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飛来する敵

「な――」


 俺とロサナを前にして、男性は呻きへたり込んだ――とりあえずロサナが自己紹介をした結果、このような状況となった。


「戦っている時に推測できたけれど、やっぱり知らなかったようね」


 ロサナは憮然とした面持ちで呟くと、馬車に目を向けた。


「あった?」


 問い掛けると同時に、馬車の中からノディとセシルが現れる。


「あったよ」


 彼女は馬車を降りながら答える――手には、紫色をした水晶球のようなものが。


「見たことあるからこれで間違いない」

「偽物という可能性は?」


 なんとなく訊いてみると、ノディは「大丈夫」と答えた。


「確認したけど、魔力の多さから本物」

「なら、これで解決か……?」


 恐ろしい程スムーズにいったわけだが……後詰めのリミナ達の出番も一切なく、あっさりと終わってしまったことが逆に奇妙だと思えたのだが――


「いえ、まだよ」


 ロサナは否定し、へたり込んだままの中年男性に目を向ける。


「で、どういうことか教えてもらいましょうか……言っておくけど、喋る気が無かったら喋る気になるよう私は努力するからだけだから」


 言うと同時に、ロサナはパキパキと器用に指を鳴らし始めた。そして顔は笑みを浮かべながらも非常に怖く、半歩下がってしまうくらいの迫力がある。

 男性も顔を引きつらせた。なおかつ体が震え始め――男性の目には、彼女の背後に鬼でも立っているように見えるのかもしれない。


「で、どうする? 私は騎士とか国の人間じゃないから、加減はできないわよ?」

「……わ、私達は依頼人が誰なのかは知らない!」


 たまらず男性は声を上げた。雰囲気に呑まれたようだ。


「仲介人から仕事を請け、指定の場所で荷を受け取っただけだ……!」

「ふーん、運び屋ということね」


 ロサナは呟いたと同時に神妙な面持ちとなり、俺へと視線を移した。


「もしかして、これこそが罠かもしれないわね」

「……罠?」


 聞き返したと同時に――俺は、彼女が何を言いたいのか理解した。


 つまり、宝玉を取り返そうとする人間を誘い出すため、運び屋を用いた――ただこの推測だと、宝玉を俺達を引っ張り出すための餌としか考えていないことになる。

 俺達は偶然近くにいたため対応したわけであり……俺達を誘い出すためにしでかしたことではないだろう。だとすれば、一体誰が何のためにやったのか――


「で、宝玉はどうするの?」


 ノディが宝玉を手に持ちながら近づき、ロサナに問い掛けた。


「私が預かっておくわ」


 ロサナは言うと手を差し出す。ノディはそれに応じ宝玉を渡し、さらに質問を重ねる。


「この人達はどうする? このまま国の人を呼ぶ?」

「リミナが目標の馬車を見つけた時点で既に連絡しているはずよ。後はそれを待って……もしもの場合に備え、私達は待機する」

「もしもの場合って?」

「例えば――」


 ロサナは言いながら、突如上空を見上げた。


「……ああして、悪魔が襲ってきた場合」


 ――彼女が言った直後、残る俺達は同時に空を見上げた。それらしい存在はいない……いや、


「いるね」


 セシルが警戒を込め鋭く言った。確かに……青空の中に黒い点がいくつも存在する。それは空中を動き回り、少しずつ近づいてくるように思えた。


「あの悪魔は、あんた達の差し金?」

「ち、違う……」


 男性は力なく首を振る。となれば、シュウ達が直接呼び寄せた悪魔ということだろうか。

 考える間に、黒い点の数が増す。次第に点は近づき、なおかつさらに増える――


「現時点で数は十くらい……? 地上に飛来する段階では、倍になっていてもおかしくなさそうね」


 嘆息と共に言ったロサナは、相変わらずへたり込んでいる男性を見た。


「悪いけど、あなたは拘束して森にでも転がさせてもらうわ」

