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英雄の提案

「……で、その魔族の方はどうなったんですか?」


 屋敷でリミナに問い掛けられる。帰って来てから俺はリミナに報告しようと思いつつ、一度自室に戻った。そこで彼女がやって来て、一連の説明を行った。


「客室にいるよ。今はきっとセシルに睨まれ、針の莚に座るような気持ちじゃないかな」


 そう答えつつ俺は肩をすくめた。


「そう、ですか……同行できなくて申し訳ありません」

「いや、その辺は別に気にしていないから」

「というより、一声掛けてくれれば」

「恩師と話している時に悪いと思ってさ。そもそも成果なんて一日じゃあ出ないだろと思っていたし、リミナの手を煩わせる必要ないと思っていたんだ」

「けれど、収穫があったと」

「そういうこと――」


 答えた時、さらにノックが。


「はい?」


 返事をすると扉が開き、ノディが姿を現した。


「レン、見張りについてはとりあえずしなくていいって」

「……いいのか?」

「屋敷を出て行こうとしたロサナさんなんかが興味を持ったらしく、セシルと一緒に監視してる。で、マクロイドさんなんかを呼んでいるらしいし、大丈夫だってさ」


 言った後、ノディは小さく手を振った。


「私も夕食まで部屋で寝ているから」

「わかった」


 応じると共に、彼女は扉を閉めた。残された俺はリミナと視線を交わし、


「……ということで、今日はこれで終わりだな」

「そうですね」

「ロサナさんとの話はどうだった?」

「有意義でしたよ。それと、少しロサナさんから教わろうと思っていることが」


 教わる? 俺は首を傾げ言葉を待つと、リミナが意を決したように話し始めた。


「今後の戦いで、詠唱を交えた魔法は大きく隙ができてしまうでしょうから、無詠唱魔法の方も強化したいと思いまして」

「そっか……リミナの思うようにすればいいんじゃないかな」

「はい」


 と、彼女は笑みを浮かべ俺に応じた。


「頼み込んだら明日から訓練開始と言われました。なので、明日以降私は別メニューですね」

「ナーゲンさんには伝えてないよな?」

「はい。けどロサナさんはその辺のことは心配しなくてもいいと仰っていましたが」


 何かしら権限があるのだろうか……まあいい。もしナーゲンの口から何か言及が来たら、俺がフォローすればいい。


「なら、明日からはそういうことで……後は、ターナという魔族と、ジュリウスという魔族からの情報に期待だな」

「ですね……しかし、ここにきて魔族自体が人間達に、ですか。相当込み入った話となってきましたね」


 嘆息しながらリミナが言うと、俺は同調し深く頷いた。


「ああ。しかもラキ達の目的が魔王復活ではなく、魔王になることもかもしれないとなると……」

「それが確定なのかはわかりませんが、そう仮定すると今は準備をしていると考えることができそうですね」

「準備、か」


 裏でコソコソとしているのは、魔王となるための準備をしているのでは、ということだ。


「……まあ、それはラキ達を追えばわかる話だし、この辺りにしておこう」

「はい。勇者様はこれからどうなさいますか?」

「歩き回って疲れたから、夕食まで寝ようかな」

「そうですか。なら私は自室で待機します」

「わかった」


 承諾と共に、リミナは歩き出す。俺は彼女が部屋から出るのを見送り……一人になると息をつき、ベッドに歩み寄った。


「魔王、か」


 ベッドに寝転び、天井を見上げながら呟く。結局の所、魔王をどうこうするという根本は変わっていないので、俺達がやるべきことも変化ない。しかし――


「魔王になって。何をするつもりなんだ?」


 仮に魔王になることが目的だとしたら……動機は何なのか?


