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二つの技

 剣術を見せる――といってもやり方は色々あるのだが、彼のやり方はずいぶんと直情的だった。


「あの……大丈夫なんですよね?」

「加減はする」


 向かい合って立つリュハンは、俺の質問に対しボソリと答えた。つまり、その身に受けてどういう技なのかを確認しろというわけだ。

 まあ、ルルーナの時だって実際受けてから教えられたわけだし、それほど不満は無いのだが……本当に大丈夫なのか?


「勇者レン。一つ訊きたいのだが……戦法としては、一撃で戦況をひっくり返すような、単発重視の攻撃が主だな?」

「え……はい、まあ」

「なら、まずは手数の強化だな」


 手数……? 俺が首を傾げると、リュハンは剣を抜いた。

 見た目上、取り立てて特徴のあるとは呼べない物。しかし彼が魔力を剣に集めた時、僅かながら刀身が淡く緑色に輝いた。


「この剣は魔力を加えただけ硬くなる性質を持つ」


 剣に目を向けていると、彼は呟き――間合いを詰めた。


「構えろ」


 端的に告げられ――そこで俺は瞬間的に氷の盾を生み出し、迎撃態勢を整える。


「俺の剣を全て捌き、討ち破って見せろ」


 彼が発言し、最初の一撃が飛来する。俺はそれを盾で防ぐ。衝撃はさほど大きくなかったが――気付いた時には二撃目が来た。

 連続攻撃――などという生易しいものではなかった。二つ目を剣で弾いた瞬間、三撃目。さらにそれを防ぎ盾をかざすと……斬撃が三回入った。


 速い――しかも剣戟を加えるごとに速度を増し、雪崩のように襲い掛かってくる。剣に魔力が込められているため、斬撃が次どのように来るのか知覚することはできた――が、それも次第にできなくなり、根本的に体が追いつかなくなる。


 やがて俺は、盾越しに彼の斬撃を見た――剣が濁流となって押し寄せ、押し潰そうとしてくる。俺は慌てて盾に魔力を込め防ぐことしかできず――

 剣の応酬が全て、盾に直撃した。結果、数えきれない攻撃を浴び、氷が無残にも砕け散る。


「氷の盾……強度はかなりのものだが、魔力で生み出された存在である以上、同じ魔力によって生じた技を受け続ければ、いずれ砕ける羽目になる」


 そして、リュハンはさらに連撃を重ねる。俺はそれを最初の数回防いだだけで逆に押し負け、首筋に刃を突きつけられてしまった。


 ――ここまで、手も足も出ないとは……目の前の人物を、改めてすごいと思った。


「氷の盾により防御しつつ反撃を行うという手は悪くない上、一本の剣で手数が足らなくなる場合もあるだろう。だからこそ左腕に盾を形成し対抗するのは有効だ……しかし、根本的に相手の剣に対応できなければ、どちらにせよ意味が無いな」


 彼はそう述べると、剣を首筋から離した。


「今の攻撃……お前は、どう見た?」

「え……?」

「単純な魔力強化ではなかった。とある仕掛けを施したのだが……気付かなかったか?」


 攻撃を防ぐので精一杯だったため、考える余裕もなかった……沈黙していると、彼は「わかった」と言い、解説を始めた。


「先ほどの魔力は、魔力自体に命令を与えていた。剣を放つと同時に引き戻し、同様の威力を持つ一撃をさらに加える……それを繰り返すように指示を出した」

「それが、仕掛け……?」

「あらかじめ魔力に指令を与えておき、それを調整することで剣の軌道を決める……私がやったそういうことだ。剣の軌道自体は体に染みついており、頭で考えなくてもできる――つまり、頭で考え斬撃を放つよりも、早く攻撃できる」


 ……理屈としては成り立つと思うが、本当にそれだけで先ほどのような速さが手に入るのだろうか?


