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彼の技

 戦士達がラキを注視しつつ間合いをジリジリと詰める。気付けば観衆は、この状況を見て黙していた。

 ラキに対し、残っている戦士達が向かい合っているような状況……一方的な集中攻撃であるため、ブーイングの一つでも出るのではと思ったのだが――


「この攻防で、もしかすると彼の本戦出場が決定するかもね」


 隣に座るエクサが語る。


「……どういうことだ?」

「周囲の人もそうした心積もりで見ているはずだよ。もし彼が六人を退けたなら……相当な実力者だと確信する」


 つまり、本戦出場という事実が決定するのかを観衆は見定めるため、文句も言わず沈黙しているというわけか。


「もしこのまま彼……ライが沈めば、ブーイングの一つでも出るかもしれないが……まあ、自分の身を脅かす存在がいる以上、共闘だって選択の内だ。彼は運が無かったとしか言いようがないし、この攻防程度でやられるようでは、本戦なんて夢のまた夢――」


 解説する間に、戦士の一人が走った。続けざまに二人がラキの左右に進み、最初に走った一人の後方に三人が続く。

 どうするのか――ラキに視線を注ぐと、彼は右手に剣をぶら下げたままで自然体に近い格好。とても六人に迫られているような状況には見えないし、何より、


 戦い始めた直後から一切変わっていない涼しい顔。しかしそれを見て、俺は決まる――と、心の中で断定した。


 まず先陣を切った戦士が横薙ぎ。それをラキは軽く弾いて受け流した後、懐に潜り込んで柄で腹部を一撃。戦士はさほどダメージはなかったのか倒れるようなことにはならず、僅かに呻きつつも後退はしなかった。

 そこに、残りの五人が迫った。さらに最初の戦士もすぐに立て直し、彼らと同時に剣を振った。


 六つの斬撃がラキへと迫る――ここで俺はラキが何をするのか直感する。彼は、迫りくる刃の全てを――そう頭の中で断じた瞬間、


 華が、咲き誇った。


 観衆は誰もが口を丸くし、その様を眺める……ラキは、一瞬で六つの剣戟を弾き、なおかつ射程内に捉えていた戦士達に、一撃ずつ加え吹き飛ばした――!

 間違いなくそれは、リュハンから学んだ『吹雪』という技……それを正確無比かつ、最低限の斬撃数で戦士達を返り討ちにした。


 そして六人が一斉に床に落ちた――直後、一際大きな歓声が、闘技場内にこだました。

 声によって、勝利を宣言する女性の声も雑音程度にしか聞こえない。けれど怪我人を収容する面々が現れたことにより、ラキは剣をしまって踵を返す。


 だが闘技場内から離れて行こうとした時……ふいに、首を動かした。そして、


 俺と、目が合った。


 にわかにこちらが緊張する。ラキはただ俺に視線を流しただけだが……俺がここにいたことに最初から気付いていたような様子を見せ、闘技場から姿を消した。

 周囲では彼の所業を話す人々……それらを耳にしながら小さく息をつくと、エクスが口を開いた。


「なるほど、勇者レンがマークする理由がわかるよ。あれは強いね」

「……エクス、お前は自分が勝てると思うか?」

「全力は尽くす。それだけだ」


 端的な物言い。表情を窺うと、ラキの消えた場所に視線を送り目を細める彼がいた。


「……彼はおそらく加減していただろうね。武器を易々と破壊して見せたことを考えれば、武器破壊をしながら戦士達を切り刻めたはずだ。けれどそうはせず、全員を等しく吹き飛ばし、気絶させる攻撃……俺としては、こちらの方が難易度は高いと思う」