「魔界を統べるため……だとして、今度はなぜ魔界で色々やるのかという疑問が出てくるな」


 ――いかん、このままだと思考が泥沼に陥る。魔王になるということ自体、あくまで仮定の話だし、ここは考えるのをやめにしよう。


「とりあえず、後はセシル達に任せるか……」


 マクロイドなんかも来るみたいだし、大丈夫だろう……考えつつ、俺は目を瞑って眠り始めた。






 次に目が覚めた時、周囲の景色はあまり変わっていない。眠っていたのは一時間程度だろうと思いつつ、俺はなんとなく起き上がってテラスへと続く窓の外を見た。


「……ん?」


 そこに変化があった。門付近に馬車が停まっている。


「マクロイドさんか?」


 呟きつつ様子を見ようかと、俺は部屋を出て正面玄関に。

 そこには欠伸をかみ殺しつつ待機するノディがいた。


「ノディ?」

「あ、レン?」

「寝なかったのか?」

「馬車が停まっていたから様子を見に来たんだよ。で、どうも一騒動あるみたい」

「騒動? あの魔族が何かやったのか?」

「ううん、違う。やらかしたのは私達」


 意味がわからない。首を傾げていると、彼女は言った。


「あの魔族のいる客室を覗いてみればわかるよ」


 覗くって……俺はなんだか気が退けて、とりあえず部屋にでも戻ろうかと考えたのだが――


「あ、レン」


 今度はセシルの声。目を移すと、客室のある方向の廊下に立っていた。


「呼ぼうと思っていたから丁度よかった。レンも訊いた方がいい」

「俺?」

「ああ。ノディも来る?」

「丁重にお断りします」


 きっぱりと言うノディ。同時に苦笑し、


「というか、あんな場には入れない」

「……正直僕も同感だ。あの魔族が不憫でならない」

「……何が起こったんだ?」


 俺の問い掛けにセシルは何も言わず、黙って客室を指差す。俺はその所作で気になり、とりあえず部屋へ歩き始めた。

 で、俺は当該の客室へ辿り着くと、セシルが扉を開ける。中は沈黙が生じており、何気なく覗き見て――


 ノディが何を言いたかったのか理解した。


「ああ、なるほど……」


 自然とその言葉が出た。次いでセシルが「入る?」と問い掛けたため、俺は首を左右に振ろうとした。しかし、


「レン君かい?」


 中からナーゲンの声がして、俺を呼び止めた。


「入ってくれ」


 そして入室を促す。そこで俺は覚悟して、セシルと共に中へ入った。

 まずは部屋を見回す……そこは、何か重要な作戦会議でもやっているのかと思うくらいのものだった。


 客室のソファにはターナだけが座っている。他の面々は彼女の前や背後、さらには横に立ち威圧するように囲んでいた。

 で、その囲んでいる人物達なのだが……ナーゲンを始めロサナやマクロイド、加えてアキやレックスが立っており……結果として、座るターナは床に目を落とし縮こまっていた。


 部屋に入った直後に出されたと思しき紅茶は、口をつけられていないまま冷めきっているのか湯気一つ上がっていない……俺がターナの立場なら、飲む余裕はないだろうな。


「で、だ……ここからが私達の用件だ」


 ナーゲンが口を開く。おそらくターナにではなく、ペンダントの奥にいるジュリウスという魔族と交渉している。


「ここで出た情報は、僕らが彼女から聞いたのとほとんど差は無い」


 そこでセシルが小声で口添え。俺は小さく頷きつつ、彼らの会話を聞く。


「あなたが英雄シュウによってもたらされるかもしれない災厄を、回避したいがために動いているのはわかった。けれど私達としては、魔族が街中でうろつかれるのは非常に困る」

『確かにそうだな。用件とはそのことか?』


 ジュリウスが問う。声は俺達と会話をしていた時より、ずいぶんと硬質。


「ああ……といっても、口先だけであなた方が去ってくれるとは思っていない。だから、一つ提案だ」

『提案?』


 聞き返したジュリウスに対し、ナーゲンは決然と告げた。


「そうだ……私達と、手を組まないか?」


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