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二つの再会

「強くなったようだね、一目見てわかるよ」


 にっこりと、嬉しそうにラキは語る。俺はなおも無言のまま、相手を見据え、

 そこで――彼の後方にもう二人見知った人物を見つける。一人は栗色のショートカットに灰色のローブ……ミーシャだ。


「ああ、三人一緒に登録をしに来たんだ。バラバラだと面倒だし」


 ラキが俺の視線に気付いたらしく言う……そしてもう一人はエンス。以前は銀髪に映えるような執務服を着込んでいたが、今回は地味な茶褐色の外套。正直、あまり似合っていない。


「あ、エンスの格好を見て似合ってないとか思っている?」


 俺の考えていることを指摘するラキ。それに俺は大いに警戒し、鋭い目で相手を見返す。


「おっと、待ってくれよ。戦う気はない」


 ラキは手で制する。もしかするとこのまま剣を抜くのでは、などと考えているのかもしれないし、単におどけているのかもしれない。

 とにかくラキには、何をしでかすかわからない雰囲気がある。それは最初の時から一切変わっていないし、相手のペースに巻き込まれないよう注意を払うべきだろう。


「……そういう態度をとるのは仕方ないけどさ」


 苦笑するラキ。俺は無言で三人を注視し、一時も目を離さないようにする。


「ま、いいか。今日は挨拶代わりだよ。勝ち進んでいけば、いずれレンと戦うことになるかもしれないし」

「……勝つ気で、いるようだな」


 シュウが情報を持っていた以上、ラキ達にも現世代の戦士達が参加することは伝わっているはず。それにも関わらず、ラキの顔は涼しげだ。


「シュウに死に物狂いで勝つよう言われたしね」


 俺の言葉に対し、ラキは肩をすくめる……言葉通り受け取るなら、シュウ達は優勝することが至上命題という風に聞こえるが、果たしてラキの言っていることは本当なのか――


「ミーシャも、必ず勝てと言われたよね?」

「そうだな」

「ほら」

「……何がほら、なのよ」


 その声は、横から。一瞬だけ視線を向けると、リミナ達の姿。登録を終え戻ってきたようだ。

 三人の視線はラキ達に向いている……どうやら道具の効果はきちんとあるようだ。


「……ミーシャ」


 そして、フィクハが声を出す。


「久しぶりね……前会った時は、そんな殺意に満ちた気配を漂わせてはいなかったと思うけど」

「私が魔族であることは知っているのだろう? ならば、当然じゃないか」


 ミーシャは笑みを湛えながらフィクハに応じる。


「しかし、驚いた。まさかフィクハ自身がこの戦いに関わることになるとは思わなかったぞ」

「アークシェイド討滅戦から流れでここまで来たのよ……ま、不服とは思っていないわ。シュウさんに会って、訊きたいこともあるしね」

「そうか」

「……闘技大会でもし当たるとなれば、よろしく」

「そもそも本戦に出場できるのか?」


 挑発的なミーシャの言葉。けれどフィクハはそれに乗ることなく、


「本戦で、会おうじゃない」


 不敵な笑みさえ浮かべ、彼女に応じた。


「どうやら、あなた方も修練を重ね私達と対抗できるという自信がおありの様子」


 そこで口を開いたのはエンスで……次に物申したのは、グレンだった。


「自信がある……けれど、そちらの目からはまだまだ足りない、とでも言いたげだな」

「そんなことはありませんよ。むしろ、大いに警戒しているくらいです」


 エンスは目を光らせ、俺達を値踏みするように一瞥する。この場でどれほど戦えるのかを観察しようとするような、嫌な目。


「実際どちらが上なのかは大会で決めればいいだけの話……ベルファトラスで闘技大会を出場する間は何もしませんから、ご安心ください」

「逆に言うと、終われば見境がなくなるということだな」

「そうかもしれませんね」


 エンスはグレンの言葉に笑みを伴い答えた……やはり、何かしら目的があるとみていいだろう。


「さて、ラキ。そろそろお暇しましょうか」

「そうだね……レン」


 ラキは再度俺と視線を合わせ、口を開いた。


