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現れた存在

 俺とリミナは、目的の人物を当てもなく探し始めた。迷路のような山道ではあるが、いざ歩くとなるとそれほど複雑な構造をしているわけじゃないと気付き、それなりに憶えられるくらいのものだった。

 で、幾度となく開けた場所に出くわし……やがて、見覚えのある人物が。


「あ……」

「ん?」


 闘士の姿。紛れもなくマクロイドの近くにいた人物だった。

 さらに、横にはファーガスが。会話をしていた様子で、知り合いなのだとわかった。


 で、俺の登場によりむしろ彼が食いついた。


「ここに魔族はいないぞ」

「みたいだね……あ、マクロイドさんのお弟子さんですよね?」

「あれ、もしかしてマクロイドさんに頼まれて?」


 闘士の言葉に俺は頷く。


「はい。心配していたみたいですけど」

「わかりました」


 頷いた彼は戻るべく足を動かし始める。それに対しファーガスは小さく肩をすくめ、


「どうやら仕事は終わりのようだな……勇者レン。ここでもう一戦といくか?」

「……勘弁してくれ」


 好戦的な気配を漂わせる彼に対し、俺は手で制止。


「ひとまず今は下に行って指示を仰ごう」

「……ふん」


 面白くないという表情を示しつつも、彼はマクロイドの弟子に追随するように歩き始める。しかし――


「……ん?」


 ファーガスは突然、広場の中央付近で立ち止まる。そして山へと進む道の脇を眺め……動かなくなった。


「……ファーガス?」


 闘士が気付き声を上げる。俺やリミナも沈黙し、彼の言葉を待っていると――


「……いつから、そこにいた?」


 ファーガスが警戒を込め森へ呟いた。直後、

 むくりと、茂みから人影が。


「よくお気付きになられましたね」


 そうして聞こえたのは、女性の声音。続いて茂みの奥から当該の人物が姿を現す。


 まず目に飛び込んできたのは、藍色のローブに端正な顔立ちと、黒髪。どこか幼さを残しながら気品のある雰囲気を醸し出しており、場が場なら両家のお嬢様に見えなくもない……あくまで顔立は。

 その中で、髪が異様だった。腰どころか地面に設置するほど長く、完全に先端を引きずるようにして歩いている。


「勇者レン様にすら気付かれなかったというのに」

「あいにく、俺は気配探知が得意でな……とはいえ、潜んでいたお前を始めから気付けなかったことを考えると、悔やまれるな」

「ふむ……魔族封じのせいで、気配断ちが上手くいかなかったようですね。忌々しい魔法です」


 魔族が呟く間に、ファーガスは剣を抜いた。俺や闘士、そしてリミナも武器を構え戦闘態勢に入る。

 よくよく観察すると、ファーガスの言う通り微細ながら魔力を発しているのがわかった。そしてそれは明確に魔族特有のものであり――


「ここに隠れ、何をしていた?」


 ファーガスが問うと、魔族は微笑を浮かべ返答する。


「適度に隠れ、見つからないよう麓まで進み目的を果たそうかと思っていたのですが……駄目でした」

「麓が狙いなら、なぜ他の魔族と共に襲わなかった?」


 ファーガスがさらに尋ねると、彼女は隠し立てする様子もなく答える。


「私が出張ると、他の方々から苦情が来ますので」


 ……苦情? どういうことだ?


「他の方々とは魔族達のことだな? 苦情とは何だ?」

「茶々を入れると、士気の高い魔族達の気勢をそぐと思ったのです……けれど、どのような戦い方であれ、全滅することに変わりなかったのでしょうけれど」


 全滅――もし言うことが本当なら、残っているのは目の前の相手だけとなる。


「他にも、諸事情により顔を出したくなかったというのもありますね」

「なるほど……で、残るはお前だけとなり、隠れて目的を果たそうと思っていたわけか……残念だったな」


 ファーガスが剣の先端を魔族へ向けつつ語る。


「ここからどうするつもりだ? 見つかった以上、俺達にやられる他ないぞ?」

「……では、ささやかながら抵抗してみせましょうか」


 どこか皮肉っぽく魔族が言った瞬間、風が吹いた。それにより黒髪が流れ、可憐な様が俺達の目に映る。


「抵抗、か。ずいぶんと弱腰の魔族だ」


 ファーガスは言いつつも前傾姿勢となる。対する魔族は動かない。自然体のまま、俺達に視線を送っている。

 ……表層に現れている魔力は、非常に薄い。そのためこの場にいる面々でも十分倒せそうな気がするのだが……嫌な予感がするのも事実。


 この魔族が発した言葉は、他の魔族達を客観的に見ているように感じられた……全滅した魔族達を見守っていたか、それとも統制していたのではないだろうか。

 推測が正しければ、目の前の魔族が襲撃した存在より強いという可能性が浮かび上がるのだが――


「来ますか?」


 魔族が淡々と問い掛ける。直後、ファーガスが応じるように走り出す。次いで、マクロイドの弟子である闘士もまた、駆けた。

 対する俺は動かない……危なくなればファーガス達の援護をしようという、後詰めのつもりだった。リミナは俺の動きに同調するつもりなのか、槍を構えたまま静観の様子。


 魔族の動きを注視する。もし怪しげな行動をとれば、すぐさまカバーに入る――


「勇者レン様は、動かないのですか」


 魔族がポツリと呟く――俺の目には、心底残念そうに嘆いているように感じられ、


「……仕方ないですね」


 刹那、呟きと共に、

 彼女の足元で、変化が起こった。


「――っ!?」


 彼女自身に視線を送っていたため、気付くのが一歩遅れた。

 変化したのは、彼女が立っている場所の影――突如影が彼女を中心にして円形を成し、いくつも地上から抜け出て鋭い刃となり、


 彼女を中心に、咲き乱れた。


「ぐっ――!?」


 ファーガスは呻き、すかさず回避に移る。瞬間的に大きく跳び退き、円形から脱した。しかし――


「っ――!?」


 マクロイドの弟子である闘士は……間に合わなかった。


 彼は咄嗟に剣をかざし防御する。けれど刃が触れた瞬間、剣がまるで玩具のように砕け、体に幾本も刃が届いた。


「あっ……!?」


 リミナが呻く。同時に彼を中心に鮮血が舞い――闘士は、膝をつき倒れた。


「もし仕掛けてきたのならば、一気に決着となったものを」


 魔族は斬った闘士のことなど一瞥もくれず、俺を見据えながら言った。


「もしかして、根源的に何か感じ取っていたのですか?」


 ――鮮血が地面に流れ、黒い染みができる。闘士はもう、動かない。


「……お」


 声が、漏れた。けれど自分自身から発せられたものじゃない。見ると、ファーガスがわなわなと体を震わせていた。声は、彼からのもの。


「お前、は……」

「私はあなた方が仕掛けてきたので反撃しただけです。恨まれるようなことはしていませんよ」


 決然とした魔族の言葉。それが呼び水となったかわからないが――ファーガスから、魔力が噴き出した。

 半ば暴走状態の力――怒りを大いに含んだそれに、俺は名を呼び「やめろ!」と叫んだ。しかし、彼は応じない。


「おや、まだ来ますか?」


 小首を傾げ、魔族が問う。ファーガスは答えず、やがて震えが収まり――剣を構える。


「待て、ファーガス――」


 まずいと思い、再度俺は声を上げた。けれど、無視するかのように彼は突撃を敢行する。


「……やれやれ」


 魔族は歎息し――その間に、彼は魔族を間合いに入れた。恐るべき速さ。俺と相対していた時よりも速く疾駆し、魔族へ向かって必殺の一撃を放った――


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