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習得した技

 俺が放ったのは刀身の一点に魔力を収束させる『桜花』だった――ガーランドは一瞬だけ俺の剣を見て警戒した様子を見せたが、勢いに任せそのまま振り下ろした。

 両者の剣が真正面から衝突する。それはほんの僅かな時間鍔迫り合いとなったが、ガーランドの剣がやがて砕け始めた。


「――ちっ」


 小さな舌打ちと共にガーランドは後退しようとする。けれどそのタイミングで俺は大きく押し返し、ガーランドの体勢を大きく崩した。

 今だ――心の中で思うと、俺は両腕に魔力を集め、次の攻撃を発動する。今度は『吹雪』という乱舞技。斬撃の雨を、ガーランドへ向け放った。


 だが先ほどの再生能力封じの魔力は込めない……するとガーランドは、笑みを浮かべた。


「どうやら、先ほどの封じる技は使えんようだな――」


 ガーランドは剣に秘められた魔力を感じ取り、そう叫ぶ。同時に魔力を体に収束させた。おそらく再生能力を再起動させ、攻撃を受けても対処できるようにしたのだろう。


 ――以前の俺なら、瞬間的に魔力の切り替えはできなかったため、攻撃は失敗に終わっていたはず。しかし、今回は違った。

 最初の剣戟が触れたのは右腕。浅く入ったのだが腕は大きく損傷し、さらに連撃により両断する。


「ぐおっ――!」


 そこで初めて、ガーランドから呻き声が漏れた。瞬間、一気に畳み掛けるべく剣を薙ぐ――俺は連撃を仕掛けながら、先ほどの魔力封じの能力を実行した。だからこそ、相手は呻いた。

 ガーランドの敗因は、俺の対応能力を大きく見誤ったこと――!


「おおっ!」


 叫び、終わらせるつもりで斬撃を繰り出し続けた。一瞬で体を切り裂いたかと思うと、今度は左腕や足にも剣を決め――数えきれない斬撃を、相手に加えた。


「馬鹿な……」


 ガーランドの目は俺を射抜き、今や驚愕に染まり硬直していた。その中で、相手の体が塵となり始める……再生できずに消えるのは、明白だった。

 そうしてガーランドは最後、声も無く消え去った……楽勝にも思える結果だが、修行の成果がなければ負けていたかもしれない。


 軽く息をついてから、俺は振り向いて他の面々を確認。すると、


「ガアアッ!」


 獣のような悲鳴と共に、セシルが男性へ剣を見舞っている姿があった。

 彼の剣は俺が『吹雪』を使用している時と同じくらいに速く、魔族の体をバラバラにしていく。そして体から離れた部位が相次いで塵と化し、セシルが剣を振り終えた時には跡形もなく消え去った。


 さらにロサナも攻撃を終えようとしていた。数十本もの光の矢を上空へ放ったかと思うと、俺達の周囲にいる悪魔へ的確に上から浴びせ潰していく。増援は来ない。もしかするとガーランドが悪魔を生み出していたのかもしれない。


