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戦いの前夜

「なら、話そう……レンには、まだ教え残している技がある。それを、これから教える」


 リュハンは改めて話し出す。対する俺は、首を傾げた。


「それ、本戦までに身になるんでしょうか?」

「わからん」


 ……不安しかないが、彼に従うしかないだろうな。


「説明すると、今から教えるのは二つの技だ」

「二つ……それを集中的に訓練すると?」

「そうだ。一つは攻撃技。そしてもう一つは防御技だ」


 攻撃と防御……特に防御の方が気になるな。これまで攻撃技ばかり習得してきたから。


「攻撃技の方は名を『暁』という……レン、闘技大会を勝ち残っていく中で、必然的にルルーナやカイン、さらにはアクアと戦うことになるだろう」

「そう、でしょうね」

「彼らに対抗するための技だ。無論、応用すればシュウ達にも通用する」


 対抗――となると、重要性は高そうだ。


「ただ、この技については私も教えてやれることが少ない」

「少ない?」

「習得難度が高い上、私もあまり使えないからな」


 使えないって……それ、教えることができるのか?


「使えないってどういうことですか?」

「使用者の魔力の質によって威力が大幅に変わる。私の魔力だと、この技を使用してもほとんど威力が出ない」

「俺なら大丈夫だと?」

「聞いたところによると、白銀の魔力を所持しているらしいな。その魔力量なら、十分可能なはず……というより、その事実を聞いて教えることにしたまでだ」


 ……話を聞く分には、相当強力な技のようだ。とはいえ難度が高いという事実が、さらに本戦までに間に合うのか不安にさせる。

 ま、とやかく言っても始まらないか……俺は「わかりました」と言い、続きを促す。


「それで、防御技は?」

「名は『時雨』といい、少し特殊な防御法……おそらくこの二つは、ラキも習得していないはず」

「習得していない……根拠は?」

「学ぶ剣技の中で、最上級に位置する技だからな。アレスが教えていた時の二人の年齢を考えれば、伝えていないだろう」


 ……改めて思うが、間に合うのか?


「レンは基礎的な部分はしっかりとできているため、習得自体は可能だ。とはいえ、それが闘技大会できちんと使えるかどうかは、レン次第だ」


 そこまで言うと、リュハンは肩をすくめた。


「これは本戦に際し習得するよう私は決めたが……中途半端に教えるつもりはない。今以上に厳しくなることを覚悟しろ」

「……はい」


 どうやらこれからさらに大変になりそうだ……とはいえそれをしなければラキに勝つことができないのなら、やるしかない。


「今日の昼食後から指導に入る」

「はい」


 返事をした後、リュハンは「以上」と告げ屋敷の中へと入った。対する俺はその場に留まり、じっと先ほど出会ったラキのことを考える。

 勝てるのか……そういう疑念が頭に浮かぶ。強くなっているのは間違いない。けれど最初に出会ったあの圧倒的な雰囲気と、打ち合った時の光景を思い出し、勝てる想像ができない。


 不安ばかりでは勝てるものも勝てなくなるのは理解できるのだが……俺の旅の中の記憶では、常にラキは壁として立ちはだかっていた――いや、より正確に言えば、勇者レンの本能的な記憶もまた、敗北のイメージしかないだろう。


「……まあ、これからの訓練次第か」


 やがて俺は息をつき、気を取り直して屋敷へと入る。そして昼食をとるべく、食堂へと足を向けた。






 ――そうして、俺はリュハンと共に訓練を始める。彼の言う通り学ぶ技法は相当難しく、とてもじゃないが本戦までに間に合わないのではと思った。

 だからといって付け焼刃の技が通用するとは思えない。焦燥感は募るが、俺は気持ちを抑えつつ剣を振り続けた。


 最初、予選が始まる十日後まで日数もあるなどと思っていたが、徐々に近づくにつれ、成果が出ず気持ちばかりが先走るようになる。それをリミナやセシルから指摘されつつ――予選エントリー終了の日となった。






