その中で俺が選択した攻撃は――刺突だった。
カインの剣が盾に触れる。衝撃は重く、盾越しにこのまま彼がふり抜けば破壊されると直感した。その間に俺の突きがカインへ迫る……なぜ、横薙ぎといった確実に入る攻撃をとらなかったのか――
俺はこの時点で、カインの左腕に魔力が集まっていることに気付いていた。間違いなくそれで攻撃を防ぎ、無傷で盾を破壊する。そういう算段だろうと察したのだ。
だからこそ、俺は反射的に刺突を選んだ……けれど避けられれば終わりだし、カインの結界を突破できる力を構築できなければ、やはり終わる――
「っ……!」
短く呻き――その時、俺は単純に負けられないと思った。この統一闘技大会に出場して、優勝したいとリュハンに告げた。けれど、今思ったのは優勝などではなく、ただ目の前の彼に勝ちたいという願い。
そのシンプルな願いは――俺の内からさらなる魔力を呼び、剣の先端へと結集する!
直後、カインは何かを悟ったように俺の剣を見て、盾を両断しようとした刃を引いた。刹那、いけると思った。この攻撃ならば、カインに到達する――!
刺突が放たれた。対するカインはすぐさま回避に転じようとする。彼の回避力をもってすれば、俺の単純な刺突を避けることは容易だろう。しかし、
次に生じたのは、雷光――俺が握る聖剣の先端から生み出された、凝縮された雷撃。
それが、刺突に合わせ槍のように鋭くなって先端から射出される――雷の矢や、弧を描く斬撃の延長線上とでもいうべき、雷の槍。
それが、今まさに……カインへ、到達した。