 そして残るノディだが……振り上げられた女性の斧に対し、自身の剣を打ち合わせていた。


「おや、私以外は全滅ですか」


 魔族は自分の状況がわかっているのかいないのか……呑気に呟く。直後ノディは斧を弾き、横薙ぎを決める。


「これはさすがに退くしかありませんね」


 そう魔族は述べ、後ろに下がりつつ斧でノディの剣を防御した――が、斧はとうとう限界を迎え、破砕。そしてノディの斬撃が魔族へ横一閃に決まる。


「ぐ……!」


 これには魔族も狼狽え慌てて退こうとするが、ノディは追撃として刺突を胸部に入れた。結果、魔族は声も無く塵となり……短い戦いは、終わった。


「三人とも、きっちり戦えるようになったわね」


 ロサナが満足そうに言う。それに反応したのは、セシル。


「元々戦えていたじゃないか」

「無傷で、なおかつきっちり相手の能力にも対応できていた、という意味よ。まあ、そのくらいできないとこれからは話にならないだろうけど――」


 そこまで言った時、またも爆音が。方角は先ほどと同じであり、まだ交戦中であるとわかった。


「援護に向かいますか?」


 俺はロサナに提案。けれど彼女は首を左右に振った。


「大丈夫でしょう……というか、さっきの音は逃げるための目くらましじゃない?」

「え? 目くらまし?」


 どういうことだ――首を傾げた直後、背後から気配を感じ取る。振り向くとそこには、


「こちらも……やられたというわけか」


 十歳くらいの少女だった。青いローブ姿に白い肌。そして真紅の瞳――


「フォーメルクで会ったな……確か、ファイデンだったか?」


 俺が尋ねると、相手――ファイデンは、見返し口惜しそうに顔を険しくした。


「勇者レン……なるほど、そっちもレベルアップはしているというわけね」


 その顔は、以前のような余裕は窺えない。


「追い返されて、逃げてきたというわけか」


 事情を理解したセシルが、剣をファイデンに向けつつ口を開く。


「そっちはリュハンさん達の方を狙い……結果、壊滅したと」

「まあね……しかし、予想外もいいところね。まさかこれほど強くなっているとは――」


 どこか自嘲的に語った時――ファイデンの背後に、突如空から人が降り立った。


「逃がさない――」


 その人物は、リミナ――銀縁の衣装にスカート姿と以前と変わらぬ格好だが、前と比べ着られているという雰囲気は微塵も感じられない。

 そして空から降って来たというのは……おそらく、風を利用して飛んできたのだろう。


「ちいっ!」


 ファイデンは、背後のリミナに対し舌打ちをして、向き直る。俺達から見れば明確な隙だったのだが――先にリミナが行動に移したため、推移を見守る。

 彼女の槍が薙ぎ払われた。ドラゴンの力とこれまでの訓練により、洗練された一撃。並の悪魔なら受け切れず一撃で沈むくらいにはなっていた。


 その一撃をファイデンは紙一重で避け――反撃に出た。


「リ――」


 俺は反射的に名を呼びそうになったが、リミナはこちらに一瞥もせず槍を構え直す。ファイデンから放たれたのは、手刀。それも、手に炎をまとわせたもの。

 けれどリミナは、臆することもなかった。そればかりか手刀を目で追い、


 空いている左手で、その手刀を叩き落とす。


 途端、ファイデンの動きが一瞬止まる。まさか、自分の一撃が素手で――そう思っているに違いない。

 そしてリミナは弾いた左手を相手にかざした。ファイデンはそこで我に返り、軸足を後方に移そうとして、


「――光よ」


 呟くようなリミナの声が、俺の耳に届いた。


 刹那、左手の先から光弾が生じる。けれどそれは以前と異なり多大な魔力が込められていた。ロサナの無詠唱魔法による訓練と、ドラゴンの力を制御できるようになったリミナは、低級の魔法であっても相当な威力を出せるようになっていた。


 ファイデンは光弾を避ける暇なく、防御することで応じた。そして魔法が直撃した瞬間、光により魔族の体が包まれ、

 ゴアッ――という重い音と共に、光弾が球体上に炸裂する光景を見た。光はそれ以上拡散することなく、一定範囲だけを狙い消し飛ばす……そういう魔法だった。


 やがて光が途絶え、ファイデンの姿はなくなった。声一つ上げず、相手はリミナの魔法によりその存在をなくしたのだ。


「……すいません、逃げられた結果、ここまで来てしまいました」


 リミナは俺達へ告げる。それに応じたのはロサナ。


「支障はなかったのだし、よしとしましょう……ひとまず気配もなくなったみたいだし、ここで合流といきましょうか」


 ロサナはリミナに向け笑んだ後、提案。


「リミナ、悪いけどその足でリュハン達へこちらへ来るよう言ってもらえる?」

「はい、わかりました」


 頷いた彼女は俺達に背中を向け、


「風よ」


 一言。それにより体が宙に浮き、一瞬で飛び立った。


「……さて、馬車と捕らえた人を街道に戻しましょうか」


 リミナを見送ったロサナは俺達へ言うと、自ら作業を始めるため歩き出す。残る俺達も、それに従うべく武器をしまい、行動を始めた。


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