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目標の馬車

「――あれ、ですか?」


 時刻は昼下がり。俺は眼下に見える街道に視線を送りながら、尋ねた。場所は岩山の上。山頂を取り囲むように多少の木々と、街道が見える場所。

 目線の先には、一台の馬車。遠目ではあるが俺達の立つ場所へ進んできている。ここからでも車輪の音が響き、相当な速度で街道を驀進しているのがわかった。


「そうね……天幕の色が赤色。報告を受けた特徴と一致している」


 答えたのはロサナ。以前のような旅装姿ではなく、オレンジの髪に沿うような衣服――それも、革ベルトのズボンに耐刃製のジャケットを着ていることが大きな変化。


「……本当に、間違いないですよね?」


 俺は念を押すように確認。それにロサナは頷き、


「もし間違って襲撃しちゃったら、謝ればいいじゃない」

「……国家間の問題に発展しないか? それ?」


 彼女の言葉に応じたのは、セシル。フィベウス王国で出会った時のような純白のサーコートに、白と青を基調とした柄の無い戦闘服。


「一応僕はベルファトラス代表者なわけで……間違えたりなんかしたら、ルファイズから非難が出てもおかしくない」

「そういう時のノディでしょう?」


 ロサナは応じ、一番後方に佇むノディに視線を送った。俺も合わせて彼女を見る。

 短い金髪が風によって揺れ、さらに純白の鎧を着ているため中々様になっている……のだが、先ほどの会話が不服だったのか、口を尖らせていた。


「私はトラブル処理係じゃないけど……」

「もしもの場合、という話じゃないか」


 セシルが肩をすくめて返答。けれどノディは納得していないのかそっぽを向いた。


 ――顔を背けたのは、おそらくセシルが何かを言ったからだろう。両者は、相変わらずいがみ合う日々……これは全ての戦いが終わるまで直らないかもしれないな。


「何で僕が声を掛けるとそう不機嫌になるんだよ」


 セシルもそれは理解しているので言い募ると、ノディは「別に」と一言。

 俺はフォローの一つでもするべきかと思った……その時、空に飛んでいる一羽の鳥が目に入った。それに注目した瞬間、鳥は迷わず俺達へ向かって飛来する。


「お、リミナからね」


 ロサナは手を伸ばし、鳥はその指先に止まった。直後、鳥は唐突に光となり、一枚の紙切れだけが後に残る。

 彼女はそれを手に取り、文面を確認。そこで満面の笑みを浮かべた。


「よし、あれで正解みたいよ」

「わかったよ」


 セシルは言うと同時に両腰にある剣を抜いた。


「よし、行くぞ」

「何でセシルが仕切るの?」

「ノディ、文句があるのか?」

「ここはロサナさんかレンじゃない?」

「まあまあ……セシル、頼むよ」

「……了解」


 なだめるように俺が言った後、セシルは不平を言いたそうにしながらも歩き出した。


「前途多難ね」


 その時、小さな声でロサナが呟くのをしかと耳にした。それに心底同意しつつ――俺は、無言で歩き始めた。






 セシルの屋敷で決意を表明してから結構経った――暑さはなお残るが日が落ちるのは少しずつ早くなり、いよいよ秋が近づいてきたのではと思うようになった季節。

 その間、俺達はひたすら訓練を重ねていた……シュウや魔王アルーゼンに関しては、特に進展なし。手を組む魔族ジュリウスからも変わった様子は無いとの報告を受けており、しばらくは平穏が続いていた。


 けれど、シュウ達が動く出す統一闘技大会……エントリー登録の日があと数日というところまできているのだが、そこで大きく情勢が動くのでは――そう考えていた矢先に、今回の騒動が起きた。


 統一闘技大会のエントリー登録前に、俺達はセシルの屋敷を離れ別の場所で訓練を行っていた。発案はロサナで「少し環境を変えてやると成果が上がる」という主張だったのだが――正直変化が無かったなと思ったのだが、口には出さずにおく。

