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次の挑戦者

 グレンの剣を、ロサナは魔力を込めた腕で防御を行う。そして刃と肌が衝突した瞬間、ロサナは何かを察したようで驚愕の表情を見せた。


「そういうことか――」


 彼女は呟くと同時に剣を弾く。腕に傷は無い。刃が通っていないのは明らかだったのだが、彼女は後退しグレンから距離を置いた。


「魔力の質を変え……魔法を相殺する効果を付与したというわけか」

「……まさか、一目見て看破されるとは」


 グレンは苦笑しつつ……小さく頷いた。


「あなた程の腕を持つ相手にとって、一瞬触れただけでは通用しないようだが……あのまま剣と触れ合っていれば、いずれ結界を打ち破っていただろう」

「あなたは彼と正反対で、攻撃に特化したわけね」


 ロサナは歎息しつつ両手を腰に当てた。


「それが訓練の成果、というわけか……なるほど、中々のものだけど、それで私を突破できると思っている?」

「ここからが、勝負ですね」


 オルバンが剣を構え直し告げる。それにグレンは同調し、小さく頷いた。


「ここを、通させてもらう」

「できるものなら……リミナ」

「はい」

「しっかり見ていなさい」


 そう告げると彼女は、両手をグレン達へかざした。


「さあ、いくわよ――」


 そして攻防が始まる。俺は彼らの動きをしっかり見ようと意識を集中させようとして、


 前方から、人影が現れるのを画面越しに捉えた。


「こっちも、敵か」


 呟くと同時に、映像を切った。新たな人物が来た以上、名残惜しいが致し方ない。

 そうして相手に目を向ける……やはり、知り合いだ。

「今度はノディか」


 戦闘服姿ではなく、聖剣護衛の時身に着けていた純白の鎧姿の、ノディ。真紅の剣を右手に持ち、その左手に鞘を握り歩いてくる。


「ここはレンか……なら、戦おうかな」


 告げると、彼女は鞘を地面に突き立て、刃を俺に向けた。

 対するこちらは、無言でノディに視線を送る……訓練で彼女とは幾度か戦った経験もある。だから多少なりとも腕を把握しているのだが……全力ではなかっただろうし、何か隠し持っていてもおかしくない。


「覚悟はいい?」

「……こっちのセリフだ」


 問い掛けるノディに対し、俺は肩をすくめた……同時に、ノディは駆けた。

 ひどく直情的な動きで、猛然と迫る。騎士らしく正々堂々と思っているのかもしれないし……策を利用するためのフリかもしれない。


 けどまあ、判断する暇はない。俺は刀身に魔力を集め、迎え撃った。

 剣が衝突し、噛み合い、金属音が森に響く。一度捌いた後氷の盾を生み出し、二撃目のノディの攻撃を防いだ。


 通常攻撃は防げる――ただ彼女の攻撃能力は共に訓練を行っていた以上、よく知っている。警戒しなければならない。


「やっ!」


 短い掛け声と共にノディは剣を薙ぐ。それを再度盾で防ぐ俺。だが次の瞬間、盾が軋み、氷が砕け始めた。


「っ!」


 驚きつつも反撃。それはかわされ、彼女は後退。その時点で氷の盾はかなり損傷していて、そのまま防御していたら腕ごと持っていかれた可能性もゼロじゃない。危なかった。

 そしてこちらは反撃に――転じる前に、ノディが再び攻撃。俺は盾を再構築し防ぐと、それを破壊されながらも受け流し、刺突を放つ。


 ノディは体を傾け回避。さらにややバランスを崩した体勢ながら、再度斬撃を繰り出す。

 俺は回避し、一度距離を置こうと思い大きく下がった。ここで、訓練中のノディなら追撃を仕掛けるところなのだが……彼女は退いた。


「試験だからって、用心しているのか?」


 盾を再度生み出しつつ尋ねてみると、彼女は「まあね」と答えた。


「あっさりレンにやられて終わる、というのは避けたいからねー」

「ずいぶん余裕だな」


 態度を見て指摘すると、ノディは何も答えず肩をすくめた。


 そこで改めて思う――彼女の腕は、壁を超える技術を保有していることもあってかなりのもの……いや、純粋な剣技だけなら彼女の方がレパートリーが多いかもしれない。この辺りはルファイズ王国における騎士教育の賜物だろう。

