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流星の魔女

「戦況は……圧倒的みたいだね」


 作業を終えて戻って来たセシルが述べ、俺は小さく頷く他なかった。

 悪魔は上空にいて、俺やロサナで迎撃しているのだが……近づいてきた悪魔に対し俺は雷撃を放ってはいるが、そのほとんどはロサナの魔法により沈んでいる。


「無駄に数は多いみたいだけど、敵じゃないようだね」

「まあ――な!」


 俺はセシルの言葉に返答すると同時に、雷撃を空へ向かって放つ。それは大きくなり始めた黒点へ収束し――やがて、消えた。

 セシルの言う通り、確かに数は多い。だがやはり各個体の力は弱く、あっさりと倒すことができる。


「おそらく、あの悪魔は魔族の仕業でしょうね」


 ふいにロサナが断定する……根拠を訊こうと思った時、彼女は率先して話し始めた。


「魔王アルーゼンとの戦いの後、魔力の解析なんかをしていたのだけれど……その魔力と、今回悪魔が放つ魔力が似通っている」

「シュウがそういう風に見せている、というだけじゃないの?」


 セシルが問うと、ロサナは「違うわ」とまたも断定した。


「シュウやその一派が生み出しているとなれば、土地の魔力や、人間の魔力が入り込んでいないとおかしい……ミーシャという魔族はいるけれど、フロディアによると聖剣護衛により生み出された悪魔は全て魔力が混ざっていたようだから、魔族生成に必要だと考えてもよいはず。だから、魔族の差し金だと断定しても――」

「正解だ」


 声は、俺達の真正面から聞こえた。見ると、そこにはいつのまにか――一組の男女が立っていた。


「上空にいて、魔力も判別しづらい状況の中、看破するとはさすが流星の魔女といったところか」


 一方は濃い紫色の髪と瞳を持つ、肩幅の広い中年の男性。既に臨戦態勢であり、右手には長剣をぶら下げている。

 そして女性の方は、細面かつ茶髪を持った白いローブ姿。旅人に見えなくもないが、ずいぶん薄幸そうな印象を受ける――だが手には斧が握られており、恐ろしい程違和感が生じている。


