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聖剣の行方

「……逃げた、か」


 誰かが呟いた――それがマクロイドの声であったと気付いた時、後方で倒れ込む音がした。

 振り向いて確認。マクロイドが大の字になって天を仰ぎ、誰に言うわけでもなく口を開いた。


「あー、しんどかった」

「……先ほどまでの空気が台無しだよ」


 苦笑するルルーナ。同時に剣を収め――他の面々も構えを解き始めた。


「まだ敵が来るかもしれないが……フロディア、頼んだ」


 そこでナーゲンが発言。彼はその場に胡坐をかき、ふうと小さく息をつく。


「ようやく戦いは終わった……けど、敵の行動がわからないから、気持ち悪いな」

「どうであれ、彼らに対抗する力を身に着けなければならないのは間違いない」


 フロディアがシュウの立っていた場所を見据えながら語る。俺は心の中で同意し、彼の言葉を待つことにする。


「……ひとまず、私が魔法で退却した騎士達を呼び戻そう。あ、レン君。念の為戻ってきた騎士達の確認だけは頼むよ――」






 ――それから一時間もしない内に騎士達が戻り、怪我をした面々の治療を始めた。その中で、俺とフロディアは陣地の入口付近に立ち騎士の動きを観察する。


 そうしてしばし眺めていると、やがて空が青くなってきた。夜明け――どうやら、想像以上に長く戦っていたらしい。そう思うと体に疲労がずっしりとのしかかる。


「……まずは、お礼を言わなければならないな」


 そんな時、フロディアから声が掛かった。


「君がいなければ今回の戦いは負け、聖剣を奪われていた。場合によってはここにいた騎士や、戦士達も犠牲になっていた」

「いえ……その……もっと、俺が強ければ良かったんですが」

「そう自分を卑下する必要はない」


 彼はぴしゃりと言った後、さらに続ける。


「君はまだ発展途上だ。慌てず一歩ずつ着実に進んでいけばいい。それまでは、私達がフォローを入れる」


 微笑で返答したフロディアは、次に手に握る剣を俺にかざして見せる。

 それは聖剣――ストレージカードから鞘を取り出し、英雄アレスが所持していた姿を完全に取り戻していた。


「無事、聖剣も守り切った。油断はできないが、このまま私は首都へ向かうことにする。君にも、是非来てほしい」

「はい」


 頷く俺。もとよりそのつもりで来たんだから当然――


「そして、国へ今回の件を報告し……君に、聖剣を託すつもりだ」


 続いて、俺が飛びあがるようなセリフを言った。


「え……!? 俺に……!?」

「当然だろう。現状シュウが持っていた魔王の力に対抗する術は、君しか持っていない。首都へ向かい調査はするが、そうした技法を習得するのは多少なりとも時間が掛かるだろう。その間は、確実に彼と戦うことにできる君が持つべきだ」

「魔王と対抗できる技術を皆さんが身に着けたら……」

「誰が聖剣を握るかは、その時点における実力を鑑みて決めればいいさ……そうだな、統一闘技大会があるから、そこで決してもいいかもしれない――」


 と、フロディアは唐突に言葉を止め、俺を見て苦笑した。


「そんなに、出場したくないのかい?」


 ……顔に出てしまったらしい。けれどまた一つ、出場するフラグが立ってしまった。


「いや……その、まあ……厄介事にしかならない気がして」

「君も勇者として、色々大変なんだな」


 告げたフロディアは小さく肩をすくめ――表情を戻し、さらに続ける。


「まあいいさ。どういう風に決定するかは後で決めよう。とにかく、魔王を倒せる力を身に着け、なおかつ聖剣を握る人物が、シュウとの戦いにおける中心人物となるわけだ」


 ――ふと、俺は自分が中心に立てるのかと想像してみた。魔王に対抗できる技術を持っているのは間違いない。けれど、剣の技量的にはまだまだであるのは紛れもなく……正直、難しいと思う。

