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二対一

 剣閃が、俺の真正面から飛来する。放たれたのは刺突で、半ば反射的に体を捻り、避けた。

 ファーガス程ではなかったが、速い――考えつつ視線を送ると、その人物もまた知り合いであるのがわかった。


「手を組んだわけか――」


 俺は呟きつつ放たれた剣戟を盾で弾く。途端に相手は呻き、後方へ下がった。

 次いで視線を戻す。リリンから矢が放たれ、まっすぐこちらに向かっているところだった。


「ふっ!」


 俺は冷静に対処し、再度盾で防御。矢は氷に触れるとあっさりと弾け、消滅。


「以前と比べて、相当面倒な能力を持ったわね」


 リリンは矢を生み出しながら俺に告げた。


「で、奇襲は失敗か……どうする、フィクハ?」


 そして、先ほど攻撃を仕掛けた人物――フィクハに問い掛けた。


「……二人って、知り合いだったのか?」


 なんとなく尋ねてみる。背後にいるフィクハは「少しね」と答えた。

 そこで改めて、フィクハを一瞥。以前革鎧を着ていたが、今回は体をゆったりと覆うような、茶褐色の衣服を着ている。まるっきり魔法使いのような姿で、剣を振っているのはなんだか奇妙にも思えたが……俺の着るものと同様、魔法の力が備わっているものなのだろう。


「それほど縁があるわけじゃないけどね……ま、共通の知り合いにレンがいたということで、道も一緒だったし組むことにしたんだよ」


 フィクハは陽気に答える……口上からすると、この場で出会って急遽組んだといったところだろうか。


「単独で戦っても、私達の勝ち目は少ない……けど」


 語ると、フィクハは怪しげな笑みを浮かべながら細身の剣をヒュン、と振る。


「私の手持ちに、レンをどうにかできる魔法は一応ある……だからリリンは、私と協力することにした」


 ――彼女は勇者でありながら魔法を使うことができる。以前竜の聖域で使用していたのは、大地に干渉する魔法や、光系の魔法だったはず。威力の中々のものだったはずで……警戒に値する。


「……ちなみに、どうしてこの道に俺がいるってわかった?」

「山の下にいる人から、それらしい話を聞いたのよ。といっても、盗み聞きしたのだけれど」


 答えたのはリリン。俺に弓を向けながら――小さく肩をすくめた。


「けど、私から見ればわざと言っている風に思えた」


 ――なんとなく合点がいった。おそらく誰を仲間にするか選ばせるため、関わりのある人物達を誘導しているのだろう。俺がそうなのであれば、おそらくリミナも同じのはず。


 仲間を集めるといっても、一切出会ったことのない人物と即組んで信頼するというのは難しいと、ナーゲン達も思っているようだ。だからこそこれまで出会ってきた人物達をぶつけ、その中から選ばせようとしている。


「……そうか、わかった」


 俺はそうしたことを話さず、剣を構えた。途端にリリンが顔を引き締め、背後にいるフィクハの気配が変わる。

 思考が戦闘モードへと切り替わる。とりあえず、挟撃されている現状は打破しないとまずい。


 どうにかして脇へ逃れようと動くが――リリンとフィクハは同時に動く気配を見せた。さすがに、この状況を崩したくはないか。

 一番の懸念は当然ながらフィクハの魔法だが……大規模な魔法であれば、詠唱が必要となるはず――いや、道具などを駆使すれば無詠唱でも可能だが、魔力収束の溜めくらいは必要だろう。それによって生じる隙を、彼女はどうするのか――


「考えているみたいね」


 リリンが、俺を見て言及。


「動かないのなら、こちらから攻めさせてもらうわ――」


 言うや否や、矢を放つ。しかし俺を狙ったものではない。着弾した場所は、俺の近くの足元――

 瞬間、突き刺さった矢から魔力が漏れた。途端に光が弾け、魔力が解放されて風が吹き荒れる。


 魔法の矢に、さらにもう一つ効果を――俺はちょっと驚きつつそれがただの突風であるのを理解し、踏ん張った。威力はそれほどでもなく、多少動きを制限するくらいに留まる。


「流れろ――精霊の地脈!」


 そこへ、フィクハの魔法が発動した。詠唱をしていた気配はない……無詠唱による魔法だ。どうやらリリンが足止めをして、フィクハの魔法によって仕留める――そういう連携のようだ。

