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二つの力

 彼女が声を出した後、立ち上がる音が耳に入った。それに対しシュウは感嘆の声を発した。


「まだ立てるのか。ドラゴンの血が、君の能力を底上げしたのかな?」

「そうかも……しれませんね」


 リミナは答えると、俺の隣に立ち、槍を構えた。


「勇者様」

「……リミナ」

「大丈夫です」


 はっきりとした言葉。


「勇者様なら、勝てます」


 ――その声音は、俺のことを信じ、強い確信を秘めていた。それと同時に、俺の心の中で絶望が、消える。

 それと共に一瞬なぜ、と思った。けれどすぐに、俺と共に旅をしてきた従士だからこそ、そういう確信を抱いているのだと感じた。


 あるいは、俺が彼女の魔法使いとしての命を助けた恩返しかもしれない……どちらにせよ、彼女の言葉で緊張が解けた。それまで抱えていた不安が霧散し、負けられないという強い感情を抱く。


 同時に、もし俺が窮地に立たされたら、リミナは先ほどのように庇うつもりなのだろうと思った――そんなことはさせないという気概が、俺の心の中に満ちる。


「――来ます」


 リミナが声を上げた瞬間、黒騎士が動いた。今度こそ仕留めるべく、突撃を仕掛ける。

 俺はそれに応じるべく、走った。正直、この状況下で勝てるというのは疑わしくもあった。けれど、リミナの言葉で迷わなくなった……いや、彼女の言葉によって不安に包まれていた心が氷解し、自分自身を信じることができた、と言った方が良いかもしれない。


 可能性はある――壁を超える技術に、英雄アレスから教わった暖かな力。そして――これまで戦ってきた様々な経験が、俺にそう呼び掛ける。


 黒騎士が剣を振る。俺はそれを受けるか流すか僅かに思案した後……真正面から剣を弾いた。黒騎士はそれによりほんの少したじろぎ、その一瞬が、俺に魔力を収束させる機会を与えてくれた。


「――おおおっ!」


 叫び、そして力を込める。直後一つ予感を覚えた。いける――目の前の黒騎士を、倒せる。

 そして、剣を縦に振り下ろす。黒騎士は対応できずその一撃をしかと入り――






 綺麗に、両断した。






 黒騎士を倒した勢いのまま、俺はなだれ込むようにシュウへと迫る。視界には超然と立つシュウしか入っていない。一歩で大きく間合いを詰め、相手が何かをする前に縦に剣を薙ぐ――