「転が――」


 男性が言い終えるよりも早く、ロサナは小さく何事か呟き軽く腕を振った。その指先からナイフほどの長さをした光が生まれ、男性の頭部に直撃。彼は気絶した。


「さて、第二幕ね」


 ロサナは男性が倒れたと同時に再度呟き、束状になった光の縄を生み出す。


「ノディ、悪いけど馬車を街道から外してもらえる? その馬車は運び屋の物だろうけど、一応今回の事件に関わったということで、調べないといけないし」

「いいよ」

「セシルは、縄を渡すから他の人間を全部縛って。で、馬車を移送したノディと一緒に森にでも転がしておくこと」

「律儀だね……ま、いいよ」


 頷いたセシルはロサナから縄を受け取り、早速作業を始めた。


「で、レン君は……私と一緒にあいつらを迎撃」


 そして上空を見上げ彼女は言う――この時点でようやく、点が輪郭を成してきた。


「もう少し近づかないと、攻撃するのは難しいだろうけど……魔法で地上に降り立つ前に潰す」

「わかった」


 頷き、俺は一度深呼吸をしてから剣を強く握りしめた。


 リュハンとの訓練は、主に剣術ばかりを行ってきた。けど、魔法の方をないがしろにしていたわけでもなく、さらに魔力の探知能力の向上を図り、色々な場面に対応できるようにはしてきている。


 今回のケースもその一つ……俺は少しずつ近づいてくる悪魔の内、一番近い存在へと目を凝らす。

 輪郭が見えてきてわかったのは……黒い体躯と、翼らしきものを所持していることくらい。


「まずは小手調べ」


 ロサナが唐突に告げる――同時に、右手を空へとかざした。


「光よ――!」


 無詠唱魔法。それが数本の光の剣を生み出し、恐るべき速度で空へと昇っていく。狙いは当然空の悪魔。しかしまだ距離があるため、当てるのが難しいのでは――


「そういえばレン君には、まだ教えて無かったわね」


 その時、ロサナは腰に手を当て悠然と言った。


「魔力に反応して、相手を追尾する機能を備えた魔法……ま、これもリュハンの言う魔力に命令を与えるという技の一種かな。複雑な命令をさせる分だけ、威力は下がるけど」


 ロサナが語る間に、光は点となり、消えた。おそらく空に溶け込んで見えなくなったのだろう。けれどなくなったわけじゃないのは、近づきつつあった黒い点が一瞬白くなって消えたことで、明確にわかった。


「当たりましたね」

「そういう魔法だからね」


 当然と言わんばかりに告げたロサナは、さらに自身の見解を述べる。


「けど、今ので戦力把握はできたわね。上空にいる敵は、私の低級魔法でも簡単に潰せるレベル……シュウがこのくらいの悪魔を使うとは考えにくいわね」

「それに、あのレベルで神殿から宝玉を取り出せるのでしょうか?」

「そんな柔い警備じゃないはずよ。となれば、神殿を襲った面々は別にいるはず。そして、あの悪魔達はシュウ達のものではないかもしれない」


 ロサナは首を傾げ考え始める――もしシュウのものでなかったとしたら、魔族なのか? だが、そうだとするなら魔族が宝玉を狙ったことになるが……何のために?


「ま、考えている暇はなさそうね」


 面倒そうにロサナは言った……空の点は数を増し、なおかつ地上へ侵攻する速度も増しつつあった。


「私が魔法で倒しちゃったから、反応したんでしょうね」

「どうしますか?」

「決まっているじゃない」


 ロサナは超然と、そして両手を掲げながら俺へと言った。


「全部、叩き潰すわ――レン君、手伝って」

「……はい」


 頷き、俺は天を睨む。悪魔達は俺達を見下ろし、嘲笑するかのように囲みながら近づきつつあった。


 シュウなのか、それとも魔王なのか――ただあの悪魔達を倒せばそれもわかってくるだろう。なら、俺はただ目の前の存在を倒すだけ……そう心の中で断じ、ロサナが魔力を両腕に集めたと同時に剣に魔力を収束させた。


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