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報復の魔族

「さて、どう動くか」


 背後で交戦する音が聞こえ始め――対するガーランドは、悠長に口を開いた。

 再生能力があるために、余裕……いや、俺に絶対やられるようなことはない。そういう自負が見え隠れする。


「本当ならば、以前私に一撃叩き込んだ人間を殺してやりたかったが……陛下が始末してしまったからな。お前で我慢しよう」


 レックスのことを言っているのだろう――俺は無言で剣を握り締め、猛然と駆けた。


「ふむ、早々に来るか」


 淡々と告げたガーランドは、間合いに入れた直後放った俺の剣を右腕でガードした。それによりあっさりと両断されたが、腕による抵抗で僅かな時間剣速が鈍り、その間に彼は後退する。


 今のは挨拶代わりだ。前と同じような戦法を行うのかの確認をした。さらに再生の瞬間、地面から僅かながら魔力が生じるのも確認。以前と同様土地の魔力を活用して再生しているのは間違いない。


「強くなってはいるようだな」


 一度の攻防で、ガーランドはそう断じた。それと共に切り飛ばされた右腕に闇が黒く渦を巻き始め、再生する。


「前のように弓を使う余裕はなさそうだな」


 言うや否や、魔族は手をかざし光を右腕に収束させた。それはすぐさま形を成し、一本の長剣を生み出す。


「悪いが、手早く終わらせてもらおう」


 ガーランドは言い、今度は相手が駆けた。俺はそれを待ち構えることにする。

 戦法はわかり切っていた。接近戦に持ち込み、再生能力を利用し相打ち覚悟で攻撃を仕掛ける気だ。


 ――ここで、俺は修行の時言われたことを思い出す。魔族は基礎的な能力だけを見れば人間よりも上。それを補うために人間は、打破するために魔法を上手く使わなければならない。

 そして、魔族の中にはガーランドのように驚異的な再生能力を持った魔族が少なからず存在する。だからこそ、俺はロサナから対処法を教えられていた。


 倒すには二つの手段がある。一つは再生に利用している魔力供給源を断ち切り、魔族本体を滅すること――こうした再生能力を持つ魔族は魔力を本体としており、どれだけ体を傷つけても効果が無い。だから通常攻撃をいくら浴びせても無意味だ。

 けれど結びついた魔力と切り離すことができれば、再生能力は失われたのも同然となり、魔族を倒すことができる。ガーランドの場合は今回も土地の魔力を利用。なら土地の魔力と相手とを分離し、改めて本体を倒せばそれで終了だ。


 しかし、それにはガーランド自身がどのような形で土地と結びついているのかを把握しなければならない。それがわからない以上、ロサナによればこの方法は現実的ではないとのこと。


 だから、もう一つの手段を用いる。それは――


 ガーランドは勢い任せに剣を振る。訓練してきた俺から見れば、防御を全て捨てた無謀な一撃。再生能力による力押しで、一気に片を付ける気らしい。

 対する俺は、まず瞬間的に氷の盾を生み出す。それは以前と比べ大きく、ガーランドの目が僅かに細くなる。


「それで防ぐ気か――」


 呟いたが彼は攻撃をやめず――剣と盾が衝突。左腕に衝撃が伝わったが、堪え切った。

 ガーランドは完全に防がれたことで、俺に対し難しい顔をする。


「なるほど、捨て身の一撃など効果がないわけだ」


 そう言ったが、俺を押し返そうとさらに足を前に出す。体で盾を弾き、懐に潜り込む気なのだろう。

 だが、彼が次の行動に出る前にこちらが攻撃を開始する。まずは右手に魔力収束。それは魔王を打ち倒す力に似ているものだが、今回は少しばかり特性を変えてある。


 それを刀身に注ぎ、準備を整える――同時に足に力を入れ、完全な攻撃態勢に入った。

 そこでガーランドは逡巡した。こちらが盾を利用し押し返すのは理解したようだが、何を仕掛けるのかわからない様子。


 なら――俺は一気に決めると心の中で断じ、体当たりを行う要領でガーランドを突き飛ばした。相手は一瞬だけ体勢を崩したが、こちらが剣を差し向けた時には防御の姿勢を取り、左腕をかざし攻撃を受ける構えを見せた。

 あまつさえ、カウンターで俺を斬るつもりか片手で剣を振りかぶっていた。それに対し俺は、構わず前に突き進む。そして、横薙ぎの一撃を放つ――!


