彼女の表明
全員が合流を果たした時、縛った面々と馬車も街道に集め、簡単な会議を開くことになった。
といってもまだ魔族がいるかもしれないということで、メンバーの中でセシルとノディ。そしてもう一方の班にいたグレンとフィクハの四人は、周囲を見回っている。
「こちらの敵も似たようなものだった」
囲うようにして立った時、リュハンがまず口を開いた――現在彼は鎧など着ておらず、黒い衣服で統一している。で、ボサボサだった髪も短くなっており、ひげもなく幾分若返った感じだ。
「異なる点があるとすれば、悪魔の襲撃はなかったが」
「悪魔がいようがいまいが今の私達には関係なかっただろうけどね……ともあれ、全員無事でよかったわ」
ロサナはそう語ると頭をかきつつ、さらに自身の見解を述べる。
「さて、今回の襲撃についてだけど……わからない点がある。その内のいくつかは、襲撃された神殿の人間に聞けばわかることでもあるけれど……」
「どうやって宝玉を奪いとったのか。そして、誰が何のためにということですよね」
俺が提言すると、ロサナは大きく頷いた。
「他にも、なぜ運び屋を使ったのか……なぜ魔族が襲撃して来たのか……私が一番気になるのは運び屋ね。強襲した面々をそのまま使って宝玉を運べば、奪えたかもしれないのに」
「あるいは、宝玉を奪う気はなかったのかもしれない」
そこでリュハンが口を開く。それに最初反応したのは、リミナ。
「なかった、とは? それだと神殿を襲撃したこと自体無意味ではないですか?」
「逆説的だが、こうして私達を魔族と戦わせるために、色々と計画を立てたのかもしれん」
「わざわざという気はするけど……シュウのことだから、わからないわね」
肩をすくめながら応じるロサナ。リュハンの説を否定する気はないようだ。
「そもそも神殿をこの時期に襲撃したということ自体が変な気もするし……ま、これ以上首を傾げていても仕方がないわね。詳しい事情はルファイズからの報告を待つことにして、処理が終わったら一度ベルファトラスに戻りましょうか」
ロサナはそう言った後、馬車や縛られている運び屋を見据えた。
「リミナ、既に伝令は送っているのよね?」
「はい。連絡はしてあります」
「なら、後は待ちましょう。セシル達によって魔族が見つからなかったら、きっとこれで終わりよ」
語った時、セシル達が戻ってくる。次いでグレンやフィクハもまた、作業を終えこちらに来た。
――グレンとフィクハは、以前と装備は変わっていない。ただ双方とも魔法により能力を強化しているため、グレンならば緋色の胸当て表面に魔法の力が備わった紋様が刻まれている。フィクハも同様で、革鎧に似たような処置が施されていた。
「異常はなかったよ」
セシルが代表して口を開く。それにロサナは「わかった」と言い、周囲をぐるりと見回した。
「……遠くから蹄の音が聞こえるわね。騎士も来たようだし、このまま帰るとしましょうか」
彼女の言う通り、俺の耳にも聞こえてくる。拍子抜けするくらいあっけない終わりではあるが……とりあえず、この騒動は終焉を迎えたようだった。
それから俺達はベルファトラスへと帰還する。ちなみに行程としては、ルファイズの領内を出た直後に転移魔法で戻ってきた。交戦した場所は国境に程近い所だったので、その日の夜にはセシルの屋敷へ帰ることができた。
「お帰りなさいませ」
玄関扉をくぐると、ベニタが迎えてくれた。
「夕食はできておりますが、いかがしますか?」
「……食堂、自室、どちらで食べてもいいようにしといて」
「わかりました」
セシルの指示に頷いたベニタは、早々に玄関ホールを去る。それを見送った後、彼は俺達に言った。
「夕食は好きな時間に食べてもらえばいいよ……僕は、一度部屋に戻る」
「なら私もそうする」
ノディが賛同し、さらにグレンやフィクハも同じような面持ち。結果この場で解散となり、それぞれ屋敷の廊下へと消えて行った。
で、残されたのは俺とリミナ……彼女は俺が動かないため立っているのだろうと思い、声を掛ける。
「リミナ、そういえば最後に戦っていた魔族だけど」
「フォーメルクで遭遇した魔族でしたね」
「ああ、そうだ。戦っていて何の問題もなかったのか?」
「はい。攻撃を防ぐことができましたし、相手を力で押し返すこともできました」
彼女にとっても、中々の感触だったらしい。
俺もガーランドと戦い、確かな手ごたえを感じていた。強くなっているのは間違いないし、シュウが以前生み出した黒騎士。あれにもきちんと対抗できるかもしれない――
「ロサナさんの教えがあって、ようやく勇者様のご迷惑にならない技量を手に入れた、と思います」
「むしろ、俺がやられるのを警戒しないといけないくらいじゃないか?」
言うと、リミナは首をブンブンと振った。
「とんでもありません……まだまだですよ」
「基礎的な能力はリミナの方が上だろうし、その内追いつかれるような気もするけどな……」
そんな風に評したが、リミナはなおも首を振ろうとする。その時、
「ま、追い抜くかはこれからの努力次第ね」
ロサナの声だった。そちらを向くと、意味深な笑みを浮かべる彼女がいた。
「ともあれ、強くなってくれてなにより……これで、改めて闘技大会が楽しみになってきたわ」
「闘技大会……エントリーがもうすぐですね」
俺の言葉にロサナは深く頷く。
「ええ……ところで、統一闘技大会についてレン君はどこまで知っているの? わからなければ話してあげてもいいけど」
……そういえば、詳しい話を聞いたことが無かったな。ここは好意に甘え事情を聞いておいて良いかもしれない。
「お願いしてもいいですか?」
「いいわ。それじゃあ食堂で夕食とりながら話しましょうか……リミナも来る?」
「はい。実は私もあんまり詳しく知らないので」
「それじゃあ二人とも、部屋で装備を解いたら来なさい」
ロサナは言った後、体を反転させ廊下へ。俺とリミナは互いに目を合わせた後、歩き始めた。
「闘技大会か……」
廊下を歩む中、俺はふと呟く。すると横を歩くリミナが反応した。
「確かラキを含め、シュウさんと関連する面々も参加するんですよね……」
「優勝を止めるために色々とやるらしいな……ま、ここは俺がどうすることもできないし、ナーゲンさん達に任せるしかないな」
――ここで、一抹の不安を覚える。敵の目的は一体何なのか? そして、ラキと闘技大会で戦うことになったら、勝てるのだろうか?
「私も、できる限り頑張ります」
「……頑張る?」
俺は首を傾げリミナに問う。すると、
「言っていませんでしたか? 私も闘技大会に出るつもりなのですが」
「……は!?」
初耳であったため、立ち止まって驚いた。
「リミナも!?」
「はい。ロサナさんに言われて」
「……何も聞いていないんだけど」
「そうでしたか。私自身戦士と戦えるかどうかきちんと見定めたかったので、良い機会かなと思いまして」
「そう、なのか」
「それに――」
リミナはそこで、俺に微笑を見せた。
「状況は大きく変わってしまいましたが……決闘の決着も、していませんでしたし」
――勇者レンと戦った時のことを言っているのだろう。まあ俺は本人ではないし、なおかつリミナも当時と比べ戦法が大きく変化してしまったので、あの時の決着というのもおかしな話かもしれないが――
「もし戦うことになったら、よろしくお願いします」
「……ああ」
リミナに言われ、俺は頷く。どうやら闘技大会に際し、強力な味方及びライバルが登場してしまったようだった。
次回から新しい話となります。