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英雄の性格

 闘技場を出て、俺とリュハンは隣同士で歩きセシルの屋敷へと向かう。


「すまないな」


 道中、ふいにリュハンから告げられる。俺はその言葉に首を傾げた。


「なぜ、謝るんですか?」

「面倒をかけるという意味でだ」

「平気ですよ……それと屋敷の主人であるセシルなら、二つ返事で了承すると思います」


 笑う俺。リュハンは「そうか」と呟き、無言となる。

 そこからは気まずい空気の中で歩を進める……何か話した方がいいのかと思い、なおかつ訊きたいことは結構あったのだが、口に出すのがなんだか憚られる。


 話す機会はこれからたくさんありそうな気がするし、今尋ねなくてもいいような気もするのだが……どうしようか。


「そういえば、多少なりとも事情は聞き及んでいる」


 考える間に、リュハンが口を開いた。


「英雄シュウの真実と、君のこと……複雑な事情が絡んでいるようだが」

「……はい」

「俺自身、アレスが魔王との戦い以後どのような人生を送って来たかはわからない……だが、一つだけ推測していることがある」


 推測……? 俺は彼の言葉を待つべく、沈黙した。


「俺はアレスと共に小さい頃から剣を学んでいた。その中であいつが一番力を発揮したのは、誰かを守ろうとした時だった」

「守ろうと、した時……」

「正義感が強く、背中に誰かいることで、強くなる……そういう性質を持つ男だった。魔王との戦いも、人々の声援を背に受け、倒したのだろう」

「そうかもしれませんね」

「そして、あいつはおそらく……何かに必死だったのだと思う」

「必死?」


 聞き返すと、リュハンは小さく頷いた。


「ドラゴンの聖域に足を踏み入れ秘宝を盗るなど、正義感の強い性格のあいつに果たしてできたのかと、疑問に残った。魔王との戦いを経て性格が変わってしまったと言えばそれまでかもしれないが……弟子がこうして勇者として活動しているのだから、決して歪んでいたわけではなかったはずだ」


 そこで彼はため息一つ。


「もしかすると、アレスの行動は守るべき者に対する活動だったのかもしれん……秘宝を手に入れるという愚を犯してまで、何かを守ろうとしたのかもしれない」

「……英雄、アレスは」


 俺は彼の言葉を聞いて、一つ意見してみる。


「秘宝を誰かの手に渡すと、危ないとでも思ったのでしょうか」

「あるいは、秘宝を奪おうとする存在を感知したのかもしれん……英雄ザンウィスと共に勇者を探していたことからも、そういう懸念が少なからずあったと推測することができる」

「けど、シュウさんは……」


 憎み、英雄アレスを殺した――


「その点は疑問に残る点だな。とはいえ彼は魔の力に侵された人物。アレスの持つ隠し事というのも気にはなるが……私は、アレスが正しかったと信じている」


 ――兄弟子であるからこそ、彼はアレスのことを信頼し、また正しいと思っているようだ。

 俺もまた、小さく頷いた……魔王を倒した英雄であり、また勇者を探すという行為に及んでいた以上、決して魔の力に魅入られていたわけではないはずだ。


「……英雄アレスの話が出たので、俺から質問いいですか?」


 俺はここで話の流れに沿い、質問を行った。


「英雄アレスについてですけど……魔王と戦う姿は、どんな感じだったんですか?」

「民衆の前では英雄と言われ、威厳を見せるよう頑張っていたようだが、ひとたび人目から離れると、明るく陽気な性格が出ていたな。それに、人々から称えられること自体、それほどプレッシャーを感じている雰囲気はなかった」


