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試験でやるべきこと

「魔族が出没、か……」


 翌日――ベルファトラスの一番上にある闘技場。その客室で俺達はナーゲンと話し合っている。

 この場にいるのは俺とリミナの二人だけ。勇者アキとレックスについては、都市で観光をしている。


 あの後、俺達は早々に聞き込みを切り上げた。というか短時間で情報が集まってしまったため、中断したと言った方がいい。

 港へ向かったリミナ達も船員から情報を手に入れていた。色んな街を回る彼らも魔族云々の噂を聞いており、そうした現象が大陸各地で起きているのは間違いなさそうだった。


 そして、フォーメルク周辺では起こっていない――俺達が原因で魔族が出現したという可能性が高いと考え、闘士達と多少話し合い、その日は様子を見ることにして――翌朝の今日、転移魔法で帰って来た。


「モンスターや悪魔が出没している、という話は私も多少耳に入れていたよ。けど、魔族がその場に現れるというのは予想外だな」

「その魔族達は、シュウさん達と関係があるというわけではなさそうですけど」


 俺が言及すると、ナーゲンは「ふむ」と言いつつ口元に手を当てた。


「そうか……シュウ達とは関係なく、魔族が行動を起こし始めた……そして、シュウ達を邪険に扱う口ぶりからすると、良い感情は持っていそうにないな」

「魔族側はシュウさん達と敵対しているのかもしれませんね」


 ここで言及したのはリミナ。俺とナーゲンは彼女に視線を向ける。


「魔族という存在は、私達の目から見れば全部同じに見えますけど……一枚岩ではないでしょうし」

「彼らも魔王復活を狙っており、人間に手で行われるのは駄目だ、などと考えているのかもしれないね」


 そこでナーゲンが発言。


「あるいは、魔王復活そのものを止めにかかっているのかもしれない……」

「魔王復活を? なぜ?」


 俺が問うと、ナーゲンは一瞥した後口を開いた。


「私も魔族の本拠地である魔界を見たことがないので、想像しかできないが……魔王を失った後、おそらく後継者を選定し、今は新たな魔王が魔族を率いていると考えられる……現魔王から見て先代の魔王を復活させることは、自身の権威を失うことを意味する。それは好ましくないと思っていても不思議じゃない」

「なるほど、現在の魔王が先代を復活させないよう動いていると」


 確かにそれなら魔族が動いているのも納得できる。けれど――


「一番の疑問は、斥候みたいな悪魔を出して、何をしようとしているのか……俺達を監視するだけではなさそうですし」

「そこまではわからないな。けど、穏やかな話じゃないのは間違いないだろうね」


 ナーゲンはそう告げると、ため息を漏らした。


「ひとまず言えることは……シュウ達と敵対しているからといって、私達の味方ではないという事。もし遭遇したら戦わなければならないだろう」

「壁を超える技術じゃなければ、対抗できませんよね?」


 問い掛けたのはリミナ。ナーゲンは「どうだろう」と呟きつつ、回答を示す。


「あれは高位の魔族に対するものだからな……君達が出会った魔族に対し必要なのかは、実際に交戦してみないとわからない。けれど現魔王が表に出てくるとしたなら、いずれ高位魔族と戦うことになるだろうね」

「心しておきます」


 俺が宣言すると、彼は「わかった」と答えた。


「さて……報告がずいぶんと長くなってしまったな。そろそろ本題に入りたいのだが、いいかい? それとも昼の時間だし、食事でもするかい?」

「いえ、このまま聞きます」


 俺の返答を聞くと、ナーゲンは「悪いね」と答え改めて口を開いた。


「では……話しておきたいのは、試験の概要だ。といっても、以前君達が参加した勇者の証争奪戦のことを思い出してもらいたい。あれと似たようなことをやるだけだ」


 争奪戦――聞くと、リミナが小さく手を上げた。


「あの戦いでは英雄ザンウィスが作り上げた悪魔やモンスターと戦いました。今回は?」

「フロディアが疑似的なモンスターなどを作り出す予定だよ。ザンウィスがしてみせたように、参加者がやられた場合の救済措置については……まあ、それなりに対応はするらしい。また、今回の場合は審査員を用意させてもらった」

