思わぬ再開
ナーゲンがまず話したのは、他大陸との交流について。
この世界には他にも人が住む大陸が存在している……そして現在、いくつかの港を介して貿易などはしているそうだ。
そして、この大陸にはそれなりに渡航者が訪れるとの事。その目的は、英雄を一目見たいという理由や、魔族の遺跡を調査したいといった理由かららしい。
「魔王が襲来した時、この大陸以外も標的となっていたし、実際魔王が現れたケースもあった」
そう話すナーゲンに、俺は黙って耳を傾ける。
「だが、主戦場は今私達がいる大陸だ……だからこの土地には遺跡がたくさんあるし、壁を超える技術を習得した、魔族と対抗できる者も多い」
「今回やってくる人達は、そうした技術を持っているんですか?」
「らしいよ。実力の程を詳しく聞いているわけではないけれど……戦えるかどうかを、選抜試験で確認する」
答えたナーゲンは少し間を置き、改めて話し出す。
「けれど、戦闘経験だけを見れば君達より豊富かもしれない……何せ、戦乱のある大陸からの来訪者だからね」
「戦乱?」
聞き返すと、ナーゲンは深く頷く。
「この大陸は現在、治安がそれなりに良いとされている……魔王との戦いが激しく色んな人達が共に戦い、国々が協調していることも理由一つ。他には悪魔や魔族が長く存在していたため、国同士が協力せざるを得なかったという見解もある……で、今回の人達のいる大陸は、魔王が消え去った後魔物や悪魔も少なくなり、結果的に人間同士の戦が絶えないようになってしまった」
どこか自嘲的に笑うナーゲン。脅威がなくなれば人間同士が争うという事実を、憂慮している風にも見える。
「ルファイズのように軍事的に強固な国が滅亡してしまったというのも大きいだろうね……とにかく、現在も断続的に戦をしているような場所からの勇者だ。レン君達も学ぶところはあるかと思う」
「なるほど……それで『星渡り』の人物についての詳細は?」
「ごめん、そこは詳しく知らないんだ。相手側の国と話し合ったのはルファイズ王国なんだけど……その折、擬態魔法については伝える必要があった。で、異世界からやってきた人物が必要と言ったら、彼らは思い当たる節があったらしくすんなり相手は受け入れ、今回招集されることになった」
「……それ、相手側の大陸は大丈夫なんですか? 貴重な戦力が減ることになりますけど」
「大丈夫だよ。シュウ達は他大陸まで向かわないだろうし」
断定するナーゲン。俺はそれに首を傾げ、質問する。
「根拠は?」
「……話していなかったのだけれど、君達が訓練する間に二度、シュウ達による襲撃事件があった。被害はどうにか防げたのだけれど、どちらも非常に純度の高い魔石を狙ったものだ」
ここで新情報。俺は内心驚きつつ、彼の言葉を待つ。
「こうした事例から、彼らは魔力を大いに含む物を集めているのでは、と結論付けた。その目的は魔王復活のためだろう。で、今回の大陸は人間同士の争いでそうした武具などが使用されてきたため、彼らにとってみればめぼしい物がなかったりする。一方この大陸だと手付かずの遺跡や、主戦場であったが故に開発された強力な武具が、平和であったため使われずに残っているケースが多い」
「強力な道具なんかを手に入れるには、ここにいた方が良いというわけですか」
「そうだ。無論、だからといって他の大陸が狙われないと断言することはできないが……擬態魔法対策については開発した物を提供もしたから、おそらく大丈夫だろう」
楽観的に語った後、ナーゲンは勇者に関する話に戻す。
「それで『星渡り』の勇者についてだけど……向こうの大陸でそれなりに活躍しているとの話だ。力量は試験の時見るとして……二人には、出迎えをやって欲しい」
「経緯がわかれば納得できますね……わかりました」
俺は二つ返事で承諾。次いでリミナを見ると、しっかりと頷きナーゲンに問い掛ける。
「明日出発ということでいいんですか?」
