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とある師匠

「どうしたんだ?」


 俺は外で動き回っているメイド達を見て、呟く。

 彼女達は玄関から外へ家具の類を出していた。というかよくよく見ると、その家具のどれもが破損している。屋敷を出た朝は何もなかったはずだが……?


「悪魔の襲撃でしょうか」


 不安げにリミナは呟く……が、俺は首を左右に振った。


「それだと騒動になっているはずだし、メイドさん達だって逃げているはずだよ」

「あ、それもそうですね」

「どちらにせよ、事情は訊かないといけないな」


 すぐさま屋敷へ歩き出す……途中、玄関前でセシルとバッタリ出くわした。


「あ、セシ――」


 名を呼ぼうとして、気付く。彼は黒い貴族服を着ているのだが、それがずいぶんとボロボロになっていた。


「どう、したんだ?」

「嵐が過ぎ去った後で良かったね」


 俺にそんなことを言う……意味がわからず首を傾げる。


「嵐……?」

「ああ、ごめん。えっと、客人が来たんだ」

「客? それでこんな有様?」

「ああ。どうもリミナさんを訪ねに来たらしい」


 ――その言葉で俺はリミナを見た。すると、何かを察したらしい彼女は背筋をピンと伸ばした。


「あの……もしかして女性で、ぐでんぐでんに酔っぱらっていませんでしたか?」

「ああ、息が臭くて顔を真っ赤にしていたよ」

「それで、私を訪ねに来て魔法を放ったと……」

「そうだ」

「誰なんだ?」


 俺が問い掛けると、リミナは俺とセシルを見回しつつ、ボソリと言った。


「……私の師匠です」

「師匠!?」

「といっても、私が勝手にそう呼んでいるだけで、直接教えを受けていたわけではありません。その方は一時的に故郷に滞在して、魔法のまの字も知らなかった幼少の私に色々と話をしてくれた……言わば、魔法使いとなるきっかけを与えて下さった方です」


