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再生の魔族

 おそらく彼の能力はその再生能力にあるのだろう――そういう当たりをつけたと同時に、アキが先行して動いた。


「薙げ――英霊の剣!」


 生み出したのは光の剣。それが目算十本近く一斉にガーランドへ向け放たれた。

 対する魔族は――なんと、身じろぎ一つせずその全てが直撃。体の様々な部位に剣が貫通し、見た目上大きなダメージを与える。


 避けることすらしないその態度に、アキは魔法を放った状態で止まる。


「これは、また……余裕のつもり?」

「違うな」


 ガーランドが応じると同時に、体は再生した。


「避ける必要が無いと思ったまでだ」


 言うと同時に彼は右手をかざす。先から突如光が生まれ、それは一つの武器を成す。


「……弩?」


 リミナが呟く。ボウガン、クロスボウ……元の世界ではそういう呼称の弓が、彼の手に現れた。


「武器を使うなんて変わった魔族ね」


 アキは対抗するべく右の指先に光の鞭を出現させながら告げる。それにガーランドは肩をすくめ、


「多くの魔族は理解しないようだが……魔王を破った人間達に見るべきところもあるというわけだ」

「その成果として、あんたはそれを使うと?」

「そういうことだ」


 答えると同時にガーランドは左手を振り――矢を生み出すと素早く弓につがえ、一瞬の内に矢を発射した。


「散開!」


 アキが素早く指示すると、俺達四人は分散した。そして矢が着弾したのはアキが立っていた場所――刹那、地面に当たると青い光の渦が轟音を立てながら上空へと巻き上がる。


「おお……これはまともに受けると危なそうね」


 アキは光を見て呟くと……すかさず反撃。鞭をしならせ、さらには鞭の長さまで変え――ガーランドに仕掛けた。

 地面を伝い、鞭がガーランドまで届く。けれど彼は相も変わらずそれを平然と身に受け、腹部に直撃。確実に体を引き裂いたのだが、やはり再生する。


 これではキリがない……そこで俺はアキへ視線を送る。

 彼女もまた俺へと顔を向けていた……それは一瞬のことだったが、アイコンタクトでどう動くか判断することができた。


「リミナ、魔法を!」


 俺は叫ぶと同時に剣に魔力を集める。使用するのは氷。まずは相手の動きを止める!


「そちらは多人数の利を生かす……当然だな」


 一方ガーランドは涼やかな顔で語る。俺達の魂胆を察しているのか、それとも――


「レックス!」


 考える間にアキが叫ぶ。するとレックスが大きくガーランドへ向け前進。


「今度の相手はお前か」


 ガーランドは突き進むレックスを見据え呟くと、手に握る弓を光に変化させた。武器を変える気か。

 光が形を成す前にレックスが斬りかかる。斜めに一閃した斬撃で、勢いをつけた一撃は地面に大きな亀裂を走らせるのではないかと思う程の迫力があった。


 それに対しガーランドはまだ光を収束させており……一撃が入った。

 剣戟は頭部から体を駆け抜ける。さすがにこれは――そう思った矢先、


「確かに、強力だな」


 ガーランドは声を出すと共に、右手の光が収束し、長剣を生み出す……効いていないのか!?


