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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
勇者誓約編

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322/596

騎士と魔族

 次、誰に会いに行こうかと廊下を歩いていると、その内の一人が反対側から歩いてくる光景を目に留め、声を掛けた。


「……ノディ」

「ああ、レン。どしたの?」


 きょとんとした眼差しで、ノディが応じた――おそらく、俺の真剣な顔つきを疑問に思ったのだろう。


「夕食前に話したいことがあるから、少し早めに食堂に来てくれないかな……メイドさんに声を掛けられるかもしれないけど」

「食堂に……? わかった、けど」


 首を傾げたノディは、俺に質問する。


「何か重要な話?」

「ああ……ノディにも事前に話がいっているだろ? シュウさんを追う面々を俺が集めたから、それに関する話し合い」

「ああ、なるほど……」


 と、彼女は語った後唐突に腕を組んだ。


「……一つ訊いていい?」

「どうしてノディを選んだのか?」


 予測して尋ねると、彼女はコクリと頷く。


「もしかして、魔族の力を見て? でもさ、あの力はきっと英雄シュウには通用しないと思うんだけど……」

「その辺の確認はしているよ」

「誰に?」

「……後ろの相手に」


 俺はノディの奥に人影を見つけ、告げた。途端に彼女は振り返る。そこには、


「……ターナ?」


 いまだ屋敷にいるターナがいた。理由はジュリウスがいなくなったため、その連絡役。

 少しして、俺達が視線を向けていることにターナは気付いたようで、こちらに首を向け小さく会釈した。


「どう、しましたか?」


 近づき、少しばかりオドオドした様子で彼女は尋ねた。それに対して、俺が答える。


「ノディの力に関する話をしていて、君の話題が出たんだよ」


 ――無論、ターナにはノディの力の秘密に関しては話をしてある。


「ああ、魔族の力ですね?」

「そう。魔王に対しても、有効と考えていいんだよな?」

「もちろんそのままでは通用しませんけど……魔族の力を生かす何かがあれば」

「ほら」

「ほらって……その生かす何かっていうのは、どこから捻りだすの?」

「それに関してはナーゲンさんに相談してあるから大丈夫」

「他力本願……」


 ノディはジト目で言う。けれど俺は気にしないことにして、さらに選んだ理由を告げた。


「他にも、その能力を単純に心強いと思ったから。技量だって剣の腕だけ見れば俺よりも上だと思うし、そう卑下にしなくてもいいんじゃないか?」

「上、ねえ」


 どこか疑わしげにノディは呟くが……やがて、嘆息しつつ口を開いた。


「ま、そこまで評価されたならやるしかないかな……よろしく、レン」

「ああ。で、食堂の件は頼んだよ」

「いいよ。でもそうすると、面白い人選だね」


 ノディは俺が呼んだ人物達について言及する。


「リミナさんは当然だし、納得のいく人もいるわけだけど……あの二人はどうして選んだの?」

「知り合いという面もあるし、実力をこの目で見たから」

「そう……そうした中選ばれた私は、光栄だと思えばいいのかな」


 肩をすくめてノディは語る。やはりどこか疑問を抱いているようだが――


「そういえば、ノディ。話を戻すけど……その魔族の力について」

「うん、なあに?」

「魔族から直接、力の引きだし方を学べば、かなり強力なものになると思わないか?」


 ――そう尋ねた直後、ノディではなくターナが驚いた。


「え、それって……ターナから訊くってこと?」

「もしくは、ジュリウスから直接」

「いやいや、無理でしょ」

「でも俺達はジュリウスと手を組んだ……俺達が望むものは現魔王側の情報だけど、説得次第では魔族に関する話だって聞かせてもらえるんじゃないか?」

『――協力範囲としては、逸脱しているような気もするな』


 その声は、ターナが身に着けるペンダントから聞こえてきた。