「魔族……やっぱり武器を持っているのね」


 ロサナは再確認といった様子で指摘すると、男性が微笑んだ。


「お前達を楽に倒すためには、こうした方が良いと思ったまでだ」

「……ま、素手よりやり辛いのは確かね」


 ロサナは憮然とした面持ちで言った後、空を見上げた。


「悪魔は私が足止めするわ。三人は目の前の魔族達をお願い」

「了解、と」


 セシルは言うと同時に剣を男性へとかざす。


「ノディは女性の方だ」

「仕切らないでよ」


 言いつつも、彼女は従う気なのか剣を女性へ。

 そして残るは俺一人……だが、この時点で俺が誰と戦うべきなのかは、理解できていた。


「……リベンジ、といったところか?」


 振り返ると同時に俺は発言する。黒いコートと、金髪に真紅の目。

 それは、フォーメルクや選抜試験の時に遭遇した、ガーランドという魔族。


「まあ、そんなところだ」


 ガーランドは俺と視線を重ねながら応じる……どうやら俺は、因縁の対決になりそうだ。

 対戦カードは決まった。ロサナは上空にいる悪魔。セシルとノディは見覚えの無い魔族。そして俺は、以前戦ったのことのある――再生能力所持の、ガーランド。


 しかも以前と違い、一騎打ちの戦いを余儀なくされる……だが俺の心に不安は無かった。


「勝てる、という意志でみなぎっているな」


 ガーランドが指摘する。表情には出ていないはずだが、悟ったらしい。


「確かに、人間というのはほんの一時目を離した隙に強くなる種族……だが、以前と違いお前に味方はいない」

「ああ、そうだな」


 あっさり頷くと、ガーランドは僅かばかり目を細めた。


「ふん……どうやら、一度死ななければ理解できないらしい」

「そのセリフ、そっくりそのまま返すさ」


 ゆっくりと呼吸をしつつ、戦闘態勢に入る。ガーランドの再生能力は厄介。しかし、こちらはその特性については把握している。それに――


「だが、その表情を崩すことはひどく簡単だな」


 ガーランドは言う……その時、


 やや距離を置いた場所から、爆音のようなものが聞こえてきた。


「……方角から考えると、リミナ達がいる場所か?」


 俺が問うと、ガーランドは律儀に応じた。


「そうだ……わざわざ分散したようだから、こちらも各個撃破に出たまで」

「そうか」


 俺は平然と返す。それにより、ガーランドは目を細めた。

 リミナ達が襲撃を受けていることで、動揺を誘ったのかもしれないが――あいにく、あちらも精鋭。だからこそ、不安はない。


「通用しないようだな」


  ガーランドは俺の表情を見て悟り、表情を戻した。


「なるほど、そういうことか」


 その時、ロサナは魔法を放ちながら呟いた――悪魔の数は一向に減らない。


「上空の悪魔は、私の消耗させることが目的のようね」

「足止めの意味合いもあるな。いくら優れた使い手とはいえ、悪魔に囲まれればいずれ押し切られる。それを防ぐために、お前が動くだろうと思ってな」


 ガーランドがロサナに視線を送りながら解説を行う……なるほど、悪魔達はあくまでロサナに対する時間稼ぎと、魔法を使わせるためのものなのか。


「結果としては、一騎打ち……以前の戦いで、そちらは徒党を組んで戦っていたはずだ。今回は人海戦術が使えない以上、勝ち目はないぞ?」

「やってみないとわからないわね」


 平然と応じたロサナは、首だけガーランドへ向け、


「それに、もう一つ重要なことをあなた達は理解していない」

「……何?」


 ガーランドが眉をひそめた――直後、ロサナは突如右腕を高らかに掲げた。

 刹那、魔力が生じる。それも、旋風すら巻き起こるような荒々しいもの。


「貫け――天使の雨!」


 魔法が発動。そして次の瞬間、掲げた手のひらから無数の光が、上空へと昇り始めた。

 一つ一つは細く、少し上へ伸びれば視界に入らなくなる。しかし、黒点の数はさらに減り、彼女の魔法が悪魔を貫いているのだと察することはできた。


「面白い魔法だな。雨などと語るくせに、地面から空へ向かうとは」


 皮肉を含ませた声音で、セシルと相対する魔族が言った。


「しかし、これまでの魔法と変わらないのではないか?」

「その口上が、理解していないという証明ね。これこそ、私の真骨頂とも言える魔法なのに」


 真骨頂……となれば、彼女の異名である『流星の魔女』にちなんだ魔法ということだろうか。

 考えていると、突如空が瞬いた気がした。一瞬だけ目を向けると、空に白い線が浮かび上がり始めていた。


「この魔法は私の得意魔法の一つであり……また、私が魔力を介し自由に操作できる魔法の中で、最強」


 ロサナは語ると同時に怪しい笑みを浮かべた……まるで、ガーランドを挑発するようなもの。


「さて、流星の魔法……とくとご覧あれ」


 告げた直後、上空から魔力が生まれた。地上にいる俺でもわかるくらい明瞭なものであり、青空に白い線がさらに生まれる。

 そして――次に起こったのは、そうした線が移動を始め、黒点を食い始めた――それはさながら、空に星が流れているようにも見え、


「これが流星という異名の由来か」


 どこか感心したようにガーランドは述べた。


「しかし、ずいぶんと面倒な魔法だな」

「私の手先から土地の魔力。そして空の魔力を集めながら使用する魔法だから仕方ないわね。あの流星を降らすこともできるけど……ま、味方に被害が及ばないとも限らないから、今回は遠慮しておくわ」


 ロサナはガーランドへそう言った後、右手を彼にかざす。


「さて、私が相手になろうか?」

「ふむ、さすがにそれは避けたいな」


 告げると同時に、今度は街道の周囲に光が生まれ始める。どうやら、悪魔の出現ポイントを切り替えた――


「三人とも、頼んだわよ!」


 ロサナはそう言うと同時に魔法を放ち、まだ形の定まらない光を消し飛ばす。

 そして、俺は弾かれたようにガーランドへ視線を移す――ここからが、本番と言えそうだった。


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