「審査員?」

「今回の試験、役割は二つある。疑似的なモンスターと共に試験者と戦う者。そしてそれを見分し、戦列に加えるか判断する者。無論、審査員だからといって戦わないというわけではないよ」

「俺達の役目は……」

「戦う側だ」


 だろうな。というか「見分してくれ」と言われても自信もないし困る――


「そこで、一つ頼みたいことがある」

「頼み?」


 聞き返す俺。ナーゲンは小さく頷き、改めて俺達に要求した。


「二人にはもう一つやってもらいたいことがある……簡単に言えば、君達と共に戦う人物を選定しておいて欲しい」

「共に戦う……?」

「シュウ達は悪魔を多量に生み出すことができる。そしてこちらは国が連携し兵力は確保できるが……それだけで勝てないのは、先にある魔王との戦いやシュウとの戦闘で実証済みだ。高位魔族以上と戦える面々を、少しでも増やさなければならない。結局の所、量よりも質ということになる」

「それは理解できます」

「そして、レン君とリミナさんにはいずれ前線に立って戦ってもらう可能性が高い……けど、二人だけでは心もとない。本来ならば私を始め現世代の戦士達の誰かが共に戦うべきなのだが……」

「難しい、と」

「ああ。シュウ達がどのような策を施してくるかわからない以上、私達は人々を守るために走り回らないといけないだろう。だから二人には、私達以外……今回の試験参加者の中で、共に戦ってくれる人物を探して欲しい」

「人数は?」

「最低でも一人……多くて三人といったところか。最終的に四、五人になってくれるとありがたいな」


 四人、と聞くとゲームのパーティーみたいな感じかと思った。人数が多いことで危険な戦局となっても切り抜けられる。けれど、十人とかいう大所帯となれば動きにくくて仕方がない。彼の言う人数は、身軽に動けるギリギリの人数といったところだろうか。


「試験参加者なら、誰でも良いんですか?」


 俺が確認すると、ナーゲンは大きく頷いた。


「構わないよ。セシルと組んでもらってもいい」


 ――何も言っていないのに彼について言及する。確かに俺も、セシルが選び出すメンバー最有力候補だとは思ったけど。

 屋敷に住まわせてもらって、なおかつ交流がある……さすがに見ず知らずの人に「よろしく」と言って、すぐ連携するというのは難しいだろう。なら、今まで出会ってきた人物達の中で選定した方が、組みやすいし連携も取りやすい。


「これで話は終わりだ。試験までは期間もある。それまで訓練を欠かさないように」


 そしてナーゲンはまとめにかかる。俺達は同時に頷き、部屋を退出した。






「メンバー集めか……」


 屋敷への帰り道、俺はリミナと並んで歩きつつ呟く。


「リミナ、候補はいる?」

「勇者様も思っているでしょうけど、セシルさんが有力ですね」

「だろうな……とすると後は多くても二人か」

「はい。そして選定するのは試験者の中なので……必然的に戦士や闘士中心となりますね」


 純粋な魔法使いというのは難しいというわけだ。まあ、黒騎士クラスのレベルと遭遇する可能性が高いから、護身として接近戦ができる面々を集めた方が無難だろう。


「後候補に入れるとしたら……アキさんかな」

「アキさん、ですか?」

「同じ異世界来訪者として波長が合うだろうし、何より間近で戦闘を見て頼もしいと思った」

「それならレックスさんもセットでしょうね」

「だろうな」


 そうすると、もうメンバーは確定したようなものか……いや、結論を出すのは早計だろう。


「まあ、これは試験が終わった後にでも考えるとして……ひとまず、今日からは訓練再開だな」

「そうですね」


 昼食をとったら訓練場に向かうとしよう……そう思いつつセシルの屋敷に辿り着き、

 何やらメイド達がせわしなく動いている――それが、外から見てもわかった。


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