「正直、僕としては複雑な気分だよ。こうした大きな舞台で刃を交えるような状況となってさ」

「……お前は、何でこんなことをしている?」


 改めてラキに問い質す。思い出すのは、今朝見た夢の出来事。


「なぜ、魔王の力を持つシュウの味方をする?」

「……それは答えられないと言ったはずだよ」

「こんなことをして、郷里の人達がどう思うのか――」

「その辺りのことは、レンだってわかっているはずだよ」


 ――次の瞬間、ラキが笑った。けれど、それまでのものとは異なる、どこか負の感情を宿したもの。

 やはり、何かあるのか……俺はエルザやティルデのことを思い返し、どうラキに告げるか考える。二人の現在について俺は全く知らないため、下手にエルザ達のことを言及すると、俺が記憶喪失のフリをした異世界の人間だとわかるきっかけを与えてしまうかもしれない。


 俺は一瞬だけエンスへ視線を向けた。彼はこちらに笑い返し――ラキに話していないのだと、目で伝える。

 そして、沈黙が生じ――ラキは俺に背を向けようとして足を反転させる。


「……この場に」


 その時、声を出した。それでラキの足が止まり――頭の中で、俺はどう言おうか思いついた。


「この場に……エルザやティルデさんがいたら、どう思うだろうな?」


 どう反応するのか――考える間に、ラキがこちらを見返す。微笑を浮かべた、含みのある顔つき。


 それを見て、なお続ける。


「こうした状況を見て、二人はどう考えるだろうな?」

「……まあ、喜ぶようなことにはならないだろうね」


 ラキは肩をすくめた。疑われるようなことにはなっていない……どうやら、上手く言えたようだ。とはいえ、ラキから情報を聞き出すこともできなさそうだ。


「けれど、僕は前に進むだけだ……レン、言っておくけど止めても――」

「お前が説得に応じないことくらいは、わかっている」


 俺はラキを遮るように告げた。


「だから、統一闘技大会で決着をつけさせてもらう」

「構わないよ……いや、そういう意味合いも、僕の中にはあるのかもしれない」


 ラキは語ると背を向け、今度こそ歩き出す。


「レン、戦える時を楽しみにしているよ」


 そう言い残し、彼はエンスやミーシャを伴い闘技場を離れて行った。


「追った方が良いのかな?」


 ふいにフィクハが呟く。けれど、リミナが首を左右に振った。


「下手に関わると危険でしょう……私達ではなくナーゲンさん達にお願いするのが無難でしょうね」

「それもそうか……で、レン」


 話の矛先が俺へと向く。


「エルザって人のことは、レンの口から聞いていたけど……ティルデって?」

「エルザの母親だ……今日、初めて夢に出てきた」


 答えながら、なぜラキと出会うこの日に夢を見たのか疑問に思った……が、理屈で説明できないような気がしたので、捨て置く。


「とりあえずそれ以上のことはわからない……一応、ナーゲンさん達にも話しておいた方がいいかな」

「そうですね」


 リミナは頷き、人で埋め尽くされている闘技場を眺める。


「ひとまず登録は終わりましたが……ラキ達のこともありますし、ナーゲンさんに報告しましょうか」

「そうだな……フィクハやグレンはどうする?」

「私は屋敷に戻るよ」

「同じく」


 フィクハが答えるとグレンも同調。


「そっか。なら二人は先に帰っていてくれ。報告は俺とリミナで」

「頼んだ」


 グレンが言うと俺は小さく頷き、リミナと共に歩き出した。


「ナーゲンさんは、闘技場の中だよな?」

「いつもはそうですが……この混み具合の中いるのでしょうか」

「ま、行くだけ行ってみよう。もしいなかったら、日を改めるということで」


 そういう結論に至りつつ、人混みを避けるように迂回しつつ闘技場へと歩む。この時点では傭兵達も和気あいあいとしており、殺気のようなものは窺えない。

 しかし、予選が開催されればこうした顔もなくなるだろう……果たしてどれだけ本戦に出場できるのか。俺はラキ達のことを思い出しながら戦士達の顔を眺めつつ、闘技場の入口へと進んでいった。


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