 だが――どういう形であれ、俺はシュウやラキと関係がある。だから、


「彼らと決着をつけるまでは、俺も戦い続けます」

「ありがとう」


 フロディアは礼を述べ、今度は動き回る騎士達に目を向けた。


「今回の件で、潮目が大きく変わるかもしれない。これまではアークシェイドの残党勢力との戦いだったが、ここからは魔王の力を持つ英雄との戦いとなる。国も今まで以上に警戒するはずだ」

「戦いには、フロディアさん達も加わるんですよね?」

「そうだね。私達がシュウ達と対抗できる人物を探すことも変わりない……けど、シュウが魔王の力を手に入れたという事実は、隠さざるを得ないだろうな」


 ――そんなことを周知すれば大混乱に陥るだろうし、俺も心の底から同意する。


「どういう風に処置するかは国の判断に任せるとしよう……色々と言ったが、私達のやることは変わらない。レン君も、訓練を重ねてもらうだけでいい」

「……俺は、どこで訓練するべきなんでしょうか?」

「聖剣という驚異的な武具がある以上、ルファイズのような軍事大国に滞在すると他の国々が反発するかもしれない……無難に、中立的な立ち位置のベルファトラスにいてもらうことになるだろうね」

「反発、ですか?」

「魔王という存在より、聖剣の政治利用を危惧する人の方が多いだろうから。君はそういう場所から離れた方がいい」


 ああ、そうか……俺は政治なんてよくわからないけど、厄介事になるのだけはしかと理解できたので、深く頷く。


「では、これから首都へ向かい、そこから聖剣を手にベルファトラスに戻るというわけですね」

「そうだ。剣の訓練に関してはナーゲンが一番だろう。こちらもできる限り君のことをバックアップする。その辺りは、心配しなくていい」


 心強い言葉――けど、ルルーナやカインが行った地獄の特訓がやってくるかもしれないと思うと、ちょっとだけ苦笑いが零れてしまう。

 そんな様子に気付いたのかフロディアは小さく笑い……ふと、視線を巡らせた。俺もそちらに目を移し、


「大丈夫なのか?」


 声を出す。横から近づいてくる……リミナの姿。


「はい、最後の攻撃もある程度防いだので」

「ドラゴンの力による要因が大きそうだな」


 フロディアが言うと、リミナは「そうかもしれません」と答え、


「勇者様……これから、首都まで行くわけですよね?」

「そうだが……何かあるのか?」

「いえ、そこから聖剣はどうするのかと思いまして」

「おそらく、彼が持つことになるよ」


 フロディアが告げるとリミナは「そうですか」と応じ、


「ところで、英雄リデスの剣はどうするんですか?」

「……アレスの剣を手にしたら、必要なくなるよな。けど、聖剣をずっと持ってままでいるのかどうか、現状ではわからないし」

「その剣もまた強力なのだから、誰かに貸与でもすればいいんじゃないかな」


 そこへ、また別の声。視線を転じると、正面にナーゲンがいた。


「無論、信用における人に限定されるけど」

「……ナーゲンさん、使いたいんですか?」

「そうだね」


 にべもなく頷くナーゲン。俺はそれもありかなどと思いつつ、周囲を見回す。


 夜明けが迫り、周囲はずいぶんと明るくなっていた。思えば徹夜をしている状況なのだが、疲労はあれど睡魔はほとんどない。先ほどの戦闘で気持ちが高ぶったままなのかもしれない。

 そういえば、移動方法は馬に乗るのか馬車なのか……考えていると、どこからか車輪の音。その所在を確認しようとした時、


「援軍だ」


 フロディアが言った。


「朝になったらここに来るよう伝えていた……私が出迎えに行こう。レン君も裏切者がいないか確認のため、同行してもらいたい」

「はい」


 返事をした後、フロディアが歩き出す。俺はそれに追随し、さらにリミナも後を追い……陣地の外に出て、向かってくる馬車を視界に捉えた。


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