表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
283/596

魔族の謎

「……やれやれ、難問ばかりが増えていくわね」


 魔族達が姿を消した後、アキが嘆息を交え呟き始める。


「言葉からすると、レン君が追う案件とは関係なさそうね」

「そう、だな」

「……ずいぶんとまあ、厄介事に首を突っ込んでいるようだな」


 俺達をここまで案内した闘士が、口を開く。


「追っているのは、英雄シュウを操るアークシェイドの残党というわけか……」

「そこは、深く追求しない方がいいですよ」


 俺は興味津々な闘士に釘を刺す。すると彼は「そうだな」と応じた。


「分不相応な情報の取得は早死にするな……聞かなかったことにしよう」

「お願いします」


 闘士達に告げると、アキへ目を向ける。


「で、これからどうする?」

「ひとまず街へ戻りましょうか。ここの悪魔が消えたのは間違いないけど、街の方で異変がないかの確認も必要だし――」






 俺達は闘士達と共に一度街へと戻った。そして交戦する間、こちらでは何事もなかったようで、ひとまず安堵した。


「君達にはずいぶんと世話になった。何か礼をしたいのだが……」


 闘士が俺達へ話し出す。けれどこちらは首を左右に振った。


「いえ、お気持ちだけで十分です」

「そうか……では、これからの戦い、幸あらんことを祈っている」


 最後に闘士はそう締めくくり、俺達から離れて行った。


「……さて、疑問がいくつもあるわね」


 見送る間に、突如アキが口元に手を当てた。


「もう一度言うけど、先ほどの魔族達は口調から、英雄シュウ達と関係ありそうにないわね」

「演技をしているような素振りも無かったし、間違いないと思うけど……拝見しておきたくてと言っていたから、俺達がいたから攻撃を仕掛けた、という雰囲気ではあるような気がする」

「そうね。で、心当たりはあるの?」

「……少なくとも、俺はない」


 彼女に応じつつ、思案し始める。

 勇者レンが何かをしでかした、という可能性もゼロではないが確かめる術はない……ともかく、シュウ達の部下である可能性は、ゼロに近いと思っていいだろう。


 さらに言えばあの魔族――ファイデンという名の女の子魔族からのヒントを考慮した場合、英雄シュウと敵対している可能性も十分ある。

 魔族は何の目的で動いているのだろうか……答えは出ないけれど、俺達に攻撃をしてきたのも事実なのは間違いなく――


「私達が狙いである可能性がある以上、すぐにでもここを離れるべきかもしれませんね」


 今度はリミナが提案。確かに狙われているとすれば、俺達が消えることでこの場所の平穏が保たれる。


「なら、早速行きましょうか?」


 次いでアキがリミナに問う。


「転移魔法を使うのなら、余裕でしょう?」

「はい……勇者様、どうしますか?」

「すぐに帰るというのもアリだとは思うけど……一応、街の中で聞き込みでもした方がいいんじゃないかな。目に見える被害以外に、魔族が街の中で何かしている可能性もあるし」

「そうね。それじゃあ今日一日くらいは様子を見ましょうか」


 アキが提案すると、俺とリミナは同時に頷く。すると、


「ごめんなさい、なんだか私が仕切るような形になってしまって」


 彼女は苦笑し謝った。


「俺達は別に不快と思ってはいないから……というか、本来は俺達が色々と考えるべきなのに」

「私の性に合っていることだから気にしなくてもいいわよ。それじゃあ」


 と、アキは仕切り直したばかりに俺達へ告げた。


「聞き込みを始めましょうか。とりあえず二手に分かれるとして……ただ、私達はこの大陸の地理とかわからないし、地名が出てきても首を傾げる他ない。だから、私達とあなた達でそれぞれペアを組みたいのだけど」