「レン君」


 そこで、今度はナーゲンが口を開いた。


「ラキと戦った時……途端に間合いを詰められたり、知覚できない速度で剣が来たことはなかったかい?」


 言われ、俺は思い出し始める。確かに剣を交錯させた時、一瞬で間合いを詰められるなどされていた……それが、リュハンの見せた魔力に命令を与える行為なのか――


「この技が、奴の秘訣なのか」


 同じように戦った経験のあるルルーナが呟く。それに反応したのは、リュハン。


「口上からすると、他に似たような剣の使い手がいるのか?」

「彼の友人かつ、英雄アレスの弟子だ」


 ナーゲンが答えると、リュハンは少なからず驚いた様子で、僅かに目を開き「そうか」と呟いた。


「なるほどな……勇者レン、別の人間から攻撃を受けたことがあるのなら話が早い。応用次第で剣や腕以外にも、足に力を用い間合いを一瞬で詰める、といった技法もできる」

「……わかりました」


 これこそが、ラキの用いる技の一つ……となれば、彼に対抗するには必要不可欠となると思った。


「そして先ほどの連撃……これには、名がある」


 考える間に、リュハンはさらに解説を続ける。


「斬撃を一ヶ所に集中させるよう魔力に命令し、押し潰す技……『吹雪』という名だ。乱舞系の技に属する」

「乱舞……」

「同じ場所に剣を加え続けるには、相当な技量がいる……この技を習得するには、当然訓練が必要だ」


 そこまで解説すると、彼は剣を掲げた。


「続いて二つ目……名を『桜花』といい、こちらは君が得意としている一撃必殺の剣だ」


 一撃……となれば魔力を結集させて攻撃する技か。


「通常……剣に魔力を集める場合、剣を覆うようにして魔力が包みこむような形となる。これは魔力が物質に対し、均等に拡散するためだ。この魔力を一ヶ所に集結させることができれば、通常よりも遥かに強力となる」

「ほう、その技法は面白いな」


 ルルーナが呟く。その言葉からすると、英雄アレスが使用していた剣術独自の手法らしい。


「先ほどと同様、魔力に命令を与えることで発動する……例えば――」


 言うや否や、彼は剣に魔力を収束させた――しかも、先端に。


「感じることができているはずだ。今は剣の先端に魔力を結集させた。このように一点に力を集積させ、それを敵に叩き込む……これが『桜花』という技だ」


 さすがに当てるのは危険だと思ったのか、技を使用せず解説のみで終了した。


「ひとまずこの二つだな……他にもあるが、まずはこの二つから始めていく」

「はい」

「解説は、終わりでいいかな?」


 そこへナーゲンが割り込んだ。リュハンが頷くと、彼は俺に視線を向け、話し始めた。


「訓練自体は、明日から行うということでいいだろう……そろそろ時間だろうし、今日の所はお開きといこうか」

「時間……?」


 俺が呟いた時、遠くから鐘の音が聞こえてきた。これは――


「夕方だな」


 ルルーナが呟く。言う通り、一定の時間――具体的には真昼と夕方――になると、ベルファトラスでは街中に鳴り響く鐘の音が聞こえる。

 シュウと出会いこの闘技場に来た時は昼過ぎだったのだが……体が感じている以上に、長居してしまったようだ。


「では私も帰るとするか」


 ルルーナは言うと俺達に小さく手を振り、歩き出した。残る俺達は彼女を見送り……訓練場を出て行った時、首をナーゲンに向けた。


「俺も帰りますけど」

「ああ……ところでリュハン。宿は?」

「これから探す」

「そう……レン君、セシルの屋敷へ案内してあげてくれ。挨拶も必要だし、一つの場所に集まっていてくれた方が私達としてもいい」

「わかりました……セシルも頷くでしょう」


 セシルはリュハンと戦おうとするかもしれないが……まあ、なんとかなるだろう。


「ではリュハンさん、行きましょうか」

「ああ」


 言いながら彼は剣を収める。俺もまた剣をしまい、二人で歩き出す。


「リュハン、明日から頼んだよ」


 最後にナーゲンの言葉。それを聞くと横を歩くリュハンは無言で彼に応じるように手を上げ……俺達は、訓練場を後にした。


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