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覚悟と英雄

 ――選抜試験から十日程経過した昼下がり、訓練を終え俺は一人遅めの昼食でもとろうかと街中を歩いていた。

 本来ならセシルの屋敷に戻り食べるはずなのだが、今日に限ってはあまり帰りたくなかった。だからこそ店を探し、街をブラブラしていたわけなのだが――


「おや、レン殿か」


 ふいに声。首を向けると、そこには赤い貴族服のようなものを着たルルーナが立っていた。


「貴殿も今から食事か?」

「はい……ルルーナさんも?」

「そうだ。マクロイドに紹介された店に行こうと思っていたのだ。美味いとひたすら連呼され、仕方なくな」

「……マクロイドさん、強引ですね」


 そう言って笑う俺。ルルーナは肩をすくめ、一度視線を左右に向ける。


「リミナ殿は?」

「ロサナさんと一緒です。最近、俺といる方が少ないくらいです」

「そうなのか」

「リミナはなんだか必死に頑張っているようですから、俺もあまり干渉しないようにしています」

「……必死、か。おそらくレン殿と共に戦っていくため、食らいつくように訓練しているのだろう」


 神妙な顔つきで語るルルーナ。けれど表情の中にはどこかリミナを慮るような色も垣間見え、


「……ふむ、まあいい。それでレン殿も食事のようだが……セシルの屋敷で食べないのか?」

「今日は帰り辛くて」

「帰り辛い……? ははあ、なるほど」


 合点のいったルルーナは、俺に笑みを浮かべた。


「ついに今日、告知するというわけか」

「夕方集まるらしいので、顔に出るのはまずいかなと思って」

「ずいぶんと慎重だな……わかった。なら私と一緒に食事でもどうだ?」

「お願いします」


 渡りに船とばかりに告げると、ルルーナは「ついて来てくれ」と言い、俺を先導し始めた。






 告知――それは、俺がシュウや魔王と対抗するために選んだメンバーが集まることだ。昨日ナーゲンに誰を選んだか伝え、その面々が今日、セシルの屋敷へ集うというわけだ。


「あの戦いの後、関わった者達は誰もが神経を尖らせている。私とて、例外ではない」


 言いつつ、彼女はパスタを口に運んだ。場所は個室の整ったカフェ。現在俺とルルーナは向かい合う形で座り食事を共にしている。


「シュウ殿のことに加え魔王の顕現……私も刃を合わせた身だが、強かった。あれはシュウ以上に厄介かもしれない」

「そうですね……俺達は訓練漬けで、あまり情報が回って来ていないんですけど、何か変化したことはありますか?」

「表面上は特にないな。私達もまた、訓練を行っている……とはいえ」


 ルルーナは一度フォークをピタリと止めた。


「マクロイドを始め、多少の人物達は……空元気という面もあるだろう」

「……そうですか」


 十日――魔王の凶刃により倒れた面々は、全員ベルファトラスで葬儀を行った。さすがにたった十日では、傷を癒す時間としては短すぎる。


「マクロイドさんには、あれから会っていないんですけど……訓練も、別になりましたし」

「見た目上は元気だ。まあ弟子が死んだのだから、時折考え込むような素振りは見せるが……指導は、きちんとしている」

「そうですか……良かった」

「貴殿はどうだ?」


 ルルーナが逆に訊いてくる。俺はそれに小さく肩をすくめ、


「傷は浅い方だと思います」

「そうか……何か心に重いものを感じたら、遠慮なく相談してくれ」


 ルルーナはパスタを口に入れながら述べた後……どこか、遠い目をした。


「……レン殿は見ていたかどうかわからないが、あの場にはライラもいた」

「ライラが……? あれ、そういえば彼女は俺の所に来ませんでしたね」

「行かせようとしたのだが、途中で道に迷ったらしくてな……午後から戦わせればいいと思っていたのだが、当てが外れてしまった」


 そう言った後、彼女は歎息する。


「そして魔王が現れた時、ライラも援護に回ろうとした。しかし私が下がっていろと指示を出したため、結局あの場で仕掛けることはなかった……もしライラがいたとなれば、私の後方からフォローに入るべく動いていたはずだ。それにより最悪、私はライラを攻撃から庇うことになったかもしれないし、逆にライラが私のフォローに回っていたかもしれない。その結果――」