「さて、明日から予選に入るわけだけど……三人は、どうするのかわかっているかい?」


 夕食の折、セシルがフォークを動かしながらリミナ達へ尋ねる。今日の席は予選を受ける三人と、それ以外が対面するような形で着席している。ちなみにノディもルファイズの推薦枠で本戦出場が決まっているため、必然的にこちら側となる。


「えっと、明日の朝闘技場に行けってことでしょ?」


 セシルの問いに答えたのはフィクハ。


「そこに予選会場がどこなのかが記載された掲示板が設置される」

「正解……で、ロサナさん」

「ええ」


 セシルの言葉にロサナはパンを食べる手を止め、懐から一枚の紙を取り出す。


「実は予選に関する資料が私の手元に来ているのだけれど……これによると、ラキ達はバラバラになるように配慮されているわね」

「バラバラ?」


 聞き返した俺に、ロサナは小さく頷く。


「一つに固めていた方が監視もしやすいけど……三人で集まっている状態だと、何をしでかすかわからないし、厄介になるからというのが理由らしいわ……そういうわけで」


 と、ロサナは俺達に一つ指示を行った。


「予選に参加しない面々は、それぞれラキ達のいる会場で監視をすること……もちろん他にも見張りはいるから、その中の一人ということで頼むわ」


 そこまで語ると、ロサナは資料に目を通す。


「で、その会場には三人もバラバラにいる……故意に決めたわけじゃないけど、これは好都合よね」

「なら、俺達は三人の応援に行くという形ですね」


 俺が言うとロサナは頷いた。


「ま、そういうこと。予選からお祭りのようになるし、監視ばかりじゃなくて雰囲気を楽しめばいいわ……ところで、リュハンはどうするのよ?」

「別所で仕事がある」

「あ、そう。なら私は明日ナーゲンに会って指示を仰ぐわ」


 彼に返答した後、ロサナは俺達に顔を向けた。


「話は以上……誰がどの会場に行くかは自由に決めていいわよ」

「……なら、僕はフィクハかな」


 そこで声を上げたのは、セシル。


「グレンとは何度か訓練で打ち合っているけど、フィクハの能力はイマイチ把握していないし、見ておきたい」

「分析に余念がないわね……」


 呻くようにフィクハが述べると、セシルは「当然」と答えた。


「相手を知ることも、戦術の一つだよ」


 眼光鋭く相手を見据え――フィクハは、首をすくめた。

 その次に声を上げたのは、ノディ。


「なら、レンは決まっているし私はグレンの所に」

「決まっているって……」

「レンはリミナの所に行くのは確定だよね?」

「……勇者と従士だし、必然的にそうなるな」


 決めつけられるというのは釈然としないが……まあいい、話が進まない。


「じゃあ、そういうことで明日からはよろしく」


 ロサナが締め、話が終わる……だが、俺としてはまだ疑問があった。


「ロサナさん、予選の期間はどの程度ですか?」

「……そうね、予選そのものはおよそ五日程度。予備日を含めそこから五日余裕があり、本戦となるわね」


 合計十日――本戦までまだ余裕があるとはいえ、それでもやはり時間は少ない。

 この段階で技は完成していない。だから少しでも時間が欲しいところだが……仕方ないか。


「予選の三人は、本来の力を出せれば本戦出場は可能なはず……そして推薦枠の三人も、きっちり訓練を継続すること」

「無論だね」


 ノディは言いながらコップに入った水を飲む。食事を終え一息ついた様子。


「本戦は予選の状況によって変わるかもしれないけど……ま、戦うことになったらその時はよろしく」

「こっちのセリフだよ。返り討ちにしてやる」


 セシルがノディに対し笑みを浮かべ宣言。するとノディもまた不敵な笑みを浮かべ、双方無言で視線を重ねる。


「はいはい、決着は大会で」


 ロサナが手を鳴らしてまとめると、俺達を再度一瞥し、


「食事も終わったみたいだし、これでお開きにしましょう。みんな、明日からよろしく頼むわね――」


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