「本戦出場するパフォーマンスといったところか?」

「そうした解釈で良いと思うよ」


 エクスは頷くと、表情を戻し俺に尋ねた。


「ところで、試合が始まる前別所に視線を向けていたようだけど」

「ん? ああ、メモをとっている人がいると思って」

「あれは二通り考えられる。闘士が弟子や知り合いを使って他の予選参加者のデータを収集しているか、能力分析をして賭け率の参考にするブックメーカーの差し金か」


 ああ、そういうことなのか……理解した状態で視線を送ると、その動作も納得できる。


「ま、どっちにしろ浮いている存在なのは間違いないね……特に前者の情報収集というのは、個人的にはどうもなぁ」

「それがいけないと?」

「別にいいと思うんだけど、これ見よがしにしているのを見ると辟易する」


 ……敵を知ることも重要だと思うので、個人的には別に良いのではないかと思ったりもするのだが……ま、見解は人それぞれか。


「さて、もう三戦終了か……この調子だと、ここは早く終わりそうだね」


 そこでエクスが呟く。対する俺は首を傾げた。


「早く終わる?」

「ん? ああ、闘技大会の日程に関してあまり把握していない?」

「……そういえば、概要程度しか聞いていないな」

「じゃあ教えてあげるよ。基本的に予選は二日……予備日や査定の日数などを考慮に入れれば全部で五日あるわけだけど、基本的にはこの二日で終わる。で、残りの三日はそれまでの予選の状況を勘案し、対応を決定する」

「二日、か」

「午前と午後に一会場につき十戦行われる……それを合計三会場、二日繰り返すわけだ」


 ……計算すると、ここで行われる予選人数が、午前十人十戦だから百人。で、それが三会場だから三百。午後にもう三百で合計六百で二日だから……って、これでも千人超えるのか。


「ちなみに予選通過者の選考基準は不明だね。十人で混戦を行い勝った人だけ抽出する場合でも二日で百二十人。当然推薦者もいるわけだから、勝ち残ったからといって選ばれるとは限らない」

「狭き門なわけだな」

「そういうこと。あと、試合の状況的に押してしまうのがほとんどだから、三日目に入るケースも結構あるみたいだけど……お、次の面々だ」


 四組目。視線を向けると様々な武器を持った戦士達が入場する。あいにくこの組に見覚えのある人物はいない。


「さて、重要なのはさっきのライを超える実力者がいるかどうかだ」


 エクスは嬉々とした表情で観戦を開始。俺もまた試合に集中し――やがて、没頭していった。






 午前の試合が順調に消化されていく。ここまで八戦行われ、結果から言えばラキを超える人物は現れていない。


「残り二組か」


 エクサは腕を組みつつ独り言のように呟いた。


「ここで確実に予選突破するのは、さっきのライだけだろうねぇ。他の面々は、目を見張る程じゃない」

「……そうだな」


 腕が良く、他の戦士を圧倒している者もいた……が、本戦に出場する現世代の戦士と比べれば、どうしたって見劣りする。


「本戦出場する人のことを考えれば、迂闊に選ぶことはできないだろうね」


 エクサは語りつつ腕を解き、ため息をついた。


「けど……俺も明日戦うんだよなぁ」

「本戦出場の自信は?」

「あるよ……と言いたい所だけど、今回はレベルが高そうだし難しいかもね」


 エクサはそう評しつつ、俺に目を向ける。


「もし本戦出場できて、戦うことになったらよろしく」

「ああ」


 頷いた後、闘技場に目を移し、

 リミナを発見した。とうとう出番のようだ。


 これまで登場した八組の中にも女性はいたので、エクサや観客は一切驚かない。下手に追及されると面倒なので、とりあえず従士であることを黙ったまま静観していると――


 新たな女性――アキだった。


「お、女性二人は初めてだね」


 ――俺が内心驚愕しているのを他所に、エクサは呑気に呟いた。


 おいおい……まさかの同一組だ。予選は勝利ではなく戦った結果によって評価されるとはいえ、これはかなりまずくないか?

 場合によってはどちらかが本戦出場できないのでは――そうした推測すら頭に浮かびながら、俺はただ見守ることしかできなかった。


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