「それが、あの力か――」


 シュウは呟いた瞬間、右腕でガードする。直後剣と漆黒の腕が噛み合い、僅かに止まった。しかし、

 俺は絶叫と共に剣を振り抜く。途端、視界に黒い破片が舞った。それがなんなのかを把握する前に、今度は――



 鮮血が、宙を舞う。



「見事だ」


 シュウの声が聞こえた。俺は止まることなくさらに剣を放つ。今度は横に一閃。それを彼は左腕で防ぎ、さらに黒い破片が弾ける。

 漆黒の腕を構築する物が砕かれ、刃が皮膚まで到達しているのだと理解し――同時にシュウは後方に下がり腕をかざした。


「弾けろ――!」


 それまでの淡々とした口調とは異なる、大声。瞬間光の粒子が生まれ、俺へと降り注ぐ。


 ならば――俺は魔法に対し左腕をかざし、氷の盾を形成する。訓練したとはいえ、氷は彼の攻撃を防げるような強度を成してはいない――はずだった。少なくとも、これまでは。

 けれど、俺はいけると頭の中で断定した。剣の力と暖かな力を組み合わせれば――訓練ですらできなかった所業だったが、俺はこの場でできると思い、防御した。


 一瞬で氷の盾が腕をまとい、さらに全身をカバーするような大盾に変化する。そこへ光の粒子が突き刺さり――防ぐことはできたが、衝撃により大きく後退する。


「くっ……!」


 呻きながらどうにかバランスを崩さないよう踏ん張りを入れる。その行動は功を奏し転倒することもなく、なおかつ魔法を防ぎ切った。

 そして氷の盾が崩れる。魔法を受け相殺された。壊れていく盾の奥で俺はシュウを視界に捉える。目を細め、俺を警戒する素振りを見せていた。


「君には、伝えていたということだな」


 シュウが語る――君『には』……ラキは教わっていなかったと言いたいのかもしれない。

 俺は剣を構え直し、力を込める。剣は通用する。シュウからの攻撃を最大限警戒しなければならないが、勝機はある――


 その時、シュウの視線が俺の奥を捉える。


「……想定の何倍も、回復が早いな」


 早い……? 眉をひそめようとした直後、突然俺の右隣に人影が。


「援護するよ」


 ナーゲンだった。さらに左にはアクアがやってくる。麻痺が治ったらしい。


 視線を一瞬だけ巡らせると、ノディを介抱するジオや、俺の後方に陣取るルルーナやカイン、そしてマクロイドの姿。リミナもその場所にいて、戦う体勢をとっていた。

 加え、残るフロディアはナーゲンの隣に立つ。杖をかざし、俺を一瞥してから口を開く。


「魔法が来たら相殺する。存分に戦ってくれ」

「そして、接近戦なら私達がフォローするわ」


 アクアが述べる――彼らは全員、俺を援護する態勢となっていた。


「そういえばシュウ。お前はさっきこう言っていたな」


 そこへ、今度はルルーナの発言が。


「腕の一つでも犠牲に、と。確かにお前の攻撃を押し留めるために、腕がもげようと食い止めるのは有効な手だろうな」


 本気で腕を犠牲にするつもりなのか……? 俺は気になったが振り返るのはやめにした。代わりに、シュウを見据える。

 次で、決着をつける……そう決断し、一層剣に力を込めようとした――


「……元々、壁を超える技術というのは聖剣に眠る力の応用だった」


 そこで、シュウが突然語り出す。


「聖剣は、過去魔族に対抗する存在が生み出した産物だろう……それが人間なのかドラゴンなのか……神なのかはわからないが、私はその魔力を解析し訓練により扱えるようにした」

「急にどうした?」


 マクロイドが訝しげに問う。けれどシュウは応じず、話を続ける。


「だが、唯一その力は魔王に通用しなかった。私達も戦い始めて気付いたのだから間抜けとしか言いようがなかったが……ともかく、攻撃が通用しないことから窮地に立たされた」


 彼は、魔王との決戦のことを語っている……?


「私やリデス。そしてザンウィスは絶望し、退却しようとする中で、アレスだけはあきらめなかった。執拗なまでに魔王と戦い……そして、今レン君が使用した技法――つまり、魔王を滅する力を戦いの中で完成させ、倒した。レン君がやったことは、まさにそれだ。聖剣に備わる壁を超える力と英雄アレスが生み出した力を組み合わせ、私に傷を負わせた」


 そう言うと、シュウは右腕をこちらに向けた。威嚇するような所作だが――何か察したらしいナーゲンが問い掛ける。


「逃げるための時間稼ぎか?」

「それも多少ながらある。けど大部分は、とある理由からだ」


 シュウは微笑を浮かべ、なおも続ける。


「君達には、魔王を滅した力を手に入れてもらいたかった」

「……何?」


 わけがわからず問い返すと、シュウは肩をすくめた。


「意味がわからないかもしれないが、私達にとって必要なことだ。ラキ君すら持っていなかったと聞いたから、聖剣を利用して解析し、君達に教えようと思ったんだが」


 ……理解できない。魔王を復活させようとしながら、なぜ魔王を滅ぼした力を俺達に与えようとする?


「けどまあ、レン君が持っていたなら私は必要ない……実験もできたし、結果の上々だ。この場は、お開きとしよう」

「逃がすと思うのか?」


 フロディアが顔を険しくさせながら杖をかざす。それにシュウは彼と目を合わせ、


「逃げに徹すれば、可能だと思うぞ?」


 ――瞬間、俺は誰に言われるわけでもなく駆けた。合わせるように他の面々が追随。そして、


 間合いに入った直後、シュウの立つ地面が発光。そこへ俺が剣を振り下ろし――その間に彼の姿が光に包まれ――消え去った。


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