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地の魔族

 声と同時に、土人形が動き出した。俺は剣を構え、正面から来る人形と相対する。

 武器は何も持っていない……いや、腕自体が鋭利な刃となっており、まずは右腕で仕掛けた。こちらは魔力を込め、剣を薙ぐ。結果腕はあっさりと砕け、さらに体も両断した。


「やっぱこの程度じゃ無理か」


 魔族――ゴーガンは面倒そうに呟きつつ、さらに土人形を生み出す。その時ノディがもう一方の人形を一刀両断した。


 ――ここで、俺は疑問を抱く。バネッサは先ほど高位魔族に関することを話していたが……彼女とゴーガンが平然と会話をしたことを考えると、彼もまた高位魔族だと予想できる。

 だとすれば、俺の剣であっさりと崩れるような土人形を生み出すような真似をするだろうか? 様子見にしても、ずいぶんとお粗末。


「なら――」


 ゴーガンは呟きつつさらに土人形を生み出し、腕を振るった。それにより俺の立つ正面の土が隆起し、

 ドリルのように先端を回転させ、鋭く尖った(きり)のような物体が襲い掛かってくる。


 俺は即座に身を捻って。避けた。同時に回転するそれを側面から叩き斬る。すると土はあっさりと崩れ、錐は力を失くし崩れた。

 剣で易々と壊すことができる以上、直撃してもあまり痛く無さそうな気もするのだが……先ほど、ロサナが言っていた言葉を思い出す。僅かな傷でも痛みによりパフォーマンスは大きく損なわれる。ましてや相手は手の内を完全には見せていないであろう魔族。


 俺は油断せず、さらに襲い掛かって来た土人形と対峙する。

 人形が両腕をかざし、鋭い刃を差し向けた。俺は先ほどと同様剣を横に薙いで、体ごと両断――その奥で、


 錐が、眼前へと迫る。


「っ!」


 それは土人形の体を貫通しながら向かってくる。僅かながら意表を突かれ――その少しの時間は、俺に回避する余地を大幅に減らした。


「レ――」


 ノディが声を上げた。刹那、俺は全力で体を傾け、回避に成功。けれどドリルの先端部分に左頬を掠めた。結果、僅かながら頬に痛みが走る。


「今のを避けるのか」


 ゴーガンは心底驚いた様子で呟いた。その間に俺は、完全に攻撃を避け錐に剣を薙ぐ。それにより破壊され、事なきを得た。


「……ヒヤヒヤさせるね」

「悪い」


 ノディの言葉に対し答えると、俺は息を整えながらゴーガンを注視。頬の傷は痛みもなく、とりあえず邪魔にならなそうだった。

 先ほどの攻撃は……おそらく土人形をわざと弱く作り、錐の魔法で体を食い破る手筈だったのだろう。


「今のは仕留めたと思ったんだけど」


 どこかつまらなそうにゴーガンは言う。俺の体が魔法により貫かれる姿を、頭の中に浮かべていたのかもしれない。


「ま、いいや……さて、改めて続きをやろう」


 ゴーガンは言うと再度土人形を生み出す。それも複数で、彼の体を覆い隠すくらいの数。


「僕はさ、こだわりがあるんだよ」


 その時、唐突にゴーガンが告げる。


「人間というのはひどくもろくて、少し力を入れればあっさりと死ぬ……だから、儚い君達のことを少しでも記憶に留めようと、僕が思っている殺し方で綺麗に決めてあげようと思っている」

「……面倒臭い魔族ね」


 ノディはそう感想を漏らす。対するゴーガンは不快に思わず、逆に笑った。


「人間というのは、僕らから見たらその程度だという認識なわけだよ――」


 決然と告げ――人形が動いた。一斉に走り、俺やノディへ迫る。

 そして見えにくいが……先ほどの錐を形成するべく、彼の立つ周囲の地面が隆起し始めた。人形で攻撃を隠しつつ仕留めるという戦法……さっき俺は、これに見事引っ掛かりそうになった。