「構わないよ。リミナもそれでいいよな?」

「はい」

「なら、リミナさんには申し訳ないけど、レックスと組んでくれる? 男女ペアの方が人も話しやすいだろうし……けど、ほら」


 アキはレックスを一瞥する。無言で佇む彼は、聞き込みなんてできそうにない。


「わかりました」


 リミナは異を介したか笑みを浮かべながら承諾。アキは手を合わせつつ「お願い」と言うと、


「レン君、行きましょうか」

「ああ。俺達はとりあえず街で聞き込みをしよう」

「なら私達が港を回ります」


 リミナは言うと、小さく一礼した後レックスと共に歩き出した。それを見送った後、俺とアキは行動を開始する。


「いい従士さんね」


 歩き出してすぐ、アキが口を開く。俺はそれに深く頷き、


「最初記憶喪失と誤魔化して活動していたんだけど……そこから、ずっと頼りっぱなしだ」

「そう。ちなみに、異世界出身であると話したのはなぜ?」

「……シュウの、計略だ」


 そう言って、少しばかり説明を加える――と、アキの顔は露骨に険しくなった。


「英雄の、策か……そういうのを聞いちゃうと、胸がムカムカしてくるわね」

「で、その経緯でリミナの治療を行い、現在彼女はドラゴンの血を保有している」

「ドラゴンの力があるからこそ、シュウ達と戦えるようになった、とでも言いたいの?」

「……そうかも、しれない」

「皮肉なものね」


 アキは憮然とした面持ちで語った。その時、俺は昨日訪れた魔法道具の店の前を通りがかる。


「……ここで聞き込みをしよう」

「いいわよ」


 何の気なしに俺は入店。相変わらず目の前には店主がいて――


「いらっしゃい……って、昨日の御仁か。ん? 昨日とは別の女性を連れているな?」

「え、あ……」


 しまった。その辺のこと特に考えずに入店してしまった。何もやましいことはないのだが、このシチュエーションでは疑われても仕方ない。


「ああ、彼女は今日宿にいるわよ。私が無理に言って、彼に案内してもらっているの」


 さっぱりした口調で話すアキ。それがひどく自然であったためか、店主は「そうか」と答え、


「で、勇者さんは昨日に引き続き彼女に何か贈るのか?」

「え、えっと……」

「へえ? どんな物を贈ったの?」


 興味津々に尋ねてくるアキ。ヤバイ、これは墓穴を掘った。

 咄嗟に誤魔化そうとしたのだが、今度は茶化すような主人の声が生じ――値段に、アキは口元に手を当てた。


「結構な金額じゃない……へえ、そう」


 そして俺へと微笑む。含み笑いに近いものだった。


「……それで、店主」


 俺はこのまま話しこんでいてはまずいと思いつつ、本来の目的を告げる。


「ここ数日、モンスターや悪魔が出たとか……そういう噂ってありませんか?」

「モンスターや悪魔? そうだな……そういった変わった噂が多い気がするな」

「変わった噂?」

「悪魔を見かけたとかそういう話だ……そういえば、警備の闘士達が何やら騒いでいたな。何かあったのかもしれんな」


 ――どうやら一軒目で当たりのようだ。ラウニイが小耳に挟んだように、そこかしこに噂が存在しているらしい。


「わかりました。それで、噂はこの街周辺の話ですか?」

「いや、旅人とかから聞いた話だ。周辺は……聞いたことがないな」

「そうですか。ありがとうございます」

「どういたしまして。今後とも頼むよ」


 笑っている店主に一礼しつつ、俺は店を後にした。


「後は……街の人に訊いてみて、確かめるべきか」

「そうね」


 アキは端的に同意しつつ、口の端を歪めて笑う。


「ねえ、リミナさんに贈った物についてだけど――」

「さあ、行こう」


 俺は彼女の言を無視するように歩き出す。けれど、アキは先ほどのことを俺に追究し続ける。

 どうやら、こうしたやり取りが延々と続くことになりそうだ……俺は心の底から厄介だと思いつつ、どこか現実逃避するように街で聞き込みを始めた――


次回から新しい章となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