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覇者への提言と悪魔の機能

 現れたのはセシル……純白のサーコートに、白と青を基調とした衣服。フィベウス王国で遭遇した時と同じ格好だが、以前よりも生地が薄いのが一目でわかった。夏仕様のようだ。


 で、三戦目にして早くもラスボスが登場した気分。


「どうしたの?」


 彼はきょとんとした表情で問う。顔に多少出ていたらしい。


「いや……セシルにしては、ずいぶんと遅い到着だな」


 誤魔化すように言及すると、彼は「そう?」と答えた。


「単に焦っていないだけだよ……それと、さっきの光は見えていた。交戦はしているみたいだね」

「そうだな。で、そんな悠長にしていていいのか?」

「別に山頂に早く到達することが目的というわけじゃないし、別にいいだろ?」


 もっともなのだが、セシルの気配は戦闘を行うというより、ピクニックでも来たように穏やか。戦う気があるのか……?


「意外だな、乗り気じゃないようにも見えるけど」

「いやいや、リデスの剣を得られる可能性を考えれば、やる気は十分あるよ。ただ――」


 そう言うと、セシルは斜に構える。


「急いて動いても良い結果にはならないさ……これはナーゲンさん達が見定める戦い。腰を落ち着かせ、きちんと評価をもらった方が良い」

「……そうか」


 そこで俺は、セシルの瞳の奥に強い光があるのを認めた。前言撤回だ。彼は慌てて進むような真似をしないだけで、相当やる気がある。


「で、レンと遭遇したわけだけど……戦いたくないなぁ」


 けれど、予想外の言葉を吐く……あれだけ俺と戦いたがっていたのに、どういう風の吹き回しなのか。


「急にどうした? いつものセシルなら戦う気マンマンだろ?」


 そこまで言って――俺は彼をじっくりと眺めた。


「偽物……というわけじゃなさそうだな」

「失礼だな、本物だよ。なんなら昨日の朝食と夕食のメニューを当ててあげようか?」

「いや、いいよ。で、何でそんなことを言い出すんだ?」


 ――刹那、セシルは笑みを浮かべた。俺に対し何度も見せている、好戦的なものだ。


「レンとは、しかるべき場所で雌雄を決したい」

「しかるべき場所?」

「闘技大会の決勝」

「……いつものセシルだな」


 歎息しつつコメントすると、彼は不服そうに声を上げた。


「どうしてそこまで強情なのか」

「いや……厄介事にしかならないだろうし」

「出るメリットあるのは、フィクハに言われていたじゃないか」


 彼の言葉に俺は沈黙する。確かにそうだけど。


「……というか、たぶんレンは出ないといけないんじゃないかな」

「は?」

「ナーゲンさんを始め、師匠達は統一闘技大会でもスカウトするつもりらしい。で、そうした人達に対し訓練の成果を見せろと言って、僕達を放り出す可能性高そうだろ?」


 ……確かに、そんな気がする。


「ま、この辺りはナーゲンさんに直接訊いたわけじゃないし、軽く流してもらってもいいよ。で、僕としてはここで君と戦いたくない。というわけで、引き返すよ」


 セシルはくるりと反転し背を向けた。本来なら、喜ぶべきことなのかもしれないが、どうも釈然としない。

 けどまあ、本人が言うのならそれに従うまで……だが、


「セシル」


 俺は背中姿に声を掛けた。途端に彼は立ち止まり、首だけこちらに向け、問う。


「何?」


 ――名を呼んだのは、このタイミングで話した方がいいと、なんとなく思ったから。


「ナーゲンさんから、シュウさんと戦うために仲間を集めろと言われた」

「ああ」

「その一人を、セシルにしようかと考えているんだが……受けてもらえるか?」


 断られたら、他の人を探さないといけない……考えていると、セシルは肩をすくめた。


「英雄アレスの弟子にそう言われるのは、光栄だと思った方がいいのかな」

「……どうだろうな」

「その話、とりあえず考えておくよ」

「わかった」


