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水と油

 資料によると、このベルファトラスにある王の住む城……そこに、非常に純度の高い魔石が存在しているらしい。だからこそ城を調べ回っているのでは――とのことだ。


「シュウ達に狙われる可能性が高いというのはこちらも承知していて、最大限の警備をしている。城にはフロディアさんもいるし、大丈夫だとは思うけど」


 セシルはマクロイドから渡された資料に目を通しながら、呟いた。

 場所は食堂。俺達が昼食をとった後セシルが資料を読み始め、一連の説明を行った。


 で、俺は彼の言葉を聞き、一つ不安要素を上げる。


「とすると、試験当日が一番危ないのか? 大方の戦士が外に出るわけだから」

「フロディアさんは城に控える予定のはずだし、大丈夫だよ。それに、ベルファトラスの中には、マクロイドなんかに匹敵する武具を持つ騎士も存在するし」

「けど……相手は転移魔法が使えるんだぞ?」

「その魔石の魔法により、城全体に結界が張り巡らされている。その結界のおかげで魔王との戦いでも城は陥落しなかったと聞く。直接出入りされなければ問題ない」


 セシルは決然と告げると、資料を綺麗に折りたたみ懐にしまった。


「調査開始は資料を受け取った後すぐと書いてあるから、今からだね。で、リミナさんは連れて行く?」

「……せっかく師匠と話をしているのに、水を差すのは悪いな」

「けどレンが出向けば、彼女だってついていくと言うんじゃないかな?」

「そうだけど……せっかく再会できたわけだし、ゆっくりさせてあげよう」

「そう……じゃあ、僕らで調べるとするか」

「私も?」


 腕を枕にして突っ伏すノディが問う。それにセシルは肩をすくめ応じた。


「嫌だと言うのなら、別に行かなくてもいいと思うよ。この資料には僕が調査に当たれと書いてあるだけだった。けど、屋敷に持ってきたということは、ここに住んでいる人にやってもらいたいということなんじゃないかな?」

「……う~」


 (うな)りつつ、ノディは上体を起こし椅子の背もたれに体を預けた。


「ここで嫌だと言ったら、ジオさんに色々言われそう……私も、協力する」

「その嫌な顔は、僕と行動するのが理由の大半だろうね」

「そうだね」

「少しは隠そうとしなよ……まったく」


 ほとほと困ったようにセシルは嘆息する。


「まあいい。とりあえず午後からは聞き込みだ。といっても一日で調べられることは少ない。店を多少回っただけで終わるだろうね」

「セシル、期限はあるのか?」

「特に書いていないけど、試験当日までに決着はつけたいと思っているだろうね」


 俺の質問にセシルは答えると、席を立った。


「それじゃあ早速行動開始だ。あ、リミナさんにはベニタさんに言伝しておくから、心配いらないよ」






 街についてはセシルが最も詳しい。よって、俺達はもっぱらセシルの後をついていくだけとなる。

 その道中、彼は色んな人に声を掛けられる。覇者という称号を持つ人間なのだから当然と言えばそうなのだが……大騒ぎするようなこともない。おそらく誰もがセシルの存在に慣れているからだろう。


