表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/596

二つの礼

 怪我人を地上に出した時、太陽は中天を越えていた。戦闘など緊張続きだったので時間間隔が喪失していたが、結構な時間潜っていたようだ。


「大丈夫ですか?」


 遺跡を出るとメストが出迎えてくれた。俺達は一斉に頷いた後、邪魔にならないよう入り口横に移動する。


「メストさん、これを」


 リミナが渡されたメモを差し出す。彼は受け取り確認した後――驚愕した。


「攻略……したんですか」

「ええ、まあ」


 俺が応じると、メストはメモとこちらの顔を交互に見やり、


「少し待っていてください」


 テントの方へ走り去った。


「大丈夫そうだな」


 ギアが言う。彼は肩を軽く回しつつ、周辺の様子を眺めていた。


「ひとまず死者がいなくて良かったな」

「まったくだよ」


 同意する。一番危なかった勇者グランドの戦闘も、犠牲者は出さすに済んだ。あとは怪我人の容体が気になったが、様子を確認したリミナが「大丈夫です」と言っていたから、大事には至らないだろう。


「で、ギア。俺達は帰るのか?」


 そこで訊いてみる。ギアは「うーん」と唸りつつも、同意する様な調子で応じた。


「そうだなぁ……グランドの戦っていた先はゴールらしいし、ここでできることはないだろうな」


 ――ギアの言う通り、最後に戦ったマジックゴーレムの奥は、俺達が隠し通路から入った絨毯の道だった。倒れている人達を収容している間に、アーガスト王国の学者達が逆走してきて、それが判明した。


「メストさんの話を聞いて、よさそうなら帰るか」

「わかった」


 俺は了承する――と、よくよく考えると半日少ししか滞在していない。こんなんでいいのかと思ったりする。


 やがてメストが戻ってくる。若干興奮気味であり、告げられる言葉も予想できた。


「皆さん、ありがとうございました」


 開口一番、彼から礼が発せられた。


「どうやら今回は私達が先行した様子……ご協力、ありがとうございました。それと報酬に関してですが……」


 メストは告げるとクルクルと巻かれた書状を俺に差し出した。


「こちらをギルドに見せて頂ければ、支払われることとなります」

「わかりました」


 代表して俺が受け取る。そして、


「俺達は、今後どうすれば?」


 彼に質問した。


「遺跡はひとまず、最深部まで到達したようですが」

「そこについてはまだ協議があるのでなんとも……ただ、内部にモンスターがいないとわかれば、ご協力いただくこともないと思います」

「なら、その辺がわかるまで待機でいいですか?」

「はい」


 了承するメスト。俺は頷くとリミナとギアに視線をやった。


「じゃあ、ひとまずテントに――」


 言いかけて、遺跡の入口から視線を向けている人物が一人。言葉を止めると、リミナ達も気付いたらしく振り返る。


「何か用なのか?」


 最初ギアが呟いた。その人物は勇者グランド。遠目からもただならぬ雰囲気を感じられ、礼を述べようなどと考えていないのはわかる。


「……きっと、さっきの戦いについてだろうな」

「でしょうね」


 俺の意見にリミナが賛同。


「ギア、先に戻っていてくれ。俺達で話をする」

「いいぜ」


 ギアは承諾した後、メストの案内により一人去っていく。そして俺とリミナはグランドへ近づき、話し掛けた。


「何か用ですか?」


 まず俺が声を出す。けれどグランドは沈黙。こちらも無言となり、しばらくの間嫌な空気が流れる。

 それを脱したのは、重い口を開いたグランド。


「お前達は……何者だ?」


 疑問。正とも負ともつかない声。


「先の技……どう見ても一傭兵の力ではない。あれは……」

「どうする?」


 グランドの声を遮り、俺はリミナに尋ねた。彼女は顎に手をやりグランドを見据える。


「他言無用であれば、よろしいのではないでしょうか」

「……そうだな」


 そもそも目立たないよう行動しているのは、俺の個人的な理由からだ。なので、話をこじらせないためにも説明したほうがいいだろう。


「話しても構いませんが……秘密にお願いします。目立ちたくないので」

「いいだろう」


 頷く彼。そこで一呼吸置いて、ゆっくりと語り始める。


「そちらも聞き覚えがあるかもしれませんが……俺の名は、レン。巷で噂されている、勇者レンです」


 その言葉に――グランドは驚嘆の色を見せる。


「諸事情があって、人前に顔を出したくないんです。だからできるだけ穏便に済ませようと行動しています」

「私と出会った時も、そのようにしていたと?」

「はい」


 あっさり答えると、グランドは目を細めた。


「……英雄アレスの真似事をしているとことから、生意気なのかと想像していたが、ずいぶんと腰の低い人物だな」

「真似事?」

「各地を旅して回り、悪魔やモンスターを倒し続ける……英雄アレスも戦争前はそうして武勲を重ねただろう?」


 ――俺はこういう風に言い出す人間がいるから、目立たないようにしていた一面もあったのだろうと、半ば察せられた。確かに目的などを考えれば、顔を出すことはデメリットだ。


「まあ……俺にも理由がありますから」


 グランドには、そう濁しながら返した。あいにく俺自身が勇者レンでない以上、どこまでも答えは出ない――

 けれど、ふいに最深部で出会った男性を思い出す。勇者レンの行動動機……彼もまた、関係しているのだろうか?


「わかった。詳しいことは聞かない」


 グランドはそこで身を退いた。そして、


「ありがとう、助かった」


 高圧的な雰囲気は喪失し、礼を告げられた。俺は首を左右に振り、返答する。


「当然のことをしたまでです」

「そうか……」


 言うと、彼は身を翻した。


「そちらは、今後どうする?」

「協議で必要ないとわかれば、帰ります」

「……わかった」


 彼はそのまま去った。後姿が肩を落としているように見えたのは、気のせいではないだろう。


「悔しいのでしょうね」


 同じ見解を抱いたらしいリミナが口を挟む。


「勇者という自負がある以上、当然かと思いますが」

「傲岸不遜ばかりではないというわけか」

「国から認可された勇者は結果を残さないといけませんので、称号に胡坐をかいていては駄目なのでしょう」


 彼もまた、色々と事情があるようだ――そんな風に考えると、俺は歎息し、


「テントに戻ろう」



 リミナに言って、歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