 ガーランドはそれに腕を向けた。ガードして後退か、腕を利用し剣戟を避け俺に踏み込むか――そう考えているのがこちらにも読め、


「――っ!?」


 刹那、ガーランドは突如方針を転換した。左手を引き戻すと同時に俺の剣戟を、自身の剣を利用して受け流そうとする。

 瞬間、剣同士が激突。ガーランドが作り出した剣はあっさりと両断――しかしほんの僅かに鈍ったことにより、彼はからくも難を逃れた。


「……どうした?」


 先ほどまでとは異なる、明確な回避。尋ねてみると、ガーランドは険しい表情を俺に示した。


「なるほど……そういうことか」


 何かを理解したような顔つき――どうやら、気付かれたらしい。


「寸前でその剣に秘められた魔力が理解できた……私の再生魔法を打ち消す技法だな?」


 正解だったのだが――俺は答えなかった。けれどガーランドは確信を持ったか睨むような目つきとなる。


「なるほど、多少は知恵をつけたわけだ……どうやら、私の能力は使えんらしい」


 ――彼がそういうのは、俺が二つ目の手段を使用しているため。ロサナから教えられた攻略法の一つが、再生能力そのものを封じる技を身に着けることだった。


 これは応用技術の一つ。ガーランドの始めとした再生能力は、魔法によって運用されている。だからその魔法をこちらの剣戟により封じることができれば、再生できず相手は消滅する……そういう理屈だ。

 再生能力は過去の魔王との戦いで対処に困った能力だったらしく、だから人間側で解析も進み、それを参考にして俺は封じる手段を会得できたわけだ。


 ただ、できれば油断している状況で当てたかったのだが……仕方ない。


「ならば、別の方法だな」


 そう断じると、ガーランドは方針を変えた――突如、地面から魔力が湧き上がる。


「土地の魔力を利用し再生するという技法なのは、お前もよくわかっているはずだが……それを攻撃に転用すればどうなると思う?」

「攻撃特化で、俺を押し潰すつもりか」


 こちらの意見にガーランドの口の端が醜く歪む。


「そういうことだ……だが逆に再生能力は使えない。この状況下で一撃当てれば、お前の勝ちだ」


 やられるはずがない――そういう意思が露わになり、なおかつ挑発的な視線を俺に投げかける。


「お前を倒せば、ようやく陛下にも認められるだろう」

「……なるほど、前の戦いでふがいない結果に終わったから、今回リベンジしに来たわけか」


 俺は歎息を交え呟くと――一つ、確信する。ガーランドは完全な高位魔族というわけではない。俺達を殺し、魔王に認められて初めて高位魔族としての階段を上ることになる。


 俺達は今後、高位魔族とも戦う必要性が出てくるだろう……だからこそ、目の前に相手に苦戦するようでは、話にならない。


「わかったよ。それじゃあ改めてやろうか」


 ガーランドへ言うと、相手は長剣を掲げ突撃を敢行した。

 全身を強化しているためか、先ほどとは比べ物にならない速度で俺に迫る――けれど、相手の動きはしかと認識できた。


 振り下ろされる斬撃――そこで俺は、一度再生能力を封じる技法を中断した。次いで使用したのは、訓練により教え込まれた新たな技。

 ガーランドの斬撃は、俺を両断するような勢い。以前ならば避けていたかもしれないその攻撃に対し、俺は迎え撃つ選択をとる。


 そして魔力を刀身に集め、剣を振る――その一撃は、訓練により前とは比べものにならない一撃だった。


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