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不安な終焉

 以降、ガーランドからの攻撃はなく俺達は山を下る。その途中でジュリウスから伝えられた魔族の目的について話しつつ……歩を進めた。

 戦闘もなく、やがて俺達は拠点を見渡せる場所まで辿り着いたのだが――


「……思った以上の結果だな」


 俺は感想を漏らす。リミナ達も同意見なのか、小さく頷いたのがわかった。

 拠点と思しき場所は、天幕がいくつも設置された一角で、柵などが設けられているわけではなかった。そしてその場所で戦士や騎士が魔族と交戦をしていた。


 指揮をとっているのはアクア。彼女が試験者達を統制しつつ、拳を放ち魔族を倒していた。しかも驚くことに一撃で。

 なおかつルルーナやカインの姿もあった……山にいたはずだが、いち早く彼らも到着していたようだ。彼らもまた、魔族を一撃で倒している。


「力をある程度抑えているとはいえ、魔族に仕事をさせないレベルとなると、相当な実力者よね」


 アキはアクア達の戦闘を見てそんな風に呟く……俺はふと、他に知り合いがいないかを探す。既にロサナ達も到着していて魔族と戦っていた。彼女もまた魔法によって魔族を軽く倒している。


「……こちらを襲撃した魔族は、山に入り込んだのよりも弱いのかもしれないわね」


 ふいにアキが呟く。その言葉に反応したのはリミナ。


「弱い、ですか」

「遠目から感じ取れる魔力の多寡も、多少差がある気がする。きっと山にはレン君を始めとした精鋭が揃っていたから、そちらに戦力を振り分けたのかもしれない」


 ああ、確かにそれなら納得できる……そこで俺は魔族の作戦を、おぼろげながら理解し始めた。

 山中を襲った魔族達は、おそらく時間稼ぎの意味合いがあったのだろう。もし精鋭達を倒せればそれで良し。そうでなくとも戦力的に食い止められると考えていた。


 けれど相手にとっては予想以上に壊滅が早く、逆に戦力的に弱い山の麓に来られてしまった……そんなところだろう。


「作戦としては、お粗末と言わざるを得ないな……」


 俺がなんとなく呟くと、アキは同調し小さく頷いた。


「そうね。けど、一つだけ気に掛かることがある。魔族側に、魔族を統率する役目を持つ存在がいるはずよ。その魔族の力量がどれほどなのか……」

「統率、か」


 呟きつつ、俺は再度拠点付近の戦闘を観察する。戦いは終盤に差し掛かり、アクア達が魔族達を掃討しようとしていた。


「魔族側にしてみれば、予想外といったところか……?」

「目的は果たしていないわけだし、目論見から外れているのは間違いなさそうね」


 アキは言うと俺達を一瞥し、


「山側の音も鳴りを潜めたし、ひとまず戦いは終わりって事でいいんじゃない?」


 そう陽気に告げた。俺は内心同意した……が、あっけない終わり方により、逆に不安を覚える。

 本当にこれで終わりなのか……今まで遭遇してきた戦いでは、敵を倒したと思ったら新たな敵が浮かび上がるなんてことがあった。フィベウス王国のイザンの都襲撃などがその顕著な例……そういう嫌な経験が、俺の中で色々悩ませてしまう。


「あ、終わったわ」


 アキがさらに呟く……言葉通り、最後に交戦していた魔族がロサナの魔法により吹き飛び、塵と帰る光景が目に入った。


「私達の出番は少なかったわね……ま、活躍するということは騒動が大きくなるということだろうし、良かったのだろうけど」


 そう言いつつ、アキは肩をすくめ言った。


「とりあえず、あちらと合流しましょうか」


 言葉と共に歩き出す。残る俺達三人は無言で従い、足を動かし始めた。






 山も静けさを取り戻し、拠点周辺にはこの山を訪れた面々が一同に揃った。戦いの最中見ていたルルーナやカインといった歴戦の戦士……そして、俺にとって見覚えのある試験者。