 けどタネがわかれば対処しやすい……そう思いまずは眼前迫る土人形を睨みつけ――


「レン!」


 ノディが叫んだ――直後、背筋に悪寒が走り、半ば反射的に足を横に向けた。

 刹那、真正面にいた土人形の腹部が弾け、鋭い錐が俺の立っていた場所を通過する。対応が一瞬遅れていたら、防御する暇もなく腹部に直撃していたかもしれない。


 その間にノディが剣を薙ぎ、迫る土人形を粉砕――彼女は魔族としての血があるため、攻撃を機敏に察知できたのかもしれない。


「驚いた、二度もよけられるとは」


 ゴーガンが感嘆の声を響かせる。俺は何も答えず近づいた人形を粉砕し、

 ノディがそこで、ゴーガンへ走り込んだ。


「今度はそちらの攻撃?」


 彼は余裕の表情で告げると、地面へ向け手をかざした。するとまたも地面が破砕し、下から土の塊が彼女目掛け飛散する。


「――やっ!」


 ノディは対抗するべく声を上げ、剣を振った――それは一陣の風となり、土の塊を全て弾き飛ばす。あまつさえ剣風がゴーガンに到達し、

 パァン――という、弾けた音が俺の耳に入った。


「風の刃でも仕込んでいたようだね」


 涼しい顔でゴーガンは告げる。攻撃は一切効いていない様子。

 そして反撃しようと腕をかざそうとする。そこで、俺が前に出た。


 決して連携を意図したわけではなかったのだが……図らずもそうなり、ゴーガンは攻撃を中断する。


「おっと、ターゲットは君だったね」


 思い出したかのように彼は告げる――俺はすぐに攻撃は来ないだろうと半ば悟り、

 剣に力を収束させた。途端、ゴーガンの眼の色が変わる。


「何……?」


 それはもしかすると、予想外の力だという感想だったのかもしれない。すぐさまゴーガンは警戒の眼差しと共に手をかざし――ノディが近づいたため、片腕ずつ俺達へ差し向けた。

 魔力が手に集まり始める。けれど彼が何かをする前に前に、俺達は同時に間合いに到達する。


「おおっ――!」


 声と共に縦に一閃。ノディもまた同じような動き。これは避けきれない――そうゴーガンは察したようで、収束していた魔力を利用し、半透明な結界を形成する。


「なかなかやるけれど、僕には効かない――」


 悠然と彼は言った――刹那、顔が驚愕に変わる。俺の目には、思ったように結界が生み出せない、という感じに見えた。

 彼の顔を見ながら、俺とノディの剣が結界に触れる。そして、


 俺達の剣が、結界を易々と破壊した。


「そんな――」


 ゴーガンが呻く。それもまた、予想外のことだったらしい。

 油断していたからこそ、こうした結末になった……心の中で思いつつ、俺は容赦なく剣をゴーガンへ叩き込んだ。剣閃が彼の体を走り、なおかつノディも剣も頭部から体へと入る。


「ガ――」


 呻き声が、聞こえた気がした。けれどそれ以上声は成さず――魔族は突如、光ではなく塵と化し、消えた。


「倒した、のか?」


 俺は剣を振り終えた直後、内心拍子抜けしつつ呟いた。


「油断してくれなければ、こんな簡単に終わってないよ」


 返答はノディ。俺は彼女を見返し、小さく頷く。


「それに、相手も最後に気付いたんじゃないかな。思うように力が使えないって」

「力が……?」

「ジュリウスという魔族に対する、対策だよ。ジオさんがフロディアさんと話しているのを聞いた」


 対策……もしやそれが功を奏し、魔族の力を抑えたというのか。


「最後の結界発動の時、あの魔族は相当驚いていた。そういうことだと思う」


 語りながらノディは視線を移す。方向はマクロイドの立つ場所。俺もまた視線を移すと、マクロイドは俺達に背中を向けながら立ち、バネッサと対峙していた。


「……ふん、そういうことなのですね」


 不快そうに、バネッサが呟く。


「ここで戦いが始まった直後、空気が澱んだ気がしていたのだけれど、対策を立てていたと」

「そういうことだ」

「なぜ私達がここに来るとわかったのかしら?」


 問うバネッサ……どうやら、ジュリウスがここにいる事実は知らないらしい。


「さあな」


 マクロイドは答えず、剣を僅かに揺らし、告げた。


「さて、後輩が頑張ってくれた以上、俺もそろそろ決着をつけないといけないな――」


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