 そこまで語ると、リミナは苦笑する。


「けど、その……酒癖が恐ろしく悪く、事あるごとに騒動を起こしていましたが」

「だろうね……で、その師匠が君のことを聞きつけてここに?」

「おそらく、試験を担当する者として呼ばれたのでしょう」

「有名なのか?」


 俺が問うと、リミナは頷いた。


「勇者様はご存じないと思いますが……『流星の魔女』と聞けば、誰でも――」

「流星!?」


 セシルが声を上げた。お、どうやら知っている様子。


「あの人が……無詠唱魔法の達人である、ロサナ?」

「はい、そうです」

「そう、なのか……けど、普段の素行が悪いのはマイナス点だな――」

「自覚はしているわよー」


 と、そこで女性の声。方向は左で目を移すと、灰色旅装姿の女性が一人。

 夕焼けを思わせるオレンジ色の髪に、金色の瞳。加え、顔立ちは非常にはっきりとしていて、鼻が結構高い。


 年齢は二十代半ばから後半といったところだが……リミナが幼少の頃活動していたとなると、見た目より年齢はずっと上かもしれない。


「で……リミナちゃん、久しぶりね」

「はい、ロサナさん、お久しぶりです」


 リミナは満面の笑みにより応じる。けれど相手――ロサナは周囲を見回し、屋敷の主であるセシルに告げた。


「あー、それで……ごめん。弁償するから」

「……弁償、ねえ」


 セシルは半眼でロサナを睨みつつ、一方向を指差す。そこには、砕けた壺が一つ。


「あれとか、金貨二十枚くらいする高級品なんだけど」

「弁償するから」

「金は持っているの?」

「当然よ」


 なぜか胸を張りつつ、彼女……怪しいが、ここは信用するしかないだろうな。


「何なら、今からでも払ってみせましょうか」

「なぜ誇らしげに語るのか……まあいいや。被害額がわかったら請求書を送ることにするよ。どうせ試験が終わるまではここにいるんだろう?」

「そうね」


 あっさりと頷くロサナ。ならばとセシルは頷いた。


「請求の件は後でナーゲンさんに頼んでおくよ……で、酔いも醒めたみたいだし」


 そこで彼はリミナに首を向ける。


「再会ということで、話でもしたらどう? お茶を持っていくようベニタさんに伝えておくよ」

「ありがとうございます……ところで、ノディさんは?」

「訓練に行っているよ。今日は午前中で切り上げるつもりらしいから、そろそろ帰って来るんじゃないかな――」

「えっ!? 何コレ!?」


 言っている傍から、ノディが帰ってきたようだ。


「しゅ、襲撃……!?」

「リミナ、とりあえずここは任せて部屋に」

「あ、はい、そうですね」

「ん?」


 ロサナはこちらに目を向け、訝しげな視線を送る。けれど詮索するようなこともなく、リミナの案内に従い、歩き出した。






 さすがにメイド達が動き回っている様を見て放置というわけにもいかず、俺は家具を運ぶのを手伝う。そして事情を聞いたノディも暑い中、一緒になって作業した。


「流星の魔女、かあ」


 最後の椅子を運び終えた後、ノディはふいに呟いた。俺は動き回ったことにより生じた首筋の汗を袖で拭いながら、彼女に問い掛ける。


「ノディも知っているのか?」

「うん。結構有名人だよ。国から国へと渡って活動する……さしずめ、流離の魔法使いといったところかな」

「こんな破天荒な人だとは思わなかったけどね」


 セシルは壊れた家具や品々を見ながら、深いため息をついた。


「被害金額は……ざっと見積もって、金貨百枚くらいかな」

「百……!? それはいくらなんでも、払えないんじゃないか?」


 驚愕しつつ俺が問うと、セシルは「どうだろう」と言う。


「あの人クラスとなると報酬もよさそうだしなあ……まあ、この辺りは交渉次第だな。ところでレン、勇者を迎えに行ったという話は聞いているんだけど……当人達はどうしたんだい?」

「観光しているよ。宿もあちらが勝手に手配した」

「僕の屋敷に住まわせてもいいのに」

「提案はしてみたけど、迷惑は掛けられないということで断られた。ナーゲンさんにそのことを伝えたら、費用は国が持つよう動くみたいだし、問題ないよ」


 そう言いつつ、俺は壊れた品々を眺める。


「……この調子だと、屋敷に招いても十分なもてなしはできなかったかもしれないな」

「かもね」


 セシルが淡泊に返答した……その時、門に人影が現れる。


「おーい、セシル……って、何だこれ?」


 マクロイドだった。見慣れた戦士風の格好ではなく、珍しいことに黒い貴族服姿。着なれているのかあまり違和感もないのだが、俺にとっては新鮮に映る。

 視線を注いでいると彼は近づき、セシルに話し掛けた。


「おい、どうしたんだ? とうとうノディと大喧嘩でもしたのか?」

「仮にしたとしても、こんな破壊されるまでにはならないよ。一瞬で僕が勝利する」

「お、聞き捨てならない言葉。やるの?」

「何だよ」

「おうおう、いつもの様子で安心した」


 マクロイドは面白おかしく二人のやりとりを眺める。


「仲良いよな、相変わらず」

「良くないよ」

「良くない!」


 同時に声を上げるセシルとノディ。タイミングとかを考えると、それなりに相性がよさそうなものだが――そこを言及すると睨まれてしまうので、喋らないけど。


「えっと、この惨状は気にしなくてもいいです。それで、どうしたんですか?」


 俺は話を進めるべくマクロイドに問い掛ける。


「ん? そうか……? 俺としては気になって仕方がないんだが」

「……先にマクロイドさんの要件からどうぞ」

「そうか。おい二人とも、いつまで睨み合っているんだよ」


 指摘すると、セシルとノディは火花散らす視線の交錯をやめた。


「まったく、これからお前らで仕事をするというのに、先が思いやられるな」

「……仕事?」


 俺が聞き返すと、マクロイドは「ああ」と答え、


「どうも、城のことなんかを調べ回っている奴がいるらしい。俺達は忙しいから、その調査をセシル達に頼もうと思ってな」


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