「聞き込みばかりというのは地味だよね」


 ノディはあっさりと飽きたのか、視線を色んな方向にやりながら呟いた。


「ノディ……きょろきょろしない」

「だって~」


 面倒そうに応じる彼女。子供じゃないんだから――


「あそこに入るよ」


 セシルが端的に告げる。俺達が目を向けた先……そこには、酒場があった。

 一目見たノディは、セシルに問い掛ける。


「お酒飲むの?」

「飲まないよ……ああいう場所に騎士なんかが行くから、情報を集める人物も訪れるだろうという推測だ。それに、あそこは僕の知り合いが経営している」

「まずは知人からか」

「そういうこと」


 セシルの先導により、俺達は歩む。そして酒場入口の扉には準備中と書かれた札が掛かっている。


「入るよ」


 けれどセシルは構わず入店。俺達が後に続くと……そこは、最低限の魔法の光しかない、薄暗い空間。目が慣れるまでは、周囲の輪郭がぼやける。


「お? セシルか」


 次に声が聞こえた。目を凝らしてようやく慣れてきた目で確認すると……中年かつヒゲを生やした男性がいた。


「お前、昼間から飲むのか?」

「ナーゲンさんから頼まれごとだよ。人探しのための情報収集だ」

「情報収集……ほう、お前が真面目に仕事をやるとは」

「僕を何だと思っているんだ……まあいいや。で、教えてもらえる?」

「いいぜ。特徴は?」

「人相とかはわからない。ただここ最近、挙動の怪しい人物がいないかな――」


 セシルと店主は会話を始め、俺達は見事に蚊帳の外。まあ彼が話す以上、俺達の出番も無いのだが……暇過ぎる。


「私達、いなくてもいいんじゃないかな?」


 ノディが手近な椅子に座り、机に頬杖をつき問う。俺は内心同意しつつも、一応セシルへフォローを入れておく。


「ほら、戦闘になるかもしれないし……場合によっては、シュウさん達の幹部と戦う可能性も」

「むー」


 ノディは唸りつつ視線を宙に漂わせる。


「戦う、ねえ……あ、そういえばさ、試験についてレン君はどこまで知っているの?」

「どこまでか……どういう役割を果たすのか、ということだけしか聞いていないよ」

「そっかあ……」


 ノディは呟きつつ眠たそうな目で酒場を見回す……そこで、俺は一つ付け加えることにした。


「ただ、一つだけ言われたことがある」

「……言われたこと?」

「今後、俺やリミナは前線で戦うことになる……それに際し共に戦う人物を、探してくれってさ」

「へえ?」


 少し興味を持ったのか、ノディは俺に目を移した。


「仲間を増やせってこと?」

「そういう言い方もできるな……まあ、なんにせよ試験が終わった後考えることだと思うけど――」

「おまたせ」


 セシルが会話を終え近づく。それにノディは少しばかり嫌な顔をした。


「で、どんな話が聞けたの?」

「……何で近づいただけでそこまで嫌な顔をされなくちゃいけないんだよ」

「さあ?」


 小首を傾げるノディ――あれだな、闘士と騎士というのは水と油だな。

 セシルは物申したい様子だったが、ここで喧嘩になると迷惑になると思ったか、表情を戻し俺達に語り始めた。


「とりあえず、一軒目で当たりを引いた」

「え?」

「騎士やら闘士やら……無節操に色々と話を聞きに来る人物がいるらしい。一ヶ月以上前からの話だそうだ」

「聖剣護衛が終わった直後くらいからってことか?」

「それが関係しているかはわからないけどね……とりあえず、その人物が使っている宿に行ってみよう」

「そんな情報まであるのか?」

「最初は田舎者だと思って闘士達も面白おかしく接していたらしく、使っている宿なんかも興味本位で調べたらしいんだよ」


 それ、本当に田舎者なだけだったらかなり申し訳ないんだが……まあ、怪しいと踏んでいるのだから、信用しよう。


「というわけで今からその場所に赴く」

「了解。ノディ」

「はーい」


 俺の言葉に彼女は立ち上がり、軽く伸びをした。

 セシルを先頭にして外に出る。再び照りつける陽の光を浴び顔をしかめつつ、どうにか歩き出す……そこで、俺は魔族の件をセシル達に話していないと気付いた。


「ああ、そうだ。セシル、ノディ」

「ん? どうした?」

「勇者を迎えに行ったことについて、一つ捕捉がある」


 前置きをして、フォーメルクで起こった件について話し始める。


 その中でふと思った――果たしてこれはシュウ達の件なのか、それとも魔族達の件なのか……もし魔族側だとしたら、さらに相手の目的がわからなくなるだろうな――と。


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