 彼は空を見上げながら、俺の質問に答えた。


「そして俺が怪我をした時、自分以上に心配していたのがあいつだった。仲間思いで、なおかつムードメーカーで……英雄としては、完璧だった」

「すごかったんですね」

「そうだな。まああえて苦言を呈するなら、正義感が強すぎたため一人で突撃していくなんてことも多少あった。その時は大変だったな……」


 何かを思い出したかのように遠い目になる――まあ、色々あったんだろう。


「そして、剣の腕も戦う内にどんどんと向上していった。戦闘を重ねるだけ強くなるというタイプであり、俺も多少ながら嫉妬を覚えた」


 そう言うと、彼は俺へと首を向けた。


「話によると、君もまた同じようなタイプらしいな」

「そう……なんでしょうか」

「窮地に陥り、最終的にシュウすら追い払った……その事実から、ナーゲンなどは推測しているようだ」


 ――確かに俺は、強敵と出会い戦闘することで急速に成長していった、と言えるかもしれない。


「私が基礎を教える。それを上手く戦いで活用すればいい」


 そこで彼は言ったと同時に、微笑を浮かべる――それはどこか、父が子を思う眼差しに似ている気がした。


「……辛気臭くなってしまったな。他に質問はあるか?」

「そうですね……リュハンさんのことを訊いてもいいですか?」

「なぜ戦うのをやめたか、ということか?」


 先んじて質問をされ、俺は頷いた。


「そう複雑な理由ではない……魔王との戦いが終わったのだから、剣を握る必要がないと思った。ただそれだけだ。とはいえ習慣的に訓練は続けていた。もし必要とあらば、戦いに馳せ参じていたのだろうな……今のように」


 彼は息をつき、屋敷へ続く道を見据えた。


「魔王……名をアルーゼンといったか。そうした存在が出てきたのを知り、またアレスの弟子がいることを知り、私は参戦する気になった」

「……ありがとうございます」

「礼はいい……そうだな、それは全ての戦いが終わった時にでも言ってくれれば」

「はい」


 明快に答えた俺に、彼は再度微笑。初対面は無表情で寡黙なタイプかと思ったが、思ったよりも口数は多く、穏やかな人物だと思った。


「現役を離れた剣士がどこまで戦えるのかはわからんが……戦闘の勘が鈍っていないことを祈るばかりだな」


 ――そこまで語った時、俺達はセシルの屋敷に辿り着いた。


「話はここまでですね」


 俺は会話を打ち切り屋敷の門をくぐる。空は赤くなりつつあったが、まだ陽が沈むには時間がありそうだ。


「夕食の準備をしている時間でしょうから、人が増えることを先に伝えましょう」

「すまんな」

「いえ……あ、もしセシル本人がいたら、挨拶をした方が良いと思います」

「それは俺一人で行こう。そちらは話し合いの準備をするべきだ」

「そうですね」


 同意し、先んじて玄関扉を抜けた。中からは良い香りが漂っており、陽が完全に沈む前には夕食ができそうな雰囲気だった。


「あ、セシルの部屋に案内します――」


 俺がリュハンへ言った時、近寄るメイドが一人――ベニタだった。


「おかえりなさいませ。この方は新しい客人ですか?」

「はい、そうです。あの、セシルは帰っていますか?」

「はい。ではご案内しましょう」


 ベニタはリュハンに手で示す。彼は頷き、彼女の後についていく。


「あ、それと……レン様」


 玄関ホールを抜けそうになった時、思い出したかのようにベニタは声を上げた。


「レン様が呼んだご客人は、屋敷内にいます」

「全員ですか?」

「はい」

「なら……夕食前くらいに話そうと思っているんですけど」

「取り計らっておきます。それとロサナ様が……リミナ様の部屋に」

「わかりました」


 俺が頷くと彼女達は移動を再開。離れて行く姿を見送りつつ、俺は頭を回転させた。


「さて……話があることは直接伝えた方がいいだろうな」


 幸いその時間もありそう……だから俺は、声を掛けるべく歩き出した。


「まずはリミナからだな……ロサナさんに挨拶しないと」


 情報収集担当ということだが、間違いなく俺達と共に戦うことになるだろう……その辺のことも確認するべく、まずはリミナの部屋へと足を向けた。


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