「レン」


 リミナと共に歩いていると、セシルに呼び止められた。


「そっちは何事もなく、といったところか」

「ああ……そっちは――」


 彼の姿を確認。外傷は一切なかったが、衣服がずいぶんと汚れている。


「炎を使う魔族と戦ってさ。楽勝だったんだけど、こうして服が盛大に汚れたわけだ」

「そうか……まあ、怪我が無くて何よりだ」

「そっちも」


 言って、互いに笑い合う。次に周囲へと目を向けると、フィクハが闘士らしき人物と話している姿なんかも見えた。彼女もまた怪我がなさそうだ。


「皆が口々に言っているよ。魔族なんて大したことがないってさ」

「油断大敵だと思うけどな」

「だろうけどね……ま、魔族と戦ったことなんてなかったから、良い経験になったよ」


 ――ある意味、魔族との戦いに関する予行演習になったと言えなくもない。けれどこれはあくまでイレギュラーな出来事であり、さらに警戒が必要なはずなのだが――


「おい、レン」


 そこに、今度はマクロイドが近寄ってくる。


「あ、マクロイドさん」

「俺の弟子、知らないか?」

「弟子?」

「ああ。俺達が魔族と戦う寸前に下へ行かせた奴だ」

「……見ていないけど」

「そうか。先に行って、こちらに来た後別所に連絡を行うべく走って行ったらしいが……戻ってこない」

「道にでも迷っているんじゃないの?」


 セシルが意見。それにマクロイドは頭をかきつつ、


「その可能性もあるな……さて、どうするか」

「探してこようか?」

「本当か? なら、頼む」


 マクロイドは俺へと要求すると、手をさっと上げ、


「それじゃあ俺は、ナーゲン達と今後の段取りをするから、頼むぜ」

「え、ちょ――」


 思わず呼び止めようとした瞬間、彼は足早に去っていく……やられた。


「見事、押し付けられたね。そのつもりで近寄ってきたんだろう」


 腕を組みながらマクロイドを眺め、セシルが言う。俺はがっくりと肩を落とし、ため息をついた。


「最後の最後で仕事が……」

「引き受けた以上、腐らない。ほら、行った行った」


 セシルがはやし立てるように声を上げる。俺は一瞬セシルにも手伝ってもらおうかと画策したが――彼はそれを機敏に察したか、くるりと背を向けた。


「じゃ、そういうことで」


 彼も足早に去った。残されたのは俺とリミナの二人。周囲の戦士達はなお会話をしていたが、俺達だけその空気から取り残されたように沈黙する。


「……仕方、ありませんね」


 やがて嘆息しつつリミナが言った。


「目的の方を見つけ出し、休憩しましょう」

「そうだな……」

「それで、見つけ出す方のお名前は?」


 ――言われ、俺は一目見ただけで名前すらわからないのだと気付く。

 マクロイド……何も考えず俺に押し付けたな。まあ、探してこようと言ってしまったのが運が尽きか。


「……とりあえず、適当に散策して見当たらなかったら考えよう」

「はい」


 リミナが頷き、俺達は歩き出す。拠点周囲の喧騒から少しずつ離れ――やがて、静かな迷路の山道へと入る。

 静けさはひどく穏やかなものだったのだが――俺はなんとなく、恐怖に近い感情を抱いた。まるで、戦いが終わっていないかのような感覚。


「勇者様? 立ち止まってどうしたんですか?」


 横にいるリミナが問い掛ける。気付けば、歩みを止めていた。


「ああ……えっと、ごめん」


 謝った後、俺は足を動かす。けれど穏やかなはずの森が、ほんの少し敵意を抱いているように感じられるのは……俺の気のせいだろうか?


「……リミナ」

「はい」

「もし今後魔族が攻撃してくるとしたら、どう出るだろうか?」

「……第一波の攻撃が失敗に終わっている以上、しばらく様子見なのではないでしょうか」


 それが、普通の考えだとは思う――けど、俺の心の中には不安がくすぶり続けていた。


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