「だが、滅するには至らない」


 声と同時に薙ぎ払う。レックスはそれを上手くかわし、魔族の間合いから脱した。

 縦に薙がれたにも関わらず、その時には傷口も無くなり、再生を完全に果たしている。さすがに頭部や胸部など、急所に触れれば倒せると思っていたのだが、違うらしい。


 けれど俺は作戦を変えないまま、魔力の収束を終える。アキも準備が整ったのか動きを止め、さらにリミナも詠唱を終え槍を構える。


「ふむ……」


 俺達を見たガーランドは、警戒する素振りを見せた。


「なるほど、集中攻撃を仕掛け、滅しようという魂胆なのか。とはいえ、果たしてそれが上手くいくのかどうか――」

「あんたの再生能力は恐れ入るけれど、さっき滅するには至らないと言ったわね?」


 ガーランドの言葉を遮るように、アキが口を開いた。


「つまり、許容量以上の攻撃を受ければ滅すことができる、と読み取ることもできる」

「ならば、試してみるか?」


 ガーランドは悠然と応じて見せる。余裕なのか、それとも演技なのか。

 俺達は互いにしばし沈黙……相手もまたこちらの出方を待つ構えであり、奇妙な静寂が訪れた。


 やがて――均衡が崩れたのは遠くからの爆音。そこでアキが両手をかざし、


「縛れ――城郭の守護者!」


 魔法を放った。直後、彼女の手の先から光が生まれると同時に、その全てが地面に向かって放出された。

 ガーランドはそれらを目で追いつつ、後退しようとする。けれど地面に触れた光は恐るべき速さで彼へと向かい、足に触れた瞬間縄のような形状に変わり彼の体を拘束した。


「単なる拘束魔法か」


 冷淡にガーランドが呟く。そこへ、俺が剣を振り下ろした。


「行け!」


 地面に触れた瞬間氷柱が生まれ、一直線上にガーランドへ襲い掛かる。それもまた一瞬で到達し、彼を巻き込み巨大な氷柱が生じる。閉じ込めた――

 さらに氷が、軋ませる音と共に天使の羽を生み出し――中のガーランドを八つ裂きにする。


「リミナ!」


 そこへ畳み掛けるべく叫んだ。彼女はそれに応じるように息を吸い込み、


「渦巻け――天空の炎竜!」


 槍を空へとかざし、魔法が発動する。

 刹那、俺達の上空に炎が生まれる。リミナの言葉通りそれは渦を巻き、やがて螺旋を描きながら凍るガーランドへ向け放たれた。


 それに伴い、俺は凄まじい魔力を感じ取る。ドラゴンの魔力を活用した魔法であるためだろう……その威力は、俺が形成した氷を、触れただけであっけなく消滅する程のものだった。

 そして氷ごとガーランドを飲み込んだ……炎は渦を巻きながらも周囲に被害は及ぼさず、対象だけに狙いを定めた魔法であるのがわかる。


「これはまた、相当強力ね」


 アキが感想を漏らす。その間に炎は収束に向かい――やがて消えた。

 そこには氷や光の縄、さらにガーランドの姿すら影も形もなくなっていた。


「壁を超えた技術を活用した、特殊な炎です。これで通用しなければ――」


 リミナが解説する間に、ギシリと空気が軋んだ。注視するとガーランドが立っていた場所に、魔力が滞留し始める。


「再生、するのか……!?」


 俺は半ば呆然としつつ呟く。その時、


「いや、まだよ……レックス!」


 アキが叫んだ。直後呼ばれた彼が前に出て、魔力が収束し始める場所へと駆ける。


「アキ――!?」

「レックス! その空間を地面もろとも切り裂いて!」


 何を――思っている間にレックスが縦に一閃する。剣風を伴ったその一撃は地面に触れると大地に衝撃をもたらし、思わず目を見張るくらいの衝撃波を生み出し……やがて、


『ちっ……気付かれたか』


 反響する、ガーランドの声が聞こえた。

 直後、集まりかけていた魔力が途切れる。そして、完全に消滅した。


「今のは……?」

「さすがに何もかも滅しているのに再生するというのは、可能性として二つしかない」


 俺の言葉に対し、アキが応じた。


「一つは、本体は別にいて私達が戦っていたのはいわば分身。だから容易に再生できる、と考えることができる。これはレン君も理解できるはず」

「そうだな」

「で、もう一つは……再生する魔力の源を、自身の体ではなく別の場所に置いているということ。今さっき何もない所から再生した時、地面にずいぶんと魔力がわだかまっていた。だからもしかすると、地面に魔力の核を置いていたのではないかと思い……」

「それが、見事に的中したと」


 俺の言葉にアキは頷くと、全員に告げた。


「完全に倒してはいないと思うけど、地面にあった核にダメージは負わせられたと思うわ。だから当分攻撃は仕掛けてこないはず。あいつのことは気になるけど、ひとまず下へ行くことを優先しましょう――」


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