 決して油断などできない上、ノディは一撃で戦況をひっくり返すような大技を所持している。一発もらって終わるという事故は避けないといけない。


 その時、ノディが動く。ファーガスと比べれば遅いが動きが非常に洗練されており、無駄がなく技術で間合いを一気に詰める。

 繰り出された横薙ぎを、俺は剣で受ける。途端、僅かながら剣が押し返された。ここで弾き飛ばされるのはまずいと思い、さらに腕に力を加える。


 その瞬間、ノディは剣を引き戻し、間合いからギリギリ外れた。そして放ったのは刺突。俺は体を捻って避けると、反撃しようと足を前に出し剣を振った。

 彼女はそれを易々と弾く――単純な剣の応酬では決着がつかないと悟る。ならば――


 俺は剣を振り雷撃を放った。フィクハに放った程ではないが、拡散し麻痺させる効果のある雷撃。しかしそれを、ノディは剣をかざし防ぐ――

 パァン! という弾けた音が、ノディの持つ剣に雷撃が当たり響いた。けれど彼女は身じろぎひとつしない。そればかりか、笑みさえ浮かべた。


「効かないよ。この剣はそういう攻撃を防いでくれる」


 ノディは述べると、一歩後退する。


「さすがにこのままだと決着がつかなそうだね……かといって大技を連発されるのはまずいかなぁ」


 そしてどこか呑気に呟くと、剣を軽く素振りした後、俺を見据えた。


「あんまり使いたくなかったけど、やるしかないか」

「……何?」


 俺は眉をひそめた。やはり、何か隠しているというのか。


「奥の手があるってことか?」

「そんな大層なものじゃないけどね」


 ノディは苦笑し――ふいに、目を瞑った。その行動に驚き、これは明確な隙なのではと思い、足を前に出そうとした。

 寸前、彼女は目を開けた。そして、両目に変化が。


「人には話さないで欲しいなぁ」


 ノディは言う……碧眼だった瞳の色が、紫色になっていた。


「いくよ――」


 言うと同時に彼女は駆け出す。先ほどよりも明らかに速い――!

 そして放ったのは横薙ぎ。攻撃方法は変わらないのかと思いつつ、その剣を受け――


 一瞬、体が持っていかれそうになった。


「――っ!?」


 動揺を表に出しつつ、俺は弾くのではなく受け流す方向に舵を切った。それは功を奏し姿勢を落としながら剣戟をどうにか捌く。けれどノディの攻撃速度は増し、態勢を整える間もなく次の斬撃が来る。

 今度は振り下ろす一撃。防御するのは危険と判断し、俺は盾で斬撃の軌道を遅くしながら後退することに決めた。左腕をかざし、足を後方に向けながら盾に一撃が入り、


 ほとんど抵抗がなかったため、さらに慌てながら一気に後方に引き下がった。

 結果、氷の盾は両断されたが腕に刃が触れるようなことはなく、回避に成功……ギリギリだった。


「おっと、さすが」


 ノディはこちらの動きを見て感嘆の声を上げた。


「なら、もうちょっと出力を上げないといけないかな」


 まだ上があるのか……俺は呼吸を整え、剣に収束させていた魔力を体全体に加える。剣の威力を上げるより、あの動きについていく方が優先だ。

 そしてノディの動向を観察し……彼女は動かなくなった。


「来ないのか?」

「そっちこそ」


 ノディが言う。彼女もこちらの出方を窺っている様子。


「……その能力、どうして聖剣護衛の時使用しなかった?」


 そこでふと、彼女に投げかけた。特別訊きたいと思ったわけではなかったのだが――


「通用しなかっただろうし」


 そう言って、彼女は剣を構えた。通用しなかった……?


「よーく私のことを観察してみれば、わかるよ」


 次いでそう言及。俺は言われるがまま彼女のことをじっと眺め――あることに気付いた。


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