 返事をするとセシルは首を戻し歩き始めた。そして手を上げ、


「期待に応えるため、リデスの剣は手に入れないといけないね」


 ――それは、共に戦うにはそのくらいはしないと、と思っているということか。


 考える間にセシルの姿が消える。これでまた道には俺一人――

 次の瞬間、ガサリと音がした。驚いて視線を向けると、悪魔が一体。


「ああ、戻って来たのか」


 イジェトを運んだ悪魔だ――俺は森に戻るよう指示をしようとした時、

 周囲から爆音。距離がそれなりに近かったように思え、僅かながら身構える。


「道に誰がいるのかわからないようにするのは、試験である以上当然だけど……状況がわからないというのは、問題だな――」


 そこまで呟いた時、俺はふと資料を取り出した。


「そういえば、斜め読みしていた時……」


 資料を再度読み直し――悪魔に偵察機能があると書かれているのを発見した。

 魔力を利用し、悪魔の視点で物を見ることができる……という機能だ。どういう理屈でそんなことができるのか俺には良くわからないが、とりあえず試してみる。


「えっと、悪魔に対し魔力を当てて――」


 呟きつつ書かれた通りの手順を踏み……それが全て終わると、俺の目の前に突如、白い円形の光が現れた。


「おっと」


 思わず後退しつつ、その光が収束し……やがて、映像が浮かび上がった。

 そこには、俺の姿が映っていた。一瞬鏡にでもなっているのかと思いきや、悪魔の目線であるのをすぐに理解する。


「ああ、なるほど。こういうことなのか」


 言った後資料を確認。悪魔と魔力によって繋がりを持ち、それを利用して悪魔の視点を見ることができる。便利な魔法だが、悪魔と距離をとると効果が切れるみたいで、近くの道を観察するくらいしかできないと資料には書かれている。


「音から考えれば、そこまでは行けるだろ……それじゃあ、爆音のした方向に偵察だ」


 指示すると、悪魔はくるりと踵を返し森の中を猛然と駆けた。俺は森の中を突き進む悪魔の視点を眺めながら、道から人がやってこないのか注意を払う。

 悪魔は茂みを物ともせずどんどん進んでいく。これは結構便利だと思いつつ、やがて森の奥に別の道を見出した。


「遠隔で操作をするには……」


 さらに資料を確認し、魔力を介し指示を送る。そこで悪魔は立ち止まり、気配を消しつつ少しずつ道へと近づいていく。

 そうしてやがて見えた先に――リミナの姿を捉えた。


「となると、ロサナさんがいるのか」


 戦っているのも間違いなく彼女だろう……思いつつ悪魔を進め、戦っている相手を確認。それは――


「っ……!?」


 驚いた。まず彼女と対峙するのは二人。その人物達もまた、俺にとって見覚えのある者だった。


「さて、準備運動はこのくらいにしましょうか」


 ロサナが肩を回しながら述べる。対する二人は、剣を構え静かに相手を見据えていた。


 その人物達だが……片方は背中に鞘を背負い、緋色の胸当てを身に着けた黒髪の男性――グレンだ。以前と装備は変わっていない……というか、彼もこの場に来ていたんだな。

 そしてもう一方の人物は、涼やかな顔に茶髪、二重まぶたと黒い瞳――ナナジア王国の騎士、オルバン。以前のような傭兵姿ではなく、青を基調とした鎧を装備している。


 両者ともロサナを注視し、対峙している……二人はカインの口から名前が挙がるくらいの実力は持っているため、新世代の中でも相当な使い手のはず。それを、ロサナは一人で対応しているようだ。

 この戦い、俺も相当気になり前方を注意しつつも見入る。悪魔の視点から見て、グレン達は右。ロサナとリミナが左に陣取っており、リミナは一歩後方に立っている。


「私から行く? それとも、二人から仕掛ける?」


 悠然とロサナは問う――刹那、それに反応したのかどうかはわからないが、グレンが先んじて走り始めた。


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