 首だけ向けて確認すると、フィクハ正面の地面から、散弾のように土の塊が飛来するのが見えた。


 対する俺は、反射的に地面へ伏せる。次いで盾を生み出したままの左手を――地面に叩きつけた。

 刹那、俺の立っている周囲の地面が凍り、一瞬で壁を形成する。


「なっ!?」


 これには驚いたのかフィクハの声が聞こえた。直後土が氷の壁に直撃し、轟音を立てる。しかし、破壊はされない。

 よし――俺は断じると共に氷を消し、走った。目標は――フィクハ。


「くっ!」


 フィクハは多少狼狽えながら、迎え撃つ体勢を整える。彼女は俺と正面から戦って、勝てるとは思っていないだろう。間違いなく、何か対抗策を持っているはず。

 後方から、リリンの魔力を感じ取る。おそらく矢を放ったのだろ思うが――俺は、構わずフィクハに突っ込んだ。


「フィクハ!」


 リリンの声が飛ぶ。その間に俺とフィクハは剣を交錯させ――俺は、彼女の剣を薙ぎ払った。


「くあっ!」


 フィクハは弾き飛ばされ体が宙に浮く。その間にも背後から魔力が近づき、

 すかさず体を大きく傾けた。結果、体の横を矢が通り過ぎ、回避に成功。


 その間にフィクハは着地し、姿勢を整える。このまま追撃を掛けようか迷ったが――後方からリリンの気配を感じ取り、中断。一度後退しフィクハと距離を置く。


「……失敗か」


 フィクハは小さく呻くと、俺を見据えた。


「まさか氷の壁とは……魔法、自在に操れるようになったんだね」

「まあ、な……けど、完成形には程遠い」

「最終的にどこまでいくつもり?」

「考えはあるけど……秘密ということで」

「なんかロクでもないこと考えていそうだね」


 フィクハはそう述べた――直後、後方から強い魔力の収束。視線を転じるとリリンが矢を構え、俺に再度攻撃しようとする姿。そして――

 彼女の後方には、一人の人物が。


「っ……!?」


 三人目――まずいと体が悟る。この状況下でさらに人数が増えれば、突破される可能性が高い。


「また、挑戦者か――」


 フィクハが声を上げる。その人物とも協力し、このまま俺を倒す、という意思がありありと感じられ、すかさず魔力を集中させる。

 リリンもまた攻撃態勢。その状況下で新たな人物が俺達へ接近し、


「――どうやら、苦戦しているみたいだな!」


 現状を見て、男性の陽気な声が聞こえた。

 その人物も、やはり見覚えがあった。革製の鎧を着た、茶髪の男性。なおかつツリ目をした――


「イジェト……!?」


 リデスの剣を決闘で奪おうとした、勇者イジェトだった。


「なら、俺が一気に片を付けてやるさ!」


 俺の声に反応を示さず、イジェトは走り込む。対するこちらはすぐさま迎撃態勢に移る。と同時に、あることに気付いた。

 イジェトは現状を見て、俺が苦戦していると感じた。けれど状況は拮抗していて……彼が乱入したことで、潮目が変わる。


 真正面から、彼は向かってくる。結果、俺とリリンの直線状を彼が邪魔する結果となり、矢を当てることができなくなった。

 なおかつ、もう一点……イジェトが接近することで、フィクハが安易に魔法を撃てなくなった。下手すると、彼を巻き込んでしまうから。


「あっ――!」


 フィクハもそれに気付いたか声を上げる。瞬間、俺は二人からの攻撃はないと心の中で断じ――策を、頭に浮かべた。


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