「ジュリウス……聞いていたのか」

『会話は常に耳に入るようにしてある……で、彼女の能力に関することか。以前にもターナに質問していたのは聞いていたから、ある程度把握している』

「そうか……やっぱり魔王と対抗するというのは、難しいのか?」

『ふむ……教えてもいいが、代わりにこちらとしても情報が欲しいな』


 ここで取引。まあ、当然と言えるか。


「俺達が出せる情報なんて、たかが知れているぞ?」

『君達にとってはそう見えるかもしれない情報でも、私達にとっては非常に価値のある可能性がある……ふむ、そうだな』


 と、ジュリウスは僅かに間を置き、


『では、英雄シュウの秘密に関して話してもらおうか』

「……秘密?」

『英雄達は話す必要が無いとでも思ったのか、シュウは別世界の住人だと簡単に話した程度で、深くは突っ込まなかった……その辺りのことを、詳しく聞きたい』


 ……話さなかったのは、その辺のことを詳しくわかっていないから、のような気もする。英雄たちは当事者じゃないし、そもそも異世界云々の話だって『星渡り』という魔法くらいしか情報がないし――


「……俺もまた別世界の人間だから、その辺のことは話せるよ」

『ほう?』

「ねえ、この話進めていいの?」


 ノディが俺に確認を取るように質問する。


「この魔族が何かする可能性は低いけどさぁ……」

「別に話したからといって何かあるわけじゃないし……それにノディには強くなってもらわないと」

『話してもらえるのか?』

「ああ。けど、俺だってそれほど情報を持っているわけじゃない――」


 そう前置きして『星渡り』の説明を行った。時間としては三分程度のものだったが、ジュリウスとしては興味深かったのか、話し終えた時感嘆の声が聞こえてきた。


『異世界……そして『星渡り』という魔法か……面白い。そしてその要因があるからこそ、この世界の魔力を用いた魔法が通用しない、か』


 そこでジュリウスは沈黙する……が、俺はペンダントの奥で何度も頷いている姿が頭に浮かんだ。


『わかった。情報としては十分だ。参考にさせてもらおう』

「どうも……で、魔族に関する情報を教えてくれるのか?」

『具体的には何が聞きたい?』

「ノディの魔族の力を活用し、魔王と対抗できるのか?」

『結論から言えば、不可能ではない。そもそも魔王だからといって、魔族の力に対し無敵というわけではない』


 俺の問い掛けにジュリウスはそう切り返した。


『いや、そればかりか……常人とは比べるべくもない力を所持している以上、応用次第では魔王に対する大きな武器となるかもしれん……あのドラゴンの力を持つ人物のように』


 リミナのことか……確かに彼女の力は驚異的だし、ロサナの訓練を受ければ確実に戦力となるはず……それはノディにも同じことが言えるという見解でよさそうだ。


『そうだな……面白い情報をもらったので、ヒントをやろう。魔族の所持する力は高位魔族であれば、魔王にも通用する。しかし、下級魔族においては一切通用しない』

「……ノディの場合、どちらになるんだ?」

『人間の血が混ざっている以上、例え高位魔族の血を継いでいようとも、下級魔族の力しか引きだせないだろう。しかしそれを高位魔族級の力として引き出すことができれば、あるいは――』


 つまり、魔族の力を増幅させ、その力をうまく利用すればいいというわけか。魔族の力そのものを活性化させるというやり方は、リスクが高そうな気もするけど。


『私が話せるのはこのくらいだ……また何か有益な情報があれば、話そう』


 そう言って、ジュリウスは一方的に会話を終了した……けど、重要な情報を得たので、個人的には満足だ。


「……魔族の力を用い、魔王と戦う騎士か」


 やがて、どこか皮肉気にノディは言った。


「ま、こっちも考えてみるよ……それじゃあ、私は一度部屋に戻るから」

「ああ」


 返事をするとノディは俺の横を通り過ぎ廊下を歩んでいった。そして役目を終えたターナもまた「ではこれで」と短く呟き、この場を足早に去った。


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