 ともかく、その訓練中に先ほどリミナがして見せたような伝令が到来し、俺達に一報をもたらした――ルファイズ王国に存在する神殿に安置された宝玉を、奪われたという内容だった。


「奪われたメイブ神殿は、塵となった魔族を眠らせるという名目で、結界の張られた特殊な場所よ」


 移動中、ロサナが俺に解説を始める……名前を聞いてピンと来ないのは俺だけ。結構有名な場所らしい。


「研究により塵から魔族が復活するようなことはないとわかったのだけれど……魔王を滅ぼした直後はその辺りもわからず、やむなく神殿に安置したというわけ」

「今現在も、同じような役割が?」

「塵によって、少しばかり魔の気配を生み出している場所でもあるから……ルファイズ王国の騎士に、魔族の力を教え込むという名目で使われていたりもする……けどまあ、今はそれほど戦略的に価値のある場所じゃない……ただ一点を除いては」

「それが、宝玉?」

「ええ。神殿全体に張った結界は土地の魔力を活用してのものだけど……それとは別に、もし魔族によって結界を破壊されたら……そうしたことを考えて、多大な魔力を持つ宝玉を安置しておくことにしたの。魔王打倒直後は、灰を狙って魔族が来ると警戒していたわけ」

「だから宝玉があって、それが盗まれたということか」

「ええ……宝玉は魔法の道具の中でも一級品で、値段がつけられない程の物。聖剣護衛以後、厳重な警戒をしていたはずだけど……」

「今回、奪われたと」


 俺の言葉にロサナは頷き……顔つきをやや険しくした。


「……報告によると、敵は魔法を駆使し、なおかつ悪魔を生み出したと書いてあった」

「シュウさん、ですよね?」


 確認するように問い掛けると、ロサナは小さく肩をすくめた。


「その可能性が高い……悪魔の存在がいたとなると、候補となるのはシュウか魔王の軍勢ね」

「魔王側は、宝玉を奪うような理由はないんじゃないの?」


 前を歩くセシルが意見。けれどロサナは「どうかしら」と答えた。


「決めつけるのは早計だと思うわよ。けどまあ、シュウ達が魔力の秘めた道具を狙っているとするなら、目を付ける可能性は高い。けど、疑問が一つ」

「なぜこのタイミングで……だよね?」


 ノディが言う。それにロサナは深く頷いた。


「守りが手薄な時に奪うのが一番だったはずよ。例えばアークシェイドが存在していた時に奪っておけば、私達に追われる可能性もなく確実に手に入ったはず……それをしなかったのはなぜなのか……」

「シュウは魔力を秘めた道具を集めているいるんだろ? 単純に目標まで届かなかったんじゃないか?」


 またセシルの言葉。


「神殿の宝玉を狙うにはリスクもあったから、やらなかった。けど必要に迫られ奪うことにしたとか」

「シュウさんは、そんな計画なしにやるような人間とは思えないけどな」


 俺が言うと、セシルは「そうかもしれないけど」と返し、


「……結局、馬車に乗っている人物が何者なのかを見ないことにはわからないか」

「そうだな。馬車と相対して、さっさと捕まえることにしよう」


 俺がそう断じた時、街道に出た。前からは爆走する馬車の車輪音。まだ距離はある。


「呼び掛けて止まったら良しだけど、止まらなかったら馬を狙って攻撃しよう」

「……それしかなさそうだな」


 音からして速度はかなりのもの。強行手段に出なければ対処できないだろう。


「さて、久々に悪魔との戦いね……準備はいい?」


 ロサナが確認するように問う。俺を含めた残り三人はしっかりと頷き、剣を構える。


「後詰めにリミナ達もいることだし……安心して戦いなさい」


 そう彼女が述べた時――いよいよ、馬車が間近に迫った。


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