「ああ。馬を使って早朝から出れば、一日と少しで到着できる。途中関所なんかがあるけど、通行証なんかは今日中に渡しておくから。あ、それと……」
ナーゲンは続いて、思い出したかのように声を上げた。
「リミナさん、ベルファトラスでは転移魔法が使えるし、出迎えたらそれを使って戻るようお願いできないかな?」
「構いませんよ。これから準備します」
「助かる……で、二人は明日の準備もあるだろうし、今日の訓練は休みということで」
「俺達は試験準備とかする必要はないんですか?」
気になって尋ねてみると、ナーゲンは「大丈夫」と明瞭に答えた。
「その辺りはこちらで準備するから……あ、でもそうだな。もし手伝ってくれるなら、これから訓練場に置いてある武具なんかを別所に移す予定なんだ。その手伝いをしてくれると助かるよ」
その後リミナは目的を達成するべく先んじて闘技場を出た。そして俺はナーゲンと共に武具の移送作業に入る。
といってもやることは馬車に訓練場に置かれた武具を積み込むだけ……ナーゲン達は使えるのかどうかを判断するために闘技場に保管していたらしいのだが、とうとう闘技場にある倉庫で入りきらなくなり、移送することにしたらしい。
馬車に積み込む間、移動中に盗られはしないだろうかと不安になりつつ……ナーゲンやマクロイドが護衛すると知り、杞憂だと思ったりもした。
で、時間としては真昼を少し越えたぐらいに終わった。人手が俺やナーゲンを含め少数であったことや、途中早い昼食をとったことなんかがここまで時間のかかった原因だ。
「レン君、ありがとう。後は私達でやるから」
ナーゲンに言われ、俺はこの場で解散となった。そこで何気なく、最終確認をするナーゲン達や周囲を見回す。
一つ気付いたことがあった。いつのまにか馬車の横に金髪の女性が立っていて……顔を確認した時、驚いた。
「ラウニイさん!?」
相変わらず黒いローブを着た――アーガスト王国で王子の護衛として共に行動した、ラウニイその人であった。
声に彼女は俺に視線を送り――手を振りながら近寄って来る。
「久しぶり、レン君……話は多少なりとも聞いているわ。だいぶ出世したみたいで」
「出世って……言うんでしょうか? これ」
「当然よ。英雄アレスの剣を持つ勇者なわけだし」
その返答に俺は苦笑。その間にラウニイは周囲に目を向け、
「リミナさんは?」
「明日ベルファトラスを離れるので、その準備を」
「へえ、そうなの」
「で、ラウニイさんはなぜここに?」
「フェディウス王子からの要望で、色々と道具を集めろと言われ、納入しに来たのよ。馬車への積み込みも確認したし、私はこれで終わり」
「遠路はるばるご苦労様です」
「大した労じゃないわ。それにどうせ、ベルファトラスに来るつもりだったし」
例の旅行癖のようだ。
「今回はラウニイさんお一人ですか?」
「ええ。ベルファトラスにあなた達がいるとわかっていたなら、クラリスも連れて来たのに」
「彼女はまだアーガスト王国に?」
「ええ。騎士ルファーツと今回の件で色々と訓練しているみたい」
大変そうだ……思いつつ、俺は思いついた質問をぶつけてみる。
「そういえば、商売の方はどうですか?」
「上々ね。色々と騒動が起こっているせいで、かなり需要は増えたし」
「こういうケースだと、ラウニイさんみたいな方は狂喜乱舞でしょうね」
馬車に積まれた武具を見ながら俺は言う。すると、
「事件だけが原因じゃないみたいだけど」
彼女の声が、多少険しさを帯びた。
「色々と騒動が起こっているみたい……今の所、あくまで噂レベルだけど」
「それ、俺達の件と関係が?」
「どうでしょうね……そうね、レン君なら情報を聞いてピンと来るかもしれないし……どこかでお茶でもしながら話さない? 無論、レン君のおごりで」
何が無論なのだろう……けどまあ、多少ながら気になるのも事実。よって、俺は同意の言葉を告げた。
「いいですよ」
「なら、店に行きましょう。丁度行きたい所があったのよ――」