 それ以上は、語らなかった。けれど俺にはわかった。最悪、戦って死んだ人のようになっていたかもしれない。


「……私やカインのように戦士団にいた面々は、それこそ貴殿も関わった戦いで死線を潜り抜け、ある程度覚悟はできていた。しかしいざ魔王と相対し……明確に死の恐怖と、妹の死ぬ可能性が頭をよぎり、内心では大きく動揺してしまっていた」

「ルルーナさん……」

「もちろん、戦うのをやめるというわけではない」


 名を呼ぶ俺に対し、ルルーナは目を合わせながら言った。


「魔族の中の魔族という存在と出会ったことで……まだ覚悟が足らなかったと私自身認識できた。ナーゲンやフロディアも、改めて厳しい気持ちで臨むだろう……それこそ、私達すら関わることのなかった、先代魔王との戦いを思い起こしながら」


 俺は小さく頷いた……そして、改めて覚悟しなければならないと思った。

 魔族との戦いとなれば、犠牲となる人物が出てくるかもしれない……けれど戦いの最中にそれを嘆き悲しむ暇はないし、そんなことをしていれば自分がやられてしまう。だからこそ、そういう時のことを覚悟しすぐに動けるようにならなければ。


「……食事だというのに、少しばかり辛気臭い話となってしまったな」


 ふいにルルーナは苦笑し、改めて食事を再開。俺は何も言わずフォークを手に取り、目の前にあるパスタを食べ始めた。






 会計はルルーナが行った。店を出て俺が礼を述べると、彼女は「構わない」と答え、


「それで、これからどうするつもりだ?」


 こちらに問い掛けた。俺は少し思案し、


「……アキの所に、行ってみようかと思います」

「アキ……他大陸の勇者か」

「はい」


 頷き――彼女の現状を思い返す。

 以前の戦いで一番ダメージが大きかったのは、間違いなく彼女だ。恋人の死――現在も宿にこもりふさぎ込んでいる状況が続いている。


 アクアなどがケアをして、魔王との戦闘直後よりマシにはなったらしいが……放置しておけば後を追うかもしれないと、彼女達はアキにずいぶんと干渉しているらしい。


「ふむ、私も少しばかり話を聞きたいな。一緒にいいか?」

「構いませんけど……話とは?」

「他大陸の勇者として、どのように活動しているのか……純然たる興味だよ。まあ、そういった世間話をする余裕があるのかどうかわからないが……様子見のついでに、言ってみてもいいだろう」

「そうですね」


 俺も数度会いに行っているのが、結局一度も話ができていない。今日こそは成果があればいいなと思いつつ、彼女のいる宿へ足を向ける。


「彼女を候補に選ぶ予定はあったのか?」


 隣を歩きながらルルーナが問い掛ける。並んで歩くと改めて背が低いと思いつつ……その点は言及せず質問に答えた。


「フォーメルクの戦いなんかを考慮して、最初協力してもらおうと考えていました」

「そうなのか。しかし、彼女は――」

「はい……ナーゲンさんからも復活できないかもしれない人物を組み入れるのはやめてくれと言われていますし」

「非情だが、仕方のない話だな」


 ルルーナのフォロー。俺としては多少なりとも不服だったのだが……割り切り、結局他の人物を選んだ――


「待て」


 唐突に、ルルーナが言った。鋭い声。前方を見て、警戒している。


「ルルーナさん?」


 どうしたのかと尋ねようとした瞬間、俺の視界に男性が目に入った。

 相手と視線が合った瞬間、微笑みを向けられ、硬直する。その人物は――見覚えがあった。